SFおよびファンタジーの優秀作品に贈られる「ヒューゴー賞」を、ローグライク・アクションゲーム『Hades』が受賞した。米国ワシントンにて開催された第79回世界SF大会で発表がおこなわれた。『Hades』はビデオゲームとしては初のヒューゴー賞受賞作品となる。
ヒューゴー賞は、1953年に世界SF協会により創設された賞。対象となるのはSFやファンタジー作品のほか、幅広いジャンルの作品だ。サイバーパンクの起源とされる小説「ニューロマンサー」や、映画では「スター・ウォーズ」「バック・トゥー・ザ・フューチャー」「ロード・オブ・ザ・リング」など名だたる作品が受賞している。発表は毎年の世界SF大会(The World Science Fiction Convention、通称ワールドコン)でおこなわれる。そして、本賞には運営委員会がその年の特別賞を設けられる決まりがあり、今年は特別賞として「ビデオゲーム部門」が設けられた。長い同賞の歴史のなかで、初めてゲーム作品が対象となったのだ。
『Hades』は、その栄えある初の最優秀ビデオゲームの栄冠を戴いた。同作は、Supergiant Gamesが手がけるローグライク・アクションゲーム。ギリシャ神話の世界を舞台に、若き冥界の王子の出奔を描く作品だ。主人公であるザグレウスは、冥界の神ハデスの息子。彼は厳格で尊大な父への反発心ととあるきっかけから、冥界の最奥タルタロスの“実家”から地上への脱出を目指す。早い話が神の家出だ。当然、死者や巨人族を封じ込める冥界からはそう簡単には出られない。プレイヤーはザグレウスとして何度も死を経験して実家に連れ戻されながら、仲間や親族の助けも借りて力を蓄えていくのだ。攻略エリアはチャレンジごとに変化し、キャラクターたちとの会話も進捗や死因などに応じて豊富に変わっていく。
本作にはギリシャ神話に登場する多数の神々や生物が登場する。関係性などは必ずしもギリシャ神話には準拠していなものの、親しみやすく解釈して描き出されている。ギリシャ神話の神々はいずれも血縁関係にあるため、神話的な脱出譚も一種の巨大なファミリードラマとなるわけだ。また本作は、キャラクター同士の会話にも力が入れられており、膨大なテキスト量を誇っている。小さな会話の積み重ねが、どんどんキャラ同士の関係性を明らかにし、物語を紡いでいくのだ。そうした秀逸なストーリーテリングも多くの投票者の心を掴み、今回の受賞に至ったのだろう。
なお『Hades』は今年、ヒューゴー賞と双璧をなすSF・ファンタジー作品賞である「ネビュラ賞」のゲームライティング部門も受賞している。ネビュラ賞は、アメリカSFファンタジー作家協会の投票により受賞作が決まる。一方で、ヒューゴー賞は世界SF大会に登録したファンの投票により決定される。つまり、『Hades』はファンと作家双方から高い評価を得たといえるだろう。ヒューゴー賞のビデオゲーム部門については今年限りと見られる特別賞だ。ビデオゲーム部門が常設されないかぎり、ゲーム作品の両賞ダブル受賞は二度とない栄誉となるかもしれない。
今回の受賞で作家としてクレジットされたのは、『Hades』にてライターなどを務めたGreg Kasavin氏だ。また、同氏は本作にてキャラクター「ヒュプノス」の声優も担当している。今回の受賞を受けてKasavin氏は、自身のTwitterアカウントにて動画を投稿。ヒューゴー賞を受ける名誉と喜びを語っている。また、同氏はSupergiant Gamesの同僚たちや、友人と家族たちに感謝の言葉をコメント。そして、天上と地下にいるギリシャ神話の神々たちにも感謝を述べている。
『Hades』は、PC(Steam/Epic Games Store)およびPS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S/Nintendo Switch向けに発売中。Xbox Game Passにも提供中だ。日本語表示にも対応している。