育成ローグライトRPG『モン娘ぐらでぃえーた』は約5000本売り上げた。売るためにしたことや、売り上げの感想などを聞いた

個人開発者の湊あおい氏は12月15日、自身のブログを更新。その中で、『モン娘ぐらでぃえーた』の売り上げが“5000本くらい”であることを明らかにした。弊誌ではこの記事の内容を要約しつつ、追加で質問をした。

個人開発者の湊あおい氏は12月15日、自身のブログを更新。その中で、『モン娘ぐらでぃえーた』の売り上げが“5000本くらい”であることを明らかにした。湊氏は、発売においてどのような取り組みをしたのかなど、自身の試みについても振り返っている。弊誌ではこの記事の内容を要約しつつ、追加で質問をした。それらもあわせて、『モン娘ぐらでぃえーた』のデータを紐解いていこう。

『モン娘ぐらでぃえーた』は、カードを使って最強のモンスター娘を育成し、闘技場制覇を目指すローグライトRPGである。本作の舞台では18年前に戦争が終わって以来、亜人への迫害が続いていた。さまざまな事情から亜人たちにできる仕事も限られているが、闘技場には身分の別け隔てなく誰でも参加可能で、制覇すると安定した暮らしが手に入るという。亜人復興協会に所属する新人トレーナーのコメットと、モンスターブリーダーの主人公は、モンスター娘とともに闘技場へ挑戦。モンスター娘に安定した暮らしを送ってもらうべく、闘技場のランク3制覇を目指して3人1組でトレーニングと戦いに励む。


『モン娘ぐらでぃえーた』は、ルールはシンプルながら、奥深さを兼ね備えている。モンスター娘を育てるというユニークな題材だけでなく、パラメータやAPなど数字が絡んだカード要素も複雑に絡み合っており、カジュアルながらも熱中して遊ぶことができるわけだ。同作は、BOOTHやDLsite、SteamやiOS/Androidとさまざまなプラットフォームに展開されているが、いずれの場所でも定価は500円前後とお安い。Steamでのレビューも数は少ないものの、好意的な意見も多い。このゲームは結果として5000本売れたようである。この数字を成功と捉えるか失敗と捉えるかは難しいところ。湊氏はそうした事情も込みで同作の情報を明かしてくれた。

開発費の回収、価格について

まず『モン娘ぐらでぃえーた』の開発メンバーは、基本的に湊氏ひとりだという。ただし、外注やお手伝いも利用したそうだ。湊氏に開発費を回収できたかと聞いたところ、「外注費や開発機(動作確認の端末やビルド用のPC等)の分は回収できた」との回答が返ってきた。前述したように、ゲームの価格は約500円と安価。数が多く出ても、収益が高いとは限らないわけだ。それでもApp Storeリリースのために購入したMacなど機材の購入費用などは回収できたようである。生活費などはカバーできなかったようだが、それは同作リリース時に湊氏がサラリーマンであったことを含め、あまり気にしていないようだ。こうした事情を踏まえ、湊氏は現在の数字は「十分すぎる売り上げ」だと感じているとのこと。

なお、500円という価格については、プレイしたユーザーからも安いと寄せられることが多いが、湊氏本人としては「人に勧めやすく、自分もこの値段帯のゲームを買い漁るのが好きなので適正だと信じています」と語った。

複数プラットフォーム展開の意図、そして売り上げ

『モン娘ぐらでぃえーた』については、さまざまなプラットフォームでリリースされた。まずはBOOTHとDLsiteにて配信され、その5か月後にSteamおよびiOSとAndroidでリリースされた。このリリースについても意図があったという。なぜまずBOOTHとDLsiteで配信したのか。それは早期アクセス配信的な意図があったようだ。


意図としては、まずはユーザーの少ない場所でリリースし、反応を見ながらゲームの完成度を高め、SteamやApp Store、Google Playといった大きな場所でリリースしたかったという。完成度が低いまま大手プラットフォームでリリースするとマイナスイメージをもたれかねない。そしてそのイメージを払拭するのは困難。またSteam早期アクセス配信し、大量にフィードバックがきた場合、それらを受け止めきれないとも考えていたそうだ。それゆえに、ユーザーも少なくゲームを販売するのに手数料もいらない、ほどよく小さなBOOTHとDLsiteからリリースを始めたようである。

なお、5000本の売り上げ比率については、DLsiteが1600本で、次にSteamとのこと。プラットフォーム間で、大差があるわけではないそうだ。Steamは日本語のみ対応となっており、国内ユーザー向けに販売されていることを考慮する必要があるが、SteamではなくDLsiteが売上本数のトップとなっている点は非常に興味深い。

売るために何をしたか

なおマーケティングにおいては、湊氏はさまざまな試みをしていたそうだ。スマホゲームの『放置系ハクスラモンスターズ』とコラボをしたり、デジゲー博や、INDIE Live Expoに参加したり、セール時は丁寧に宣伝画像を作って添えたり。感想ツイートやレビューを紹介したり。かなりマメに情報発信をしているわけだ。


これらのPRの中で、もっとも効果の高さを感じたのは、予約開始のプレスリリースを送付した時であるとのこと。プレスリリースを送付したことで、予約注文やウィッシュリストの数が“激増”したという。そのほか、App Storeの有料ゲームのカードジャンルランキングで1位になったり、有料アプリランキング総合5位になった際には、大きな効果を感じられたそうだ。またINDIE Live Expo Winter 2021に出展した際も、同時にセールがおこなわれた関係でリリース時の販売数の半分程度売れ、効果を感じられたようだ。

マーケティング活動は個人規模のものとしてかなりしっかりと考えられており、情報発信はマメ。なにより『モン娘ぐらでぃえーた』が中身のしっかりしたゲームである。このようなさまざまな努力によって、『モン娘ぐらでぃえーた』は5000本売り上げを達成した。前述したようにこの数字をどのように捉えるかは人によって解釈は変わるものの、基本的にひとりで挑戦したプロジェクトであり、名のないクリエイターの完全新作でもある。そしてなにより湊氏本人が満足していることから、同作の数字は成功と呼んでいいだろう。

なお湊氏は、個人開発のノウハウ本としては、弊社アクティブゲーミングメディアのPLAYISMも監修した一條貴彰氏の著作である「インディーゲーム・サバイバルガイド」をオススメしている。開発者としてもマーケッターとしても知見のある、一篠氏のノウハウが詰められている。

湊氏の『モン娘ぐらでぃえーた』の売り上げについては、あくまでひとつの例に過ぎないが、さまざまな試行錯誤とその結果が見られるケース・スタディとしてなかなかに参考になるだろう。湊氏は『モン娘ぐらでぃえーた』をもっと面白くするために頑張りつつ、新作に着手しているという。ノウハウを蓄積し、さらに飛躍しようとしている湊氏の活躍に期待を寄せたい。

『モン娘ぐらでぃえーた』は、PC(Steam/DLsite/BOOTH)/iOS/Android向けに配信中だ。




※ The English version of this article is available here

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

記事本文: 5199