クラファンで1000万円集めたシューティングゲーム、制作費用未払いとして開発会社が企画者を訴訟。はたしてゲームは完成するのか

国内のデベロッパーである株式会社ピクセルは3月7日、作曲家・古川元亮氏に対して訴訟を提起していたことを発表した。同社はシューティングゲーム『スチームパイロッツ』の開発をめぐり、古川氏とトラブルがあったことを伝えていた。

国内のデベロッパーである株式会社ピクセルは3月7日、作曲家・古川元亮氏に対して訴訟を提起していたことを発表した。同社はシューティングゲーム『スチームパイロッツ』の開発をめぐり、古川氏とトラブルがあったことを伝えていた。 

『スチームパイロッツ』はPC向けに開発されてきた、縦スクロールのシューティングゲームだ。元コナミ所属の作曲家・古川氏および、そのマネージャー雨宮天気氏によりプロジェクトが立ち上げられた。自機としては、ハンマーやスピードバードなど、異なる武器を駆使する「七つの翼」を使い分ける。難易度としてはイージー/ノーマル/ハードの三段階が用意され、シューティング初心者から上級者まで幅広く対応するとしていた。本プロジェクトは2019年よりクラウドファンディングを開始し、二度の資金集めを実施。合計で1000万円を超える資金獲得に成功している。
   

https://www.youtube.com/watch?v=b20N0yIxSaY

 
同プロジェクトには、著名なクリエイターが多数参加。そうしたなか、株式会社ピクセル代表を務める佐々木英州氏が参加していた。今回公開された声明によれば、佐々木氏が古川氏のプロジェクトに参加したのは2019年6月のこと。もともと古川氏は別のゲームのプロジェクトを進行していたが、権利問題が原因で開発者が降板。困難な状況にあるとして、代わりに佐々木氏に開発の援助を求めたという。 

このとき、古川氏が開発費をただちに準備できないとの理由から、ゲームの販売により得られた利益を折半することで合意。ゲームの仕様については、イベントでの販売を前提として短期開発可能な規模の、シンプルなシューティングゲームであると佐々木氏は認識していたという。そして、この時点での契約は、口頭にておこなわれていた。
 

 
しかし、その後プロジェクトが肥大化。『スチームパイロッツ』の企画として始動し、開発規模が拡大した。このとき不足分の開発費を捻出するため、ゲーム開発費の調達を目的としたクラウドファンディングが古川氏によって実施。佐々木氏も目標達成に協力することに同意したという。 

これを踏まえ、クラウドファンディングの調達資金に関して、ピクセルは開発費の支払いを要求。古川氏のマネージャー・雨宮天気氏より、支払いの合意を得たという。しかしその後、クラウドファンディングプラットフォームMakuakeから古川氏への送金が完了したものの、ピクセルに対する支払いはおこなわれなかったとのこと。 
 

 
開発期間中においては、請負当初に古川氏が提示した条件である利益折半の支払いの想定についての説明もなかったという。そのため2021年7月、ピクセルは初期売上見込みなど詳細の説明を要求した。これを受けて、古川氏から説明を実施。そのなかでは、新たな条件変更なども提示された。ピクセルとしては不本意な部分もありつつ、雨宮氏による開発費支払いの合意があり、開発も終盤に差し掛かっていたため参加の継続を決めたという。 

しかしその翌8月、古川氏側から膨大なデータが送付されてきたため作業が増大。ピクセルとしては、開発費が出ていないなかでの開発続行が限界となったという。そのため、2021年11月24日付で内容証明を送付し、『スチームパイロッツ』完成分のデータおよび成果物の権利引渡しを条件に、報酬の支払いを請求したそうだ。 
 

 
こうしたなか、ピクセル・古川氏双方の代理人を通した交渉の中で、ピクセルは古川氏の質問や要望に対し指定期日通りに回答したと主張。しかし2022年1月にピクセルから古川氏に送った質問に対しては、返答がないまま現在に至ったという。そして今年1月、ピクセルは『スチームパイロッツ』の制作から離脱することを発表した。続く2月16日、訴訟を提起。原告をピクセル、被告を古川氏として、主位的に契約の債務不履行に基づく損害賠償請求、予備的に商法512条に基づく報酬請求として371万2500円の支払いを求めた。訴状は仙台地方裁判所に提出されている。なお、請求されている損害賠償額は正規の開発費とは異なるとのこと。 

