PlayStation Studios開発者などが「フロム・ソフトウェア作品の最高のボス」を振り返る。フロム宮崎氏の思い出は、頭とシステムが異色のあいつ


ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)は2月5日、PlayStation Studiosの開発者たちが「フロム・ソフトウェア作品の最高のボス」について語る記事をPlayStation Blogにて公開した。多くの著名スタジオ開発者からコメントが寄せられている。また、フロム・ソフトウェア社長およびディレクター等を務める宮崎英高氏も、「もっとも誇りに思うボス」について語っている。
 

 
今回、SIEが公開した記事に含まれるのは、比較的近年のいわゆる“『ダークソウル』系”の作品群のようだ。具体的には『Demon’s Souls』や『ダークソウル』シリーズおよび、『Bloodborne』『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』のボスたちが選ばれている。デザインやゲームプレイの観点からボスを語る開発者らしい洞察のほか、多くのプレイヤーが思わず共感してしまいそうな内容まで幅広いコメントが寄せられている。以下に、日本語および英語版の同記事からの内容を抜粋してお伝えする。記事の性質上、シリーズ作品のネタバレが含まれる点には留意されたい。

最高のボスとして『ダークソウル3』から「冷たい谷の踊り子」 を挙げたのは、Randall Lowe氏。Bluepoint Gamesにて、リメイク版『Demon’s Souls』などのプロデューサーを務めた人物だ。同氏は、踊り子が天井から降り立つシーンを思い返すと今でも鳥肌が立つとコメント。戦闘についてもスムーズかつ熱狂的であるとして絶賛している。また、踊り子との戦いは『Demon’s Souls』の「つらぬきの騎士」を彷彿とさせ、より洗練された印象だったとのこと。同氏は踊り子を倒した後悲しい気持ちになってしまったといい、フロム・ソフトウェア新作『エルデンリング』でもまたスリルが味わえるよう期待を述べた。
 

「冷たい谷の踊り子」

 
『The Last of Us Part II』のリードエディターなどを務めたNaughty Dogの Joe Pettinati氏は、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』から「獅子猿」を挙げた。同氏は『Bloodborne』の「血に渇いた獣」も甲乙つけがたいとしつつ、獅子猿との戦いの体験を語っている。同氏は、獅子猿のもつ形態変化メカニックが深く印象に残っているようだ。切り落とされた首を片手に剣を持って立ち上がる姿に衝撃を受けたほか、第2形態の「半分ヘビ、半分バレエダンサーのような」モーションが特にお気に入りとのこと。また、不死にまつわる設定が、説明ではなく圧倒的なビジュアルのみで語られる点を称賛している。
 

*「獅子猿」

『Bloodborne』から「時計塔のマリア」 を挙げたのは、サンタモニカスタジオで『God of War Ragnarök』などに携わる環境アーティストのIvanna Liittschwager氏。同氏は、マリアとの戦闘について「彼女にリードされながら踊っているように感じられた」とコメント。印象的なステージデザインや音楽、キャラクターデザインに合うアニメーションなどを称賛している。また、複数段階にわたるバトルもお気に入りのようだ。
 

「時計塔のマリア」

 
また、初代『ダークソウル』およびDLCから「騎士アルトリウス」および「灰色の大狼シフ」も挙げられている。シフについては、Nixxes Softwareでアニメーターを務めるTom Clercx氏が推挙。主人に忠を尽くすそのバックストーリーを知り気持ちが沈んだとのこと。そして、各ボスたちが深い背景をもっている点を称賛している。アルトリウスをお気に入りに挙げたのは、FirespriteゲームデザイナーのMatthew Kemp氏。獣の如く獰猛なアルトリウスの戦闘スタイルに触れつつも、対戦ステージおよびアルトリウスのアートスタイルがもっとも強烈だったとコメント。悲劇的なバックストーリーに涙したと伝えている。
 

「騎士アルトリウス」

 
そして、PlayStation Studios外からはフロム・ソフトウェアの宮崎氏もゲスト的に寄稿。同氏が挙げたのは、『Demon’s Souls』より「黄衣の翁」だ。こちらは、Insomniac Gamesにてアソシエイトコミュニティマネージャーを務めるThomas Hart氏も推挙している。まず、黄衣の翁はやや特殊なボスである。というのも、同作オンラインプレイでは、黄衣の翁が「対人戦」になるメカニズムがあるのだ。あるプレイヤーが黄衣の翁に挑むと、別のプレイヤーが黄衣の翁として召喚される仕組みだ。そのため、熟練のプレイヤーなどが召喚された場合には、極めて厳しい対人戦に発展するシステムとなっている。

Hart氏は、自身のプレイスタイルによく似た戦術を取り、縦横無尽なローリングとパリィやバックスタブを駆使する黄衣の翁に敗北。「なんて凄いAIなんだ」と感銘を受けたという。しかし、2回目の戦闘で黄衣の翁はまったく別のスタイルで攻めてきた。ふたたび返り討ちにされたHart氏は、インターネットに攻略法を求めたとのこと。そこで、上述の対人戦システムを初めて知り大変な衝撃を受けたそうだ。

宮崎氏は、黄衣の翁について最高のボスではなく「もっとも誇りに思うボス」として名前を挙げている。同氏によれば、黄衣の翁のシステムやデザインには、当初多くの反対の声もあったとのこと。実装も難しく、なかなか理解を得られない状況だったようだ。一方で宮崎氏は、ビジュアル面やゲームプレイ面含め、黄衣の翁のコンセプトをどうしても形にしたかったとのこと。そして最終的に、黄衣の翁は困難を乗り越えてゲームに実装された。同氏は「ファンが喜ぶような、魅力的なボスに仕上がったと思う」と述べている。

また宮崎氏は、『Demon’s Souls』開発中には多くのゲームメカニズムのデザインに苦慮したとのこと。今では恒例となっている非同期マルチプレイ要素の実装なども複雑だったと回想した。そして、黄衣の翁はそうした開発の苦難や、それを乗り越える誇らしさを体現するボスであるとコメントしている。黄衣の翁は、同氏にとって野心的な作品実現の象徴的な存在なのかもしれない。
 

「黄衣の翁」

 
今回のSIEによる記事では、ほかにも多くのPlayStation Studios開発者たちが、フロム・ソフトウェア作品を彩るボスたちの思い出を語っている。また、宮崎氏のコメントについては英語版で読める。興味のある方は、ぜひご一読されたい。それぞれ着眼点もさまざまで、いかに多様なボスが登場してきたかをも物語る内容だ。今月2月25日発売の新作『エルデンリング』でも、すでに出色のボスたちがトレイラーなどで姿を現している。同作でも、記憶に深く刻み込まれるボスバトルが楽しめることだろう。