『ポケモン レジェンズ アルセウス』にて「電子音みたいな鳴き声」がファン反響呼ぶ。ピカチュウの「びがぁ!!」に衝撃走る

『ポケモン レジェンズ アルセウス』にて、ピカチュウの「鳴き声」がSNS上などで話題にのぼっている。本作のピカチュウはアニメなどで耳慣れた声ではなく、オリジナルの電子音で鳴くのだ。

Pokémon LEGENDS アルセウス(ポケモン レジェンズ アルセウス)』にて、ピカチュウの「鳴き声」がSNS上などで話題にのぼっている。本作のピカチュウはアニメなどで耳慣れた声ではなく、オリジナルの電子音で鳴くのだ。ユーザーが驚いた背景には、ピカチュウの鳴き声が辿ったやや特殊な経緯があった。
 

 
『ポケモン レジェンズ アルセウス』は、1月28日に発売された『ポケットモンスター』シリーズ最新作だ。ジャンルをアクションRPGとし、舞台は古の時代へ。プレイヤーは後の時代にシンオウ地方と呼ばれることになるヒスイ地方で、ポケモン図鑑作成に奔走する。本作では過去作に登場したポケモンたちが多数現れ、一部ポケモンは未来の世界では見られない古の姿「ヒスイのすがた」も見られる。バトルなどは歴代シリーズ作品のシステムを踏襲。一方で、アクション性を増した探索や、ボールをプレイヤーが直接投げての捕獲も可能など、新鮮な仕組みも盛り込んでいる。

そして今回、プレイヤーたちに驚きと共に迎え入れられたのが、ピカチュウの鳴き声だ。ここ最近の『ポケットモンスター』シリーズにおいて、ピカチュウは声優の大谷育江氏の演じる声が当てられていた。大谷氏はアニメ版「ポケットモンスター」においてサトシのピカチュウ役を演じており、可愛らしい声で「ぴかぴか!」と鳴く印象は多くの人に共通したイメージだろう。

ところが、『ポケモン レジェンズ アルセウス』においては、ピカチュウが電子音で鳴くのである。「ぴっかぁ」「ぴかぴか?」とかわいい声で意思疎通してはくれない。イベントシーン中では「びがぁ!!」と書き起こされているものの、耳から文字に起こせば「ビゴレゴゲン」というような、電子音めいた鳴き声をあげて電撃をお見舞いしてくるのだ。しかし見た目はピカチュウそのもの。かわいい姿からの荒々しい鳴き声のギャップは、なかなかインパクトがある。
 

 
そもそも、「ピカチュウは可愛い声」とのイメージはどこから来たのだろうか。第一にアニメのイメージ、そして第二に直近のゲーム本編での印象があるだろう。ピカチュウが本格的にゲーム内で「ぴかぁ」と可愛らしい声で鳴き始めたのは、ニンテンドー3DS向けに2013年リリースされた『ポケットモンスター X・Y』から。以降のシリーズでも、ピカチュウの声は基本的に大谷氏のボイス準拠となっている。

一方、『ポケットモンスター X・Y』より前のシリーズでは、ピカチュウは電子音で鳴き声を発していた。これは、ゲームボーイ版『ポケットモンスター赤・緑』から続いてきた声である。つまり、ピカチュウの声はそもそも電子音であり、『ポケモン レジェンズ アルセウス』にて原点回帰を果たしたともいえるのだ。また、『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ Let’s Go! イーブイ』より悠木碧氏の声がベースとなっていたイーブイの鳴き声についても、ピカチュウと同様にゲームボーイ風の電子音に戻っている。

ピカチュウが懐かしの鳴き声に戻った理由のひとつとしては、本作のコンセプトが考えられる。前述の通り、本作の舞台はシリーズ作品の時代を遥かに遡った過去の時代。人とポケモンが、まだ未来ほど親密になっていない頃だ。ピカチュウやイーブイの声が原点回帰したのは、ポケモンがまだ未知の生物であった時代を描き出すための、演出上の選択とも考えられるだろう。

