ゲーム日本語化の「フォント選び」について翻訳者たちが語る。『Hollow Knight』は古風に、『Blasphemous』は荘厳に

海外ゲームの国内発売に必要となる日本語ローカライズは、国内ユーザーのゲーム体験を左右する重要なプロセスだ。ローカライズの工夫のひとつである「フォント選び」の興味深い裏側について、複数の関係者がSNS上で語っている。

海外ゲームの国内展開に必要となる日本語ローカライズは、国内ユーザーのゲーム体験を左右する重要なプロセスだ。今回、ローカライズの工夫のひとつである「フォント選び」の興味深い裏側について、複数の関係者がSNS上で語っている。

ローカライズは「地域化」などとも訳されるように、単に英語テキストを日本語に翻訳するだけの作業ではない。ゲームの持ち味をそのままに、日本国内のユーザーが遊びやすいように、あるいは没入できるように、多岐にわたる調整とクオリティの管理をおこなう工程なのだ。そして、英語などの言語を日本語に翻訳した際に発生するひとつの問題がある。それが「文字の違い」だ。

ゲーム内で表示されるテキストは、主にフォントファイルを利用して表示されている。英語で制作されているゲームは英語用のフォントを利用している場合が多いため、そのまま日本語テキストのデータを流し込んでも表示されることは稀。つまり、ゲーム内で日本語を表示するためには日本語用のフォントをあてがう必要があるのだ。フォントと一口にいってもそこには幅広い個性があり、選択を間違えれば作品の雰囲気に大きな影響を与える。


『Hollow Knight(ホロウナイト)』や『The Red Strings Club』などの翻訳を手がけた伊東龍氏が、自身のTwitterアカウント上で日本語化におけるフォント選びの実例とその背景について語っている。まず、『ソルト アンド サンクチュアリ』と『Dark Devotion』の日本語化にあたっては「あおぞら明朝」を使用したそうだ。理由としては『ダークソウル』シリーズが、ダークファンタジーと明朝体の相性の良さを示していたことや、『ウィッチャー3ワイルドハント』も参考になったとのこと。オリジナル版の暗く重たい雰囲気をそのまま伝える工夫だ。


また、『Hollow Knight』においても明朝体が用いられている。こちらはオリジナル版におけるテキストが英語の古式ゆかしい文体で記述されており、「日本語でも古典的な雰囲気を出してほしい」という開発元からの要望があったそうだ。そのため、同作においては雰囲気の一致する「はんなり明朝」を採用したとのこと。一方で、2088年の宇宙ステーションを舞台にしたSFADV『Tacoma』では未来感のあるフォントとして「コーポレート・ロゴ」を採用するなど、作品に合わせたフォント選びに配慮している様子がわかる。


伊東氏は、英語圏のゲーム制作者が自らフォントを選ぶというやや珍しいケースも紹介している。『Starstruck 時をつなぐ手』においては「Kosugi Maru」のほか、実に5種類の日本語フォントが使用されているとのこと。フォントの選択は開発元CreatedelicのMax Ponoroff氏が自らおこなっているそうで、同氏の日本語への造詣の深さがうかがえる。

伊東氏はドットフォントについても言及しており、『Digital: A Love Story』『2064: Read Only Memories』『The Red Strings Club』で使用したという「PixelMPlus」や、『Eternal Home Floristry』で使用した最近リリースされたフォント「マルモニカ」について触れている。また、ドットフォントとしては翻訳者の黒澤勇太氏が『Blasphemous』で使用したフォント「人形町16」を紹介している。黒澤氏は「英語版のフォントをそのまま使う」という方針についても伝えており、例として『Katana ZERO』ではオリジナル版の雰囲気を残すために英語版フォントをそのまま利用しているそうだ。


また、弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシングブランドPLAYISMの山中琢氏も『すすめ!じでんしゃナイツ』日本語版について触れている。同作においては「じゆうちょうフォント」というフォントが用いられており、太いサインペンによる手書きのようなテイストが印象的だ。やんちゃな子供が大冒険するという、同作のテーマに合わせたチョイスなのだろう。

なお別の担当者談となるが、同じくPLAYISMから発売されているアドベンチャーゲーム『ナイト・イン・ザ・ウッズ』については、「ベビポップ EB」をベースとしつつ、文字がアニメーションする演出などが加えられているそうだ。


普段、日本語化されたゲームをプレイする上で、違和感を感じないフォントについて意識するプレイヤーはあまり多くないのではないだろうか。しかし、「違和感を感じない」というのは、ゲームにフォントが馴染んでいる証拠でもあるのだ。フォント選びに引っかかることなくゲームをプレイできた時には、影にあるローカライズ担当者の丁寧な工夫に思いを馳せてみてほしい。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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