国産アクションゲーム『PICO PARK(ピコパーク)』なんと売上「100万本」突破。ひそやかに大きく咲いたインディードリームの裏側
国内インディースタジオTECOPARKは10月7日、『PICO PARK』の全世界累計販売本数が100万本を突破したと発表した。8月末時点で達成していたという。小規模開発ながら、100万本という大台を突破することとなった。いったい、『PICO PARK』に何が起こっていたのか。
『PICO PARK』は、横スクロール型のアクションゲームだ。対応プラットフォームはPC(Steam)/Nintendo Switch。ステージにある鍵を入手して、ゴールにたどり着くことを目指す。ルールはシンプルだが、協調性が問われる点が醍醐味となっている。本作では、最大8人までのマルチプレイに対応。またSteam版およびNintendo Switch版はともにオンラインプレイにも対応する。プレイヤーらは互いに自分たちの身体を足場にしたり、仕掛けを解く上で役割分担をしたりと、他者と連携しなければならない。そのほか、お互いを紐で引っ張ったり、ボールを弾いたりと、物理演算要素もまじえた多彩なギミックが用意されている。
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本作では、他者と協力するだけでなく、あえて意地悪に振る舞うことも可能。うまくいった時の一体感、あえて邪魔するおふざけ、どちらも楽しめるというわけだ。ゲームモードとしては、全48ステージのクリアに挑むWORLD MODEや、協力してスコアを稼ぐENDLESS MODE、3本先取のミニゲーム形式のBATTLE MODEが存在。カジュアルに楽しく遊べる作品に仕上がっている。
『PICO PARK』は2013年から開発が進められており、2016年にはオフラインマルチプレイに対応するSteam版がリリース。2019年6月にはNintendo Switch版もリリースされた。その後も開発が続けられており、今年5月にSteam向けにはオンラインプレイに対応した新バージョンがリリースされていた。そして9月10日、Nintendo Switch版がオンライン対応をはたした。
【UPDATE 2021/10/9 12:55】
オンライン対応Steam版のリリース日について修正
『PICO PARK』は、もともとオフラインイベントなどでは人気で、試遊ブースには長い列ができるほど。価格も500円と安価で買いやすい。とはいえ、個人開発のゲームの売り上げが100万本突破するというのは異例。その裏では何があったのか。開発元TECOPARKの三宅俊輔氏にお話をうかがったので、その話を踏まえヒットの背景の一部をご紹介しよう。
ヒットの火付け役となったのは、オンラインマルチプレイに対応するSteam版のリリースだったようだ。オンライン対応のSteam版は5月にリリースされたものの、5月と6月については“ゆるやかな広がり”だったという。数字でみると、その期間は同時接続ユーザー数が100~200で推移している(SteamDB)。しかし7月になり数字が急上昇。とくに7月8日に同時接続ユーザー数が1万6802まで上がっている。これは7月6日にTwitterに投稿され拡散された動画が関連しているようだ。Twitterユーザーアンソニー斎藤氏が撮影した動画で、6人でマルチプレイする様子が映されている。ボイスチャットで騒ぎながら楽しげに遊ぶ内容となっており、同作の魅力が凝縮された動画だ。この動画は、1万2000以上のRTを獲得する“大バズり”に至った。このバズりをきっかけに、波が続いていく。
三宅氏によると、7月11日には中国のbilibili動画に実況動画がアップロードされ、その動画の再生回数もすぐに100万回を突破。7月20日には、SykkunoやValkyraeといった人気ストリーマー8名がプレイしたことで、北米でも広がりを見せたという。さらに8月に入ってからは、チャンネル登録者数1000万人を超えるゲーム実況者たちが同作をプレイ。その実況者の中には、あのPewDiePieも含まれていたという。それ以来、同時接続ユーザー数は4桁代をキープしている。
100万回再生の動画も数多く生まれ、人気の実況者がプレイするだけでなく、それらの動画が視聴者に楽しまれたことで、『PICO PARK』は人気を博していったようだ。さらにはTikTokでも『PICO PARK』ブームが生まれており、8月にはラテンアメリカでも人気を獲得。タグ#picoparkの総再生数は3億回を超えているそうだ。三宅氏は「繰り返し遊ぶゲームではないので、今は人気は落ち着いてきてはいるのですが、配信者さん達やSNSに広めてもらったゲームだと思っています」と振り返った。ゲームコンセプトと時代が完璧にマッチしたことで、大きなうねりが生まれたと考えられる。また広まった理由として、『PICO PARK』のゲームデザインが優れていたという点も、前提として理解しておくべきだろう。
じつはTECOPARKは、基本的に開発者は三宅氏1名のスタジオ。一連のムーブメント発生時、三宅氏は始めは驚きのあまり「ヤバイ」とばかり言っていたそうだ。しかしその後少し落ち着き冷静に物事を考えるようになったという。これほどの人気が出た以上、続編などを考えなければいけないと考え始めたとのこと。『PICO PARK』はなにせ足掛け8年のプロジェクト。もとの計画としてはNintendo Switch版のオンライン対応で、『PICO PARK』を終えるつもりであり、まったく異なる新作を手がける予定であったが、そのプランも変更されたそうだ。
また『PICO PARK』については、ユーザーから数多くの要望が届いているという。他プラットフォーム移植や新ステージ作成、レベルエディット機能など。しかしこれらの要素を『PICO PARK』のアップデートで対応するには、作り直さなければいけない箇所があまりに多く、断念したという。そして、これらの経緯を踏まえて、要望や新しいアイデアを取り入れた『PICO PARK2』の開発を決断したそうだ。ファンに向けて「いつになるか分からないですが、気長に待ってもらえると嬉しいです!」と語っている。
なお『PICO PARK』のオンラインマルチプレイは、各プラットフォームが提供しているネットワーク機能を使ったP2P方式にて運用されているという。そのためクロスプレイなどの対応はできないそうだ。コスト面を考慮しP2P方式を選んだそうだが、この形式のおかげで負荷が上がってトラブルが起こるといったことにも遭遇しなかったという。ただし、世界中の人がプレイしてくれたことで、問い合わせや要望が時間関係なしに届くようになり、その点に少し困ったとも三宅氏は話した。
経緯をまとめると、長い時間をかけて、誰にでも楽しめるパーティーゲームを開発。最初は局地的な人気であったが、オンライン対応をきっかけに、その面白さがSNSやゲーム実況を介して拡散。大ヒット作になったということだろう。ゲームとしての質、手を出しやすい値段、そして拡散に際した運。これらが揃ったことで、多くの人に愛されるようになったわけだ。なお100万本のうち、日本からの売り上げは数パーセントだという。いかに世界の市場が大きいかを、知らしめる事例でもある。
先日にはテレビ東京のゲーム番組「有吉ぃぃeeeee!」でも取り上げられた『PICO PARK』。静かながらも、大きな花を咲かせたゲームである。三宅氏は、今回の数字発表について「個人ゲーム開発の盛り上がりに少しは貢献できるかなと思い発表することにしました」と語っている。静かに頑張り続ける日本の個人開発者を勇気づける事例になることを祈りたい。
『PICO PARK』は、PC(Steam)/Nintendo Switch向けに発売中。『PICO PARK2』についても現在計画中である。