『ポケモン レジェンズ アルセウス』にてピカチュウの鳴き声がオリジナルに戻ったのを受けて、SNS上ではさまざまな反応が見られる。耳慣れぬ電子音に驚くユーザーも散見される一方で、「元に戻って嬉しい」とする意見もある。『ポケモン』に触れた世代によって、感じ方も変わりそうだ。前述の通り、2013年からは主に大谷氏の声が「ピカチュウの鳴き声」として作品に盛り込まれている。低年齢層や最近ポケモンに触れたプレイヤーでは、「ピカチュウが電子音で鳴いていた」との歴史を知らないこともあるだろう。筆者が実際に小学生の娘に確認したところ、「ピカチュウの鳴き声は“ぴかぴかぁ”」との回答が得られた。考えてみれば当たり前とはいえ、やや隔世の感もある。

また、本作のピカチュウ初登場シーンは比較的序盤であり、ある種チュートリアルの一部でありつつも、重要キャラの性格をものがたる印象深い場面だ。多くのプレイヤーがしっかり見たであろうシーンでピカチュウが「びがぁ!!」と鳴いたのも、多くの反響を呼んだ一因だろう。
 

 
ちなみに、大谷氏によるボイスは『ポケットモンスター X・Y』以降という認識が強いが、実はゲームボーイ時代の作品でも聞くことができた。ゲームボーイ向けソフト『ポケットモンスター ピカチュウ』だ。同作は、初代『ポケットモンスター』の赤・緑・青をベースとした、『ポケモン』映画公開記念作品である。同作では、特殊なピカチュウが主人公の後ろをついてきてくれる。また、ピカチュウに話しかけると表情のカットインと共に、大谷氏の声をベースにした鳴き声で可愛くお返事してくれる。しかし、このピカチュウは特別なのだ。

同時期のシリーズ作品においては、基本的に電子音のような音色でポケモンたちの鳴き声が再生されていた。ゲームボーイの仕様上の制約も絡み、動物あるいはキャラクターらしいリッチな鳴き声の出力が難しかったのだ。以降、シリーズを重ねて機器の性能がアップしていくごとに、より自然な鳴き声の追加・変更がおこなわれていった経緯がある。つまり、ゲームボーイで大谷氏のピカチュウボイスを再現するのは至難の業だった。

そこで開発者は、大谷氏のボイスを簡略化したデジタルデータに落とし込み、調整の末にどうにか『ポケットモンスター ピカチュウ』での再生にこぎつけたのだ。また、ピカチュウの鳴き声再生パートでは、CPUの命令実行サイクル数までも考慮に入れた、緻密な設計がなされていたとの有志分析もある。ゲームボーイで「ぴかぁ」が聞けたのは、創意工夫と職人技の結果なのだ。当時プログラマーを務めており、現在『ポケモン』シリーズを統括する増田順一氏が、実装の苦労をブログにて語っている。
 

 
以降、『ポケモンスタジアム』など一部作品でも大谷氏ベースのピカチュウの鳴き声を聞くことはできたものの、本格的な変更は前述の『ポケットモンスター X・Y』を待つことになる。ピカチュウの可愛い鳴き声は、開発者の努力と技術の進歩に支えられていたのだ。『ポケモン レジェンズ アルセウス』はNintendo Switch向け作品であり、大谷氏の声をそのまま流しても何ら技術的障壁はない。それでもピカチュウがオリジナルの声で鳴く点からは、やはりポケモンの原点を描く意図を感じられる。

『ポケモン レジェンズ アルセウス』では、ほかにも多くのポケモンが鳴き声を聞かせてくれる。ピカチュウがとりわけ注目を集めた背景には、やはり大谷氏の声が印象に残っている点があるだろう。しかし、原点の鳴き声にも「でんきタイプ」を強く感じさせる特有の良さがある。どちらの声で鳴くにせよ、ピカチュウそのものの魅力が損なわれることがないのは確かだ。

『Pokémon LEGENDS アルセウス』は、Nintendo Switch向けに現在発売中。




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Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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