EAが『Apex Legends』のピン機能などの特許を無償開放。アクセシビリティ関連技術の進歩を促す取り組み

Electronic Artsは現地時間8月25日、同社の持つアクセシビリティ関連ゲーム機能の特許について声明を発表した。同社は、EA以外のパブリッシャーやデベロッパーに対して特許技術の一部について無料利用を許諾するとしている。

Electronic Arts(以下、EA)は現地時間8月25日、同社の持つアクセシビリティ関連ゲーム機能の特許について声明を発表した。同社は、EA以外のパブリッシャーやデベロッパーに対して特許技術の一部について無料利用を許諾するとしている。開放された機能のなかには『Apex Legends』で利用されているピン(シグナル)機能も含まれており、一部の実装例についてはGitHubにてオープンソース化された。

EAが今回使用許諾を出したのは、前述のピン機能を含む5つの特許だ。これらはすべて視覚、ないしは聴覚に障害を持つプレイヤーを助けるアクセシビリティ関連機能となっている。ピン機能のほかには、色覚異常など視覚に難を持つプレイヤーを助ける描画関係の特許が3種と、ユーザーの聴覚の状態に合わせて音楽を生成する機能が1種となっている。なお、描画関係特許のうち2種は米国向けと中国向けに分かれた同一内容の特許と見られるため、実質4つの技術が開放されたこととなる。

上述の特許に関連すると思われる色覚関連のアクセシビリティ機能実装例が、Apache 2.0ライセンスのもと、GitHub上で公開されている。こちらは、さまざまな視覚タイプに合わせて、オリジナルの描画から色合いや明るさを変換するもので、HLSL(上位レベルシェーダー言語)で記述されている。つまり、特許技術が実際にゲーム内に組み込みやすいかたちで、利用における自由度の高いライセンスのもとで公開されたことになる。


EAが今回発表した使用許諾は、視聴覚に難を抱えるプレイヤーにはもちろん、そのほかのプレイヤーにも福音になりうる。『Apex Legends』おけるピン機能は比較的簡易な操作で、幅広い意思疎通を可能にする機能だ。マップ上で敵や特定の位置/状態を示すような機能は、ほかのタイトルでも実装例があるものの、同作のピン機能は柔軟性という面でかなり優れている。たとえボイスチャットを利用していても便利な機能であり、ほかのタイトルに実装されて喜ぶゲーマーは多いだろう。

なお、EAは公開した特許誓約書のなかで、具体的な特許のリストとともに「これらの特許を侵害したいかなる相手に対しても、法的措置をおこなわない」と述べている。そして、誓約書に法的拘束力を持たせるとともに、「Defensive Termination(防衛的契約解除)」を行使する場合を除き、取り消し不可とする旨も表明している。これは平たくいえば「誰でも自由に一連の特許技術を使ってよい。しかし、使用者がEAを特許権侵害などで訴えたら、EA側もその使用者に関して誓約を取り消して訴え返す」という内容だ。

一見やや回りくどいこの許諾方法には、過去に類似した実施例がある。2008年に「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」およびソニーやIBM、ノキアなどの企業が協力し立ち上げた「エコ・パテントコモンズ」だ。この取り組みは環境保全に関する特許技術を広く無償で提供するもので、今回のEAと似た形式で特許を開放していた。技術の無償利用を許すことで業界全体の技術革新をうながし、また、企業間の繋がりを強めるなどの目的があったと考えられる。


EAは今回の特許技術開放についての声明のなかで、「EAが多大な努力によって達成した先進的な発明の周知をはかること」および「業界における技術革新と創造性を促進すること」というふたつの目的を表明している。そして、「ゲームは誰でも遊べるものであるべき」という同社の理念を述べ、業界全体による協力の必要性を伝えた。エコ・パテントコモンズがそうであったように、同社の願いもまた、業界全体の技術革新と連携強化にあるようだ。なお、同社は今後も特許技術を随時開放していくとのこと。

今回のEAの取り組みを受けて、『Apex Legends』と同様のピン機能を実装する他社タイトルが登場するかは気になるところだ。そして、この特許技術開放が、より幅広いプレイヤーが困難なくゲームを楽しめる未来に繋がることを願いたい。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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