『Apex Legends』と『タイタンフォール』作品へのサイバー攻撃は複数ファンによる“自作自演”だったとの告発。動機は『Titanfall Online』復刻への歪んだ思いか

 

Respawn Entertaimentが手がける『Apex Legends』において先月7月に発生した、大規模ハッキング事件。このハッキング被害は、同スタジオが過去に開発した『Titanfall(タイタンフォール)』シリーズについて不満をもったハッカーによる犯行と見られていた。しかし、この一件にはさらに複雑かつ恐ろしい背景が存在する可能性が示されたようだ。
 

 
『Apex Legends』はRespawn Entertainmentが開発を担当する基本プレイ無料オンラインFPSゲームだ。同スタジオは過去に『Titanfall』および『Titanfall 2』というFPS作品を手がけており、『Apex Legends』はそれらの作品の世界観を引き継いでいる。つまり、これらの3作品は系統づいたシリーズ作品とも捉えられるのだ。そして、『Apex Legends』は先月7月4日、大規模なハッキング被害を受けていた(関連記事)。

このハッキングの内容は主として、ゲーム内に「SaveTitanfall.com」というサイトへの誘導や、コミュニティへの参加を促すメッセージが表示されるというものだ。場合によってはプレイ不能になる症状が現れることもあり、多くの『Apex Legends』プレイヤーを混乱に陥れた。また、メッセージのなかには「TF1 is being attacked so is Apex(『Titanfall』が攻撃されているから『Apex Legends』もやってやる)」という声明も含まれていた。

こうした点から、犯人はPC版『Titanfall』の状況への不満を動機として犯行に及んだものと推測されていた。というのも、同作はハッカーによる攻撃が原因と見られるマッチング不全により、マルチプレイに支障がある状態が続いていたのだ。また、PC版『Titanfall 2』についても先ごろ攻撃を受けているという証言が出ている。上述のSaveTitanfall.comはそうしたハッキング被害の状況を訴えて改善を求める活動をしている、同シリーズファンコミュニティ有志によるサイトだ。7月4日の『Apex Legends』ハッキング事件を受けて、SaveTitanfall.comは同コミュニティによる犯行を否定する声明を出していた。しかし、今回示唆されたのは同コミュニティメンバーおよびその関係者たちによる犯行の可能性だ。
 

Image Credit : SaveTitanfall.com

 
そして、犯人と目される人物たちを告発したのもまた、SaveTitanfall.comのコミュニティメンバーだったのだ。同コミュニティが公開した40ページにわたる告発文章には、コミュニケーションツールDiscord上でのやりとりを含む、驚くべき真相を示唆する資料が含まれている。

この告発文書において犯行の可能性が示唆されているのは4名の人物だ。まず、SaveTitanfall.comコミュニティメンバーで、