任天堂、 海賊版ROM配布サイト運営者に対する「永久的差止命令」を裁判所から勝ち取る。保有海賊版ゲームの破棄・破壊も
任天堂が米国法人Nintendo of Americaを通じて2019年から裁判で争ってきた会員制ROM配布サイトについて、裁判所が任天堂側の主張を認め、同サイトに対し永久的差止命令を出していたことが明らかになった。海外メディアTorrentFreakなどが報じている。
問題のROM配布サイトは、米国ロサンゼルス在住のMatthew Storman氏によって運営されていたRomUniverse。さまざまなゲームや映画、電子書籍などの海賊版データが配布され、特に任天堂ハード向けのゲームが充実していたことで知られた存在だったようだ。なお、現在はアクセスできない状態にある。
ひと月あたり数十万人規模のアクセスがあった同サイトでは、年額30ドルの有料会員を募り、Storman氏は2019年には3万〜3万6000ドル(330万〜390万円)の収益を得ていたことが、訴訟を通じて明らかになっている。また任天堂は、海賊版のNintendo Switch向けゲームが約30万回、ニンテンドー3DS向けゲームは50万回以上ダウンロードされていたと指摘していた。
まずこれまでの訴訟の流れを振り返っておこう。任天堂は2019年9月、RomUniverseの運営者であるMatthew Storman氏を相手取り、カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所にて提訴。ROM配布による著作権侵害と、同サイトや海賊版ゲームによる商標権侵害を主張し、著作権侵害については一件あたり最大15万ドル(約1600万円)、商標権侵害については一件あたり最大200万ドル(約2億1800万円)の損害賠償金を請求した。また、これらの権利侵害行為の永久的差止命令や、任天堂が権利を保有する各種コンテンツの海賊版の破棄命令を出すよう、裁判所に求めていた。
弁護士をつけずに裁判に臨んだStorman氏は、任天堂が主張した容疑について否認。しかし任天堂側は、Storman氏の直接的な関与を示す証拠を提出したという。裁判所は今年6月、著作権侵害と商標権侵害について、合わせて211万5000ドル(約2億3000万円)の損害賠償金を任天堂に支払うよう、同氏に命じる判決を下した。
決着を見たかに思われた任天堂とRomUniverseの争いだが、Storman氏だけでなく任天堂側も、判決内容の再審議を求める動議を裁判所に提出することとなる。今年7月、Storman氏は損害賠償請求を認めた判決を不服とし、さらに争う姿勢を見せた。一方の任天堂はというと、当初要求しながら認められなかった永久的差止命令にこだわったかたちだ。Storman氏は任天堂の弁護士と連絡を取った際に、RomUniverseを復活させる可能性について否定しなかったとされる。また、双方で合意した月50ドル(約5500円)に分割しての賠償金支払いも、履行されていない状況だという(関連記事)。
裁判所は8月5日、再審議の結果任天堂の要求を認め、Matthew Storman氏に永久的差止命令を出した。永久的差止命令の構成要件には“回復不可能な損害”の証明があり、これに対してStorman氏が反証できなかったことで、今回は永久的差止命令が出されたようだ。
裁判所はStorman氏に対し、任天堂の著作物の不正な配布や複製、販売などのほか、ウェブサイトを通じた任天堂の商標の使用などを禁じた。これは米国内だけでなく、世界中での直接的あるいは間接的な活動が対象となる。裁判所はさらに、同氏が不正保有する任天堂のゲームなどの著作物について、今年8月17日までに破棄・破壊することも命令。これにともないStorman氏は、これらの命令を遵守することを証明する書類を、8月20日までに裁判所に提出しなければならないとのこと。
【UPDATE 2021/8/16 16:20】
裁判所が禁止しているものについて、不正なものを対象にしていることを追記
海賊版ROM配布サイトをめぐる過去の別の案件においては、任天堂は運営者側と和解し、高額な和解金の支払いとサイト閉鎖によって解決を見てきた。しかし今回は、サイトは閉鎖されたものの運営者が争う姿勢を見せたことで、任天堂側も徹底的に対処することとなった。今後Matthew Storman氏は、RomUniverseのような海賊版配布サイトに関与することはできないだろう。一方で、損害賠償金211万5000ドルの毎月の支払いについては履行していない模様であり、判決についても不服を申し立てている。今後は、こちらの行方がどうなるのか注目されそうだ。