期待集める不気味ホラー『Scorn』発売延期の“告知内容”に批判寄せられる。出資者らは不満げ

 

デベロッパーのEbb Softwareは11月5日、現在開発中のホラーアドベンチャーゲーム『Scorn』について、発売時期を2022年に延期することを、Kickstaterキャンペーンの出資者向けに明らかにした。正式には12月10日に公表するとのこと。本作は、これまで2021年秋発売とされていたが、同スタジオからの続報は約1年前から途絶えた状況にあった。


『Scorn』は、H.R.ギーガーやズジスワフ・ベクシンスキーの作品から影響を受けたグロテスクなビジュアルが特徴の、一人称視点のホラーアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは、迷路のように入り組んだ不気味な環境に迷い込み、異形のモンスターと戦いながら探索を進めていく。武器には生き物のような奇妙な銃をもち、さまざまなスキルも獲得可能。弾薬には限りがあるため、緊張感あるバトルと戦略の選択を求められる。また、この悪夢のような世界は、それ自体が生きた存在として表現されており、環境を通じて物語を感じ取っていくゲームプレイになるという。

本作は2014年に開発がスタートし、同年にKickstarterにて資金獲得を目指すも失敗。しかし2017年にふたたびKickstarterに挑戦し、約5600人から約2500万円の出資金を獲得することに成功した。その後、Kowloon NightsやKepler Interactiveといったゲーム専門ファンドからの投資も得て、PC/Xbox Series X|S向けに開発が進められている。ただ、最後に本作の開発状況が伝えられたのは、以下のゲームプレイ映像が披露された2020年10月まで遡る。

続報が途絶えたことで、ファンからは『Scorn』の開発状況を不安視する声も聞かれたが、今年8月に開催されたイベントgamescomにて放送された、Xbox Game Passの広告のなかで2021年秋に発売予定であることが判明。ただ、開発元Ebb Software自身は沈黙を守ったままだった。そうしたなか先日11月5日になって、2022年への発売延期と、状況を説明する声明がKickstaterでの出資者向けに発表された。


同スタジオによると、約1年にわたって続報を届けてこなかったのは、何か問題が発生していたわけではなく、ただ本作の開発に集中していたためとのこと。優先すべきは早く本作をリリースすることであり、全力で開発に取り組むために、意図的に情報更新をしなかったそうだ。

ここでは『サイバーパンク2077』を例に挙げている。同スタジオいわく、ファンの盛り上がりや株主からのプレッシャーにより、CD Projekt Redは開発者にマーケティングコンテンツの制作に時間を取らせてしまい、発売日までにゲームの問題を修正しきれなかったのだろうとしている。同スタジオはまた、常にゲームの情報を提示し、未発売の作品への期待を高め続けることで、ファンも疲れてしまうとコメント。発売時に本作を楽しんでもらうには、むしろ本作の存在をしばらく忘れてもらった方が良いと述べる。

このほか、2018年半ばまでに手がけたコンテンツはすべて制作し直し、その90%はボツにしたことも明らかにしている。これは同スタジオが目指すものを実現するためであり、経験の浅いチームにとっては通常のプロセスとのこと。そして、発売日を設定したからといって、準備できていないものはリリースできないとし、2022年に発売延期することを明らかにした。さらに、同スタジオのコミュニケーション不足が気に入らないなら、返金申請してほしいと“アドバイス”を送り、まだ興味があるなら発売時に楽しんでほしいと呼びかけた。


この声明に対しては、ゲームの完成を最優先にするアプローチについて賛同する意見もみられる一方で、アドバイスどおりに返金を求める出資者も少なくない。コメントでは、本作の実現に向けて寄与した出資者を軽視、あるいは敵視しているかのような声明だと受け取った出資者もいたようだ。開発元の声明文内容への批判が多く、久しぶりに続報を届けたかと思えば愚痴を聞かされたなどの意見も寄せられている。

そうした批判の声を受けてか、開発元Ebb SoftwareのCEOであり本作のクリエイティブディレクターを務めるLjubomir Peklar氏は11月7日、Kickstaterにてコメントを発表。先日の声明は敵対的な口調で書かれており、支援者に本作の計画を伝える方法として相応しいものではなかったとして謝罪した。同氏は、十分に精査することなく声明文公開の承認をしてしまったとのこと。そして、こうしたことは二度と繰り返さないと約束し、出資者から寄せられた懸念などに対しては、今後あらためて適切なかたちで報告するとした。


Kickstaterでは、バッカー(出資者)に対して定期的に情報を届けることが重要であると、プロジェクトのクリエイター向けに案内されているが、実際におこなうのかどうかやその頻度はクリエイターの裁量に任されている。ゲームのスクリーンショットや映像などの情報を用意するには、開発者の時間を割かねばならないこともあるため、今回の件のように、それよりも開発作業に集中したいというのは、確かに開発元側の本音かもしれない。

一方で、出資した側としては開発の進捗は常に気になるところだろう。続報が途絶えれば、開発中止になってしまったのではと不安にもなる。こうしたある種相反する立場もあり、以前別のKickstarterキャンペーンでは、進捗の報告のあり方を巡って、開発元と出資者のあいだで論争になったこともある(関連記事)。

本来であればPR担当者を雇って、出資者やファンとのコミュニケーションを任せられればベストだが、小規模なスタジオの場合はそれすら難しいこともある。資金の使い道として、後回しにされやすい部分でもあるかもしれない。とはいえ開発元としても、報告義務がないからといって、出資者をないがしろにしても良いとは考えてはいないだろう。限られたリソースと時間のなかで、どのようにコミュニケーションをとってプロジェクトを成功に導くのか、クラウドファンディングを利用した以上は常につきまとう課題となりそうだ。


『Scorn』は、PC/Xbox Series X|S向けに2022年発売予定。今回の発売延期については12月にも正式に発表されるとのことなので、そこで本作の新たな情報も公開されるかもしれない。