中国版『Fate/Grand Order』で特定の英霊たちが突如改名させられる。真名とセイントグラフを封鎖された、中国系サーヴァント


中国版『Fate/Grand Order』にて、サーヴァントの真名やセイントグラフなどが封鎖されているようだ。対象になっているのは、中国に縁のある一部のサーヴァントたち。ほかのゲームで起こった出来事が波及する形で、中国版『Fate/Grand Order』に新たな規制がおこなわれている。

中国版『Fate/Grand Order』公式サイト内のスクリーンショット


『Fate/Grand Order』は、奈須きのこ氏がシナリオや総監督などを務め、2015年7月にAndroid版、8月にiOS版が配信開始されたスマートフォン向けRPG。人類史に名を残した英霊たちをマスターとして従え、未来を取り戻すために戦う作品だ。開発・運営をディライトワークスが手がけている。

中国では、bilibiliの運営により2016年9月にiOS版、10月にAndroid版のサービスが開始。コンテンツとしては、9月6日まで日本版における2020年の夏イベント「サーヴァント・サマーキャンプ! ~カルデア・スリラーナイト~」が開催されていたほか、9月17日からは「影の国の舞闘会 ~ネコとバニーと聖杯戦争~」の開催が控えるなど、日本版から約1年遅れのコンテンツ実装ペースで運営が続けられてきた。また過去には、ブーディカとマタ・ハリのイラストの修正や、玄奘三蔵から西行者への名称変更など、中国国内の事情による規制も実施されている。

中国の動画サイトbilibiliに投稿されていたプレイ動画のスクリーンショット


中国版『Fate/Grand Order』では、まず9月14日に武則天(不夜城のアサシン)に対する、セイントグラフや名称の変更が発表。続いて9月15日には、中国に縁のある13騎のサーヴァントに対する変更が発表された。対象となったサーヴァントは武則天(不夜城のアサシン)、荊軻、呂布、哪吒、項羽、秦良玉、始皇帝、虞美人(アサシンおよびランサー)、赤兎馬、司馬懿、楊貴妃、玄奘三蔵の合計13騎。いずれも中国に縁のあるサーヴァントたちだ。

変更前の一例、中国の動画サイトbilibili内の動画より
変更後の一例、中国の動画サイトbilibili内の動画より


始皇帝なら裁定者229など、クラスと霊基の番号を加えた無機質なものへ変更。全13騎を対象に、プロフィールと音声の調整もおこなわれた。また武則天(不夜城のアサシン)、玄奘三蔵、虞美人(アサシンおよびランサー)楊貴妃についてはセイントグラフ(カード)も変更され、一部を除いてイラストの代わりにクラスカードの対応した画像が表示されている。中国の動画サイトbilibiliで、現在の中国版『Fate/Grand Order』の映像を見てみると、バトル画面は日本版とそう変わらないものの、攻撃やスキルを使っても一言も発さないサーヴァントたちの姿や、セイントグラフの変更によるシュールな召喚シーンなどが確認できた。なおbilibiliの発表によると、調整は暫定的なものとされている。今後、調整されたイラストや新しい名称への変更が予定されているのかもしれない。

中国の動画サイトbilibiliに投稿されていたプレイ動画のスクリーンショット


大胆なローカライズが実施された中国版『Fate/Grand Order』。今回の規制の背景には中国国内の情勢に加えて、中国向けにCoconut Island Gamesから配信中のスマートフォン向けシミュレーションゲーム『江南百景图』で起こった騒動が関連しているようだ。中国メディア澎湃新闻の記事によると、8月6日に『江南百景图』の新キャラクターとして、南宋時代の武将である岳飛をモチーフとしたキャラクターが発表された。しかし中国のネットユーザーから、岳飛をモチーフにしているキャラクターとしては、デザインが侮辱的だとみなされて大きな批判を受けてしてしまう。

Coconut Island Gamesは、8月11日にキャラクターデザインの変更を発表し、謝罪するも騒ぎは収まらなかった。最終的に、同社は再度謝罪文を発表し、同時に岳飛をモチーフとしたキャラクターを含めた数体のキャラクター削除も実施。歴史上の人物をモチーフとしたキャラクターのデザインが原因で、削除が数体のキャラクターに及んだわけだ。なお、中国在住者によると、岳飛は現在の中国において、南宋時代の活躍から「中華正統」を守った人物とされており、南宋時代と現在の国際情勢の類似性もあり、一部の層から大変な支持を集めているそうだ。

『江南百景图』の一件と『Fate/Grand Order』は、中国で配信されているゲームという点と、歴史上の人物をモチーフとしている点は共通しているものの、直接関わりがないように思える。しかし『Fate/Grand Order』では、武則天(不夜城のアサシン)の発表時に、ビジュアルが一部の中国ユーザーの反感を買っていたとも言われている。直接の関連はないものの、『江南百景图』の騒ぎを受けて、中国版『Fate/Grand Order』では騒動に巻き込まれぬように、先んじて対応がおこなわれたのかもしれない。何にせよ、中国版『Fate/Grand Order』を純粋に楽しんでいたマスターたちにとっては、悲しい事件だろう。

国内版『Fate/Grand Order』は、iOS/Android向けに配信中。現在は2021年の夏イベント「カルデア・サマーアドベンチャー! ~夢追う少年と夢見る少女~」が開催中だ。