NFTゲーム『Epic Hero Battles』がアセット無断盗用指摘されWeb上から“撤退”。隆盛するブロックチェーン技術の闇

 

近頃、利用が活発になっているNFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)を利用したゲーム『Epic Hero Battles』が、アセット盗用を指摘されSNSアカウントを削除、突如として沈黙した。NFT技術の問題点をも浮き彫りにするこの出来事を、PC Gamerなど複数海外メディアが報じている。
 

Image Credit : OpenSeas

 
まず、NFTについて説明したい。簡単にいえば、デジタルなアート作品に対し、物理的な芸術作品のような所有権を付与する技術だ。本来デジタルデータは複製可能であるため、絵画や彫像のように所有権を保証することはできない。しかしNFTを利用すれば、デジタルアートに対しても唯一無二の、複製できない所有権を保証できるのである。

ブロックチェーンを利用したNFTは、平たくいえば「仮想通貨のデータ版」と表現できる。ビットコインなどの仮想通貨は、主にブロックチェーン技術を利用して、「この人が1ビットコインを受け取った」といった台帳記録の正当性を、ユーザー間の連携で保つシステムになっている。この「仮想通貨の動きを正確に記録する」という仕組みを、仮想通貨だけでなく広範なデジタルデータに適応したのがNFTだ。所有権の移り変わりが記録されることで、デジタルデータに対してもオーナーは正当な所有権を主張することが可能。つまり、コンピュータグラフィックスやツイートのようなデジタル情報であっても、物理的な芸術作品を所有するように権利を主張できるのだ。もちろん家に飾ったり独占したりはできないが、所有欲は満たせるほか、投機目的で利用されることも多い。

『Epic Hero Battles』では、仮想通貨ETHをサポートするアプリケーションプラットフォームである「イーサリアム」をベースにしたNFT技術が用いられている。今回問題となった『Epic Hero Battles』は、ブロックチェーン技術を利用し、NFTによってキャラクターセットを提供するシステムを採用したゲームだった。プレイヤーは仮想通貨イーサリアムによってペットを従えたヒーローを購入、NFTで所有権が保証された唯一無二のキャラクターを手に入れられる仕組みを予定していた。世界に一人しかいないキャラクターを楽しむこともできるし、もちろんキャラクターを市場で取引することも可能なわけだ。なお、ヒーローの“価格”は0.01ETHで、記事執筆現在日本円にして約3600円で提供予定だった。ここまですべて過去形で記述しているのは、現地時間9月12日から提供予定だったNFTキャラは現在購入できず、公式Twitterアカウントは削除され、同作が今後サービス開始されるかも極めて不透明な状況だからだ。
 

 
『Epic Hero Battles』を取り巻く騒動の発端になったと見られるのは、アクションゲーム『Wildfire』開発者によるアセット盗用の指摘だ。同作はインディーデベロッパーSneaky Bastardsによるステルスを主体とした2Dアクションゲームで、Steamにて配信中。NFTを利用した要素などはない“普通”のゲームだ。同作主要開発者のDan Hindes氏は9月11日、『Wildfire』のアセットが『Epic Hero Battles』公式サイトトップページに無断盗用されていることを、自身のTwitterアカウント上で指摘した。
 

 
Hindes氏はもともとNFTに対して懐疑的だったようで、一連のツイートで「(NFTは)この星を壊すねずみ講」と糾弾している。現在削除済みの『Epic Hero Battles』公式Twitterアカウントにも「我々のキーアートを許可なく使っていますよね。これまでも今後も許可を出すつもりはないので、取り下げてください」と直接抗議した。抗議を受けて『Epic Hero Battles』は「アセットのチェック漏れである」との弁明をして、該当のアセットを公式サイトから取り下げた。一連の騒動の後の9月13日には、Hindes氏がいい笑顔でお酒を飲む写真を「一連の事態へのリアクション」として投稿している。どうやら、同氏にとっては満足のいく成り行きとなったようだ。
 

 
『Epic Hero Battles』がネット上から“撤退”した原因としては、Hindes氏の上述のツイート後から、コミュニティの手によって続々とアセット無断盗用が指摘されたことも影響したのだろう。上述の『Wildfire』キーアートのほかにも、複数のピクセルアートが『Epic Hero Battles』公式Twitterアカウントや公式サイト上で流用されていることが判明したのだ。
 

 
現在、『Epic Hero Battles』公式サイトは、同作ロゴと1点のGifを除いて、あらゆる画像アセットを廃して背景が灰色となった寒々しい状態だ。同サイトで用いられていた背景画像はいずれも無断盗用が指摘されていたため、取り下げられたのだろう。また今回の一件や今後についての声明も記事執筆現在出されておらず、今後無断盗用アセットを廃して復活するのか否かも不透明だ。

NFTアートの販売については、以前より画像の無断盗用の問題が指摘されていた。同技術は「画像の著作者が誰なのか」を検証するものではないため、無関係の第三者が勝手に画像を盗用してNFTアートとして売ってしまえる点が問題視されているのだ。実際にSNS上では「自分の作ったアートが勝手にNFT化されて販売されている」と証言するユーザーも見られる。今回のケースはNFTアートそのものへの盗用ではなかったものの、NFTアートと著作権の関係の危うさをにおわせるケースとして認識されそうだ。
 

 
NFTそのものは応用の効く技術に過ぎないものの、暗号資産の一種として投機的な扱いを避けることができない。今回の出来事は、一部ゲームコミュニティのNFTに対する心象を悪化させてしまった印象だ。今後、NFTなどのブロックチェーン技術がユーザーに騒動ではなく、新しいゲーム体験をもたらすことを期待したい。