『ヒットマン』がGOGでレビュー爆撃を受け圧倒的低評価。「こんなのDRMフリーじゃない」と怒る一部ユーザーの批判は妥当か否か

 

ゲーム配信プラットフォームGOG.comにて、『HITMAN – Game of the Year Edition(以下、ヒットマン)』をめぐる波乱が起きている。その背景には、先頃GOG.comにて配信された『ヒットマン』のコンテンツ仕様と、一部ユーザーの期待との間に生まれた齟齬があるようだ。Eurogamerが報じている。

『ヒットマン』はIO Interactiveが手がけるステルスアクションゲームだ。今回の波乱の渦中にあるのは2016年に発売されたリブート版『ヒットマン』ゲームオブザイヤーエディション。今年9月22日にGOG.comにて配信開始された。同作は記事執筆現在GOG.comにおいて、ユーザーレビューによる5段階評価で1.4と低評価になっている。一方で、Steamにおける同作ベースゲームは現在、ユーザーレビュー2万2410件中81%が好評だ。GOG.comユーザーレビューは5段階評価で、Steamユーザーレビューは肯定/否定の極性判定という違いはあれど、かなりの乖離がある。


『ヒットマン』がGOG.comで低評価になっている原因は、GOG.com版の仕様に不満を感じる一部ユーザーからの多数の不評レビュー投稿だ。つまり、GOG.com版『ヒットマン』は現在、“レビュー爆撃”の標的となっているのだ。同作ストアページに立ち並ぶ低評価ユーザーレビューの内容を読み解くと、ほとんどがゲーム内の一部コンテンツについてオンライン接続が必要である点を不満としている。また、本作を配信したGOG.comに対する批判も見受けられる。昨今において、シングルプレイ用タイトルでもオンライン接続要素があるのは珍しくない。にもかかわらず『ヒットマン』が多数の不評を受け、GOG.comが一部ユーザーから批判される背景には、GOG.comの特色がある。

GOG.comは、配信タイトルのすべてについてDRMによるオンライン認証などを必要とせず、オフライン環境で遊べる「DRMフリー」をモットーとしている。一方で、今回の問題の渦中にある『ヒットマン』は、かなりの量のコンテンツ利用にインターネット接続を必要とする仕様となっている。つまり、今回一部ユーザーが問題視し批判しているのは、オフラインでも遊べるゲームを提供するGOG.comが「フルに楽しむためにはオンライン環境が必要な作品を配信した」ことなのだ。

一部ユーザーがオンライン要素を忌避する理由のひとつには、DRM(デジタル著作権管理)の仕組みに対する不安があると見られる。DRMはゲームなどのソフトウェアの不正コピーを防ぐ目的で実装される、コンテンツ保護の仕組みだ。DenuvoなどのDRMにおいては、ゲームソフトの正当性を確認する手段としてオンライン認証がしばしば用いられている。一方でオンライン認証には、ネット接続の喪失や認証サーバーの終了などにより、ゲームが一時的または恒久的に利用不能になる懸念がある。『ヒットマン』のオンライン要素も、「オフラインでは利用できない」という一点においてDRMと性質を同じくするものだ。今回批判を投じている一部ユーザーも、オンライン要素に懸念を持ち、ゲームのオフライン動作に魅力を感じてGOG.comを利用しているユーザーたちだと思われる。


不満を感じたユーザーからの批判が募るかたわら、GOG.comの『ヒットマン』ストアページでは、ゲーム説明欄にて「本作の一部コンテンツ利用にはインターネット接続が必要」という旨を記載している。また、同作ストーリーモードなどはオンライン接続なく楽しめるようになっており、ライセンス認証などは必要ない。つまり、厳密には「DRMフリー」といって差し支えない仕様。DRMフリーながら、一部コンテンツにインターネット接続は必要という『ヒットマン』の仕様が、今回の事態を複雑にしている。

GOG.com側は、同プラットフォームの『ヒットマン』に関するフォーラムスレッドで、今回のユーザーたちの批判についてコメントした。GOG.com担当者の投稿によれば、運営側は今回の問題について認識しており、調査のうえで今後数週間のうちに続報を伝えるそうだ。そしてユーザーがゲームに不満を感じた場合にはGOG.comの基本サービスである返金機能を利用して、返金処理をしてほしいとコメントしている。また、今回の多数不評レビューについて「レビュー爆撃は許容しない」とし、ガイドラインに従わないレビューは削除すると表明している。


一方でユーザー側は、『ヒットマン』におけるかなりの割合のコンテンツがオンライン接続なしでは楽しめない点を指摘している。GOG.comユーザーレビューには「オフラインではチャレンジのクリアによる装備品のアンロックなど、ほとんどの進捗要素が利用できない」という意見があり、フォーラムでも「ストーリーモードの基本要素しか利用できず、デフォルト以外の侵入ポイントや開始時の変装バリエーションなどのアンロックにはインターネット接続が必要」とする意見が投稿されている。少なくとも、『ヒットマン』のかなりの量のゲーム内コンテンツが、オンライン接続を必要としているのは事実のようだ。

記事執筆現在、GOG.com『ヒットマン』ユーザーレビュー欄には、「このゲームは“DRM”を実装している」という低評価が立ち並んでいる。しかし前述の通り、GOG.com配信の『ヒットマン』はライセンス認証などのプロセスを不要としており、厳密には「DRMフリー」といえる。今回不満を唱えている一部ユーザーが求めていたのは、著作権保護システムのないソフトではなく、「ネットが使えなくても安心して遊べるソフト」だったのだろう。今回の一連の問題は、そうしたユーザーの期待が、『ヒットマン』のコンテンツ提供の仕様と衝突したために起きたものと見られる。

シングルプレイ用ゲームでありながら多くのコンテンツ利用にインターネット接続が必要な『ヒットマン』のやや特殊な仕様と、GOG.comの特色が合わさって起きてしまった今回の一件。あくまでも作品への評価を述べる場であるユーザーレビューが、「オンライン要素がある」点で荒れ模様になってしまったのは残念だ。GOG.com側は、批判の色を示す一部ユーザーにどのように向き合っていくのだろうか。