アケアカ版『パックランド』にて「ミズ・パックマン」の見た目が違うとの報告。丸い淑女を巡る大人の事情か
「アーケードアーカイブス」版『パックランド』にて、とあるキャラクターの姿がオリジナル版から変化したとして注目を集めている。女性版パックマンともいえるキャラである「ミズ・パックマン」の姿が、違う女性キャラへと変化しているのだ。その背景には、彼女の出自に端を発する複雑な事情があると見られる。海外メディアPolygonなどが伝えている。
「アーケードアーカイブス」は、かつてリリースされたアーケードゲームをコンソール向けにダウンロード販売するサービスだ。株式会社ハムスターと日本一ソフトウェアが手がけ、オリジナル版の忠実な再現を目標としている。先日4月7日には、ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント、以下バンダイナムコ)が1984年にローンチしたアクションゲーム『パックランド』が、「アーケードアーカイブス」よりPS4/Nintendo Switch向けにリリースされた。
ところが、復刻された『パックランド』をプレイした一部ユーザーたちが、ある違和感に気づきSNS上などで報告し始めた。女性キャラ「ミズ・パックマン」の姿が、見慣れぬキャラクターへと変化しているのだ。国内外のユーザーがこの変化に反応し、背景にある事情について疑問や推測を示している。アーティストのNicholas Caballero氏は、変更前と変更後を比較する画像をTwitter上に投稿。そちらを確認すると、赤いリボンが印象的な「ミズ・パックマン」が、復刻後にはデザインの違う女性キャラになっている様子が見て取れる。こうした変化の原因として有力なのが、「ミズ・パックマン」の権利にまつわる事情だ。
「ミズ・パックマン」が初登場した作品は、1982年に米国でローンチされた作品『Ms. Pac-Man』だ。同作の原点は、『パックマン』に手を加えた『Crazy Otto』なる非公式改造ゲームだった。制作したのは、マサチューセッツ工科大学の学生らによって立ち上げられたスタジオGeneral Computer Corporation(GCC、現在は解散済)である。
『Crazy Otto』は紆余曲折ありつつも、当時『パックマン』の北米圏展開を手がけていたMidway Gamesに認められ、最終的に『Ms. Pac-Man』となり公式作品としてローンチ。現地にてオリジナルの『パックマン』を凌ぐほどの大ヒットとなった。その後には、「ミズ・パックマン」はナムコ発の『パックマン』作品にもしばしば登場している。つまり、「ミズ・パックマン」はいわば亜流から本家に仲間入りした、やや珍しい経緯を歩んでいるのである。そして1983年には、GCCとMidwayの間で係争が発生。この係争は「GCC側が、硬貨を利用する『Ms. Pac-Man』ゲーム筐体が生産されるごとにロイヤリティ(使用料)を得る」とのかたちで決着したと見られる。しかし、「ミズ・パックマン」を取り巻く状況ついては、さらに複雑な様相を呈することになる。
事態がさらに大きな変化を見せたのは、2000年台のことだった。GCCの権利承継人たちとバンダイナムコの間で、「ミズ・パックマン」のロイヤリティにまつわる係争が起こったのである。この結果として、硬貨を使うゲーム筐体のみならず、あらゆる「ミズ・パックマン」ゲーム展開において、GCCの権利承継人たちへのロイヤリティが発生するよう契約内容が変化したようなのだ。こうした事情のためか、2014年発売の『パックマン』シリーズのコンピレーション作品『PAC-MAN MUSEUM』では『ミズ・パックマン』のみ別売りDLCとして販売されている。
そして、さらにバンダイナムコと「ミズ・パックマン」の分断を深めたのが、2019年の出来事である。BANDAI NAMCO Entertainment Americaが、ゲーム機器メーカーAtGamesを相手取り、著作権侵害を訴える訴訟を起こしたのだ(関連記事)。
争点となったのは、AtGamesが手がける『ミズ・パックマン』の小型アーケード筐体だった。バンダイナムコ側は、AtGamesが許諾を受けずしてこの商品を展開しようとしていると指摘。また、AtGamesが手がける機器「Bandai Namco Flashback Blast!」の製造に際して、契約に反してNES(海外版ファミコン)版のゲームを収録したなどとして、AtGamesのビジネス慣習を批判していた。また、AtGamesのこうした手法については、一部ファンなどからも批判の声があがっている。なお、こちらの係争は解決しているものの、AtGames側が「Bandai Namco Flashback Blast!」販売権を保ったこと以外の情報は明らかになっていない。
そして実をいえば、AtGamesは同時期に、GCCがもっていた「ミズ・パックマン」の全権利を買収したと発表している。この動きについても、事前からバンダイナムコは反対の意思を示していたようなのだ。そのため現在、「ミズ・パックマン」の知財権等はバンダイナムコが保持しているものの、GCCとの契約に端を発するロイヤリティ受け取り権はAtGamesがもっている。つまり、権利元のバンダイナムコがゲーム作品『ミズ・パックマン』を出そうとすれば、因縁あるAtGamesに金銭を支払わなければならない奇妙な状況にあると見られるわけだ。そのためバンダイナムコが、「ミズ・パックマン」から距離を取ろうとしているとは考えられる。
前述の『PAC-MAN MUSEUM』に作品を追加した来月発売予定の『PAC-MAN MUSEUM+』では、『ミズ・パックマン』が収録されないことが明らかになっている。また、今回の復刻版『パックランド』で「ミズ・パックマン」に成り代わったキャラクターは、『PAC-MAN MUSEUM+』で登場予定の新キャラクター「パック・マム」に類似している。「アーケードアーカイブス」での『パックランド』の復刻にあたり、「ミズ・パックマン」から距離を取るバンダイナムコ側から、移植担当元にキャラ差し替えなどの対応が求められた可能性はあるだろう。
権利と金銭の絡む事情のためか、『パックランド』からその姿を消してしまった「ミズ・パックマン」。オリジナル版の再現を求めるファンにとっては、残念な出来事だ。しかし、「アーケードアーカイブス」によって蘇った『パックランド』そのものの面白さは、現代のプレイヤーにもきっと伝わるはずである。「ミズ・パックマン」を取り巻く問題が解決し、彼女が再び公式に姿を現す日にも期待したい。