海外音ゲーのトッププレイヤー、ツールでの不正を暴かれる。懸賞金も獲得したスターが編集によるズルを自白
音楽ゲーム『ギターヒーロー』海外ファンコミュニティに、激震を走らせる事件が起きた。同シリーズおよびクローンゲームにおけるトッププレイヤーが、長らく不正をおこなっていたことが明らかになったのだ。コミュニティのスターだった人物の凋落に、ファンたちは落胆の色を示している。Kotakuなどが報じている。
『ギターヒーロー』は、海外を中心に広い人気を博した音楽ゲームシリーズだ。初作は米国にて2005年に発売。以降開発元や販売元が変遷しつつも、2010年の『Guitar Hero: Warriors of Rock』まで毎年新作をリリースしていた。その後は頻繁なリリースが止み、2015年の『Guitar Hero Live』が現行の最新作となっている。そのため、人気としてはやや落ち着いているものの、根強いファンコミュニティも存在する。また、現在Twitch配信などでは、オリジナルシリーズではなく、有志制作の『ギターヒーロー』クローンゲーム『Clone Hero』による配信が主流となっている。
本作の特徴は、専用のギター型コントローラーを利用した体感型プレイにある。コントローラーのネック部分には5つのボタンが配されているほか、ボディ部分にはギターをかき鳴らすように操作するバーや、トレモロアーム(ワーミーバー)を模した入力装置もある。プレイヤーは各ボタンなどを駆使して画面の譜面をなぞり、ギター演奏気分で楽しむのだ。そして、多くの音楽ゲームがそうであるように、本作には初心者では手も足も出ない超高難度な楽曲も多数存在する。
また、前述の『Clone Hero』では、ユーザー制作の楽曲・譜面もサポートしている。そのため、人間の限界に挑むような曲がコミュニティ内で共有されることもある。また、プレイヤーたちによる競技的な側面もあり、「高難度曲の 1.5倍速プレイでのフルコンボ」など、マイルストーンの世界初達成に情熱を注ぎ、しのぎを削るプレイヤーたちも存在する。そうした中で、特に卓越した技術と成績でコミュニティの羨望を集める人物がいた。『ギターヒーロー』プレイヤーのSchmooey氏だ。しかし、同氏は現在自身の動画をすべて削除し、謝罪文を残して引退している。同氏はツールなどを利用し、不正な記録を長らく投稿し続けていたというのだ。
スピードラン関連の情報を届けるYouTuberのKarl Jobst氏は2月1日、Schmooey氏の不正にまつわる動画を公開した。同動画では、コミュニティメンバーなどから寄せられた情報をもとに、Schmooey氏がいかにして引退に至ったかが事細かに語られている。
まず、Schmooey氏が『ギターヒーロー』関連の動画を投稿し始めたのは、2013年とのこと。同氏は現在20歳であり、子供の頃から活動していたことになる。そして2018年よりそのスキルがコミュニティの注目を集めはじめ、翌年からはすっかりトッププレイヤーの一角に収まった。そればかりか、ほかのプレイヤーには不可能なプレイを可能にするプレイヤーであったと伝えられている。また、同氏は楽曲のクリアにかけられた“懸賞金”なども獲得するエースであった。
Schmooey氏のあまりに高いスキルには、疑いの目も向けられることとなった。2020年に公開された動画では、Schmooey氏を映すウェブカメラの映像がほとんど暗闇になっている。そして、操作音は入っているものの、同じ曲を同じスピードでプレイした動画と比較して「操作音のテンポが遅い」との指摘が出たのだ。その後にも、「Schmooey氏が不正をしているのではないか」との声は折りに触れあがっていた。
ただ、そうした指摘はSchmooey氏に不正を認めさせるに至らなかった。理由としては、決定的な証拠がなかった点や、同氏を擁護するユーザーの多さもあったようだ。Schmooey氏は、実際に一定の実力を持ち合わせたプレイヤーだった。そのため、対面でほかのプレイヤーと技術を競い合うような動画も公開していた。多くのコミュニティメンバーの信頼を背景に、Schmooey氏の不正は見逃され続けてきたのだ。
しかし、昨年2021年12月15日。Schmooey氏の凋落を招く動画が、同氏自らの手によって投稿されることとなる。高難度楽曲「9 Patterns of Eternal Pain」の世界初フルコンボ動画だ。同楽曲には、極めて難しい操作パターンが含まれている。同動画は、当初ファンの称賛を受けたものの、トッププレイヤーたちはある違和感に気付く。動画に映されたSchmooey氏の操作方法では、フルコンボクリアは不可能だというのだ。
この綻びを発端として、コミュニティはSchmooey氏の過去動画を本格的に検証。数々の不正が暴かれていったのだ。結果として、Schmooey氏が約3年間にわたり、100本以上の動画で何らかの不正をおこなっていたことが明らかになった。具体的には、動画を継ぎ接ぎして1本の成功動画に見せかけるスプライスや、ゲーム内では楽曲速度を高速に設定しつつ、外部ツールでゲームスピードを低下させて難易度を下げるスピードハックなどだ。
Jobst氏の動画には、コミュニティメンバーがSchmooey氏と不正疑惑について話し合う様子も収められている。最初はしらを切ろうとした同氏だったものの、長時間にわたる追及の末、押し殺すような声で不正を告白している。それでも当初は煮え切らない様子だったものの、後には不正を全面的に認めて謝罪動画を公開。その後には、文章にて不正の詳細などを告白する声明を発表している。同声明のなかでSchmooey氏は、謝罪の意を述べつつ「不正なしでクリアした」記録のリストを公表。プレイで得た懸賞金についても返金すると伝え、“今の所は”SNS上などから姿を消すとしている。
今回の一連の騒動については、『ギターヒーロー』および『Clone Hero』コミュニティも暗澹たる思いのようだ。Jobst氏の動画が公開される以前の1月13日には、Schmooey氏の追及に関わった当事者でもあるGhostforce氏が告発の動画を投稿していた。同動画および上述の謝罪動画には、コミュニティメンバーからと見られる悲しみや怒りのコメントが寄せられている。正式な謝罪を発表した姿勢には一定の支持も集まっているが、ファンとしては一様に暗い思いが去来しているようだ。
『ギターヒーロー』シリーズおよび『Clone Hero』は、Twitchなど配信プラットフォームでも多大な人気を誇る作品ではない。しかし、作品を愛する根強いファンたちが集い、文化を今日まで守ってきている。そんな情熱あるトッププレイヤーたちが頂点を目指す世界で、不正プレイヤーが綺羅星の如く輝いていた事実は、多くのファンたちの心に影を落としたことだろう。