海外パブリッシャーが謎の“NFT(?)”をリリース。無料でもらえる、「No F*cking Thanks」な画像


パブリッシャーのWired Productionsは12月24日、“NFT”をリリースした。とはいっても、一般的にいうNFTのことではない。同社が公開したのは、はっきりとNFTに反対の姿勢を示すユーモラスな声明だった。
 

 
Wired Productionsはイギリスを拠点として、インディーゲームを中心に手がけるパブリッシャーだ。1人と1台による人類を救うための月探査を描く『Deliver Us The Moon』や、実話をテーマにして精神病治療の暗黒時代を描く『The Town of Light』のほか、重力無視・超高速のマシンで重火器アリのレースバトルを繰り広げる『GRIP: Combat Racing』などを送り出している。公式サイトでは「真のインディーパブリッシャー」を謳っており、インディー作品への情熱を感じさせるパブリッシャーだ。そんなWired Productionsが、突如として“NFT”をリリースしたのだ。ところが、同社がリリースしたのはユーザーがイメージするNFTとはまったく違うものだった。
 

 
まず、一般的にNFTといえば、Non-Fungible Token(非代替性トークン)のことを指す。ブロックチェーン技術を用いて、デジタルデータに所有権の証明を発行する技術のことだ。NFTの活用例としては、画像などのアート作品をNFT化しての販売などが挙げられる。ゲーム分野においても応用が模索されており、アイテムなどのNFT化を盛り込む作品も散見されるほか、大手のユービーアイソフトも先ごろ参入を発表している(関連記事)。

一方で、NFTは多くの懸念点も指摘されている。具体的には、運用にまつわる環境負荷や、その投機性に目をつけた悪質な事業者などが後を絶たないことが挙げられる。そのためNFTに不信感をもつユーザーも多い。FPSゲーム『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズのNFT展開が、発表直後にファンの猛反発に遭い即座に撤回される一幕などもあったほどだ(関連記事)。

Wired Productionsも、そんな時代の流れに乗ってNFTをリリースした……かと思いきや、実情は真逆。はっきりとNFTに反旗を翻したのだ。同社がリリースしたのはNon-Fungible Tokenではなく「No F*cking Thanks」だった。訳すのならば、「マジで結構です」或いは「クソいらねえ」のような意味合いになる。つまり、NFTの名前をもじりつつ、ゲームにNFTなど不要だときっぱり断じているのだ。
 

 
Wired Productionsの“NFT”紹介ページを閲覧してみると、 Non-Fungible Tokenに対する同社の厳しい見解が記されている。まず書き出しにて、「世界中がNFTに夢中になっていますが、我々の見解はシンプルです。NFTはマジでいりません」ときっぱり。そして、「プロダクトエボリューションとリテールメタモルフォシスのバイスプレジデント」なる舌を噛みそうな肩書をもつ重役、Bob Packer氏の画像を、同社なりのNFTとして無料で共有すると告知。「好きに使ってよ。いや本気で。マジ気にしないから」として、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと自由に利用してよいと宣言した。続いて、NFTはインチキであると断じつつ、今回の発表は同社なりのNFTに対する姿勢の示し方であると伝えている。
 

 
なお、今回“NFT化”されてしまったBob Packer氏については謎が多い。社員一覧にも顔を出しているものの、こちらでの肩書は「製品開発およびストア・イノベーションのVPリード」となっている。紹介文も意味不明ながら、どうやらパッケージングの武術である「クラティー(Kratee)」を修めたベテランであり、同社のすべての注文の梱包・確認し、「発送ダンスの儀式」なる行事を監督する立場だとわかる。もちろん、これらはすべて同社流のジョークであり、Packer氏は架空の社員だと思われる。一覧ページですぐ横にいるSteve Williamson氏が極めて似た風体をしているため、こちらが犯人かもしれない。なお、折角なので本稿でもPacker氏のNFT画像を最大限活用させていただいた。
 

 
今回の発表はWired Productions流のユーモアに彩られていた。しかし、そのメッセージははっきりとNFTに反対の姿勢を示している。ゲーム会社のNFT展開がファンに波紋を広げるケースが増えるなか、パブリッシャーとしていち早く立場を示したのだろう。一方で、NFT自体は単なる技術であり、必ずしも有害であると断じきれない側面もある。NFTがゲーマーに新鮮な体験をもたらす日は来るのだろうか。