本件に関し、弊誌はピクセルに対し問い合わせを送った。回答によると、ピクセルが『スチームパイロッツ』開発にて担当した業務は多岐にわたるという。ゲームデザイン・ディレクション・仕様策定・クリエイター仲介・プログラム・ドット絵・ラフイラスト制作・キャラクター原案・メカデザイン・アニメーション制作・ SE・セリフの実装・UIデザイン・ロゴデザイン・PV制作その他と、非常に広範な業務を請け負っていたそうだ。
 

 
また、こうしたなかで制作された成果物に関し、古川氏側は権利を破棄。現在の権利はピクセル側にあるとのこと。そのため、クラウドファンディングページに掲載されている動画や画像の内容のゲームが支援者に届く可能性は、訴訟の結果に関わらずかなり低いという。さらに、Makuakeから古川氏に送金された支援金1000万円以上について、ピクセルから古川氏へ使途を明かすように、代理人より1月に質問状を送付しているとのこと。しかし本件については、いまだに返答がないという。 

ピクセルは自社タイトルとして、アクションゲーム『焔龍聖拳シャオメイ』や横スクロールシューティング『アステリアの翼』を開発中。しかしこれらのタイトルについては、2021年11月に発売延期を発表していた。弊誌の問い合わせに対し、ピクセルはこれら作品の開発遅延の原因が、『スチームパイロッツ』開発による業務圧迫であったことを明かした。 
 

 
ピクセルが弊誌に伝えたところでは、古川氏からの連絡は電話によっておこなわれてきたため、契約書などが残っていない状況だという。文書での記録が残っていないこともあり、今回の裁判の行方がどちらに転ぶかは不透明だ。 

なお本件に関しては3月5日、古川氏からクラウドファンディング支援者への告知があったことがユーザーにより伝えられている。その告知によると、『スチームパイロッツ』プロジェクトは新たなプログラマーを迎えてゲーム開発を続行するという。ただし、同プログラマーは現在別の案件に対応中のため、『スチームパイロッツ』へのコミットは早くて4月後半になるとのこと。古川氏としては、『スチームパイロッツ』完成は約1年後を見込んでいるという。弊誌は、今回の提訴に対し古川氏からのコメントも求めている。 

【UPDATE 2022/03/07 22:45】
株式会社ピクセルからの補足によれば、同社が古川氏に対し支払いを要求した件および、雨宮氏からの同意を受けた件に関しては、グループチャットの記録が残っているとのこと。今後の裁判における争点のひとつとなりそうだ。

【UPDATE 2022/03/08 11:24】 

株式会社ピクセルは3月7日、古川氏との話し合いが困難であると判断した理由について明かした。ピクセルによれば、同社が11月に送付した報酬請求に対し、古川氏は代理人を立てて文書を送付してきたという。 

古川氏の主張としては、開発中止は共同制作契約に対するピクセルの債務不履行である。そのため、契約は解除。また制作を他者に依頼せざるを得ず費用が別途発生することとなったため、損害賠償として758万3018円をピクセルに請求する。ただしピクセルが考案した名称などを使用することにより、損害賠償の減額は可能である、とのこと。 

こうした古川氏の主張に対し、ピクセル側は反論。「共同制作契約」という言葉は送付された文書で初めて聞いた言葉であり、記録には残っていないとしている。また、契約解除が伝えられた時点でピクセルは古川氏がゲームを破棄したとみなしているものの、ピクセルとの権利関係の交渉はされていないようだ。そのため、古川氏がクラウドファンディング支援者に伝えた、後任のプログラマーに渡したというデータの内容によっては、別途法的措置を検討すると述べている。また、昨年末より新規開発費の見積もりなどを含め、古川氏側が求める損害賠償額の明細開示を求めているものの、いまだ説明はなし。以降、損害賠償請求も交渉もないとしている。 

弊誌の問い合わせに対し、古川氏からのコメントはまだ返ってきていない。 





※ The English version of this article is available here

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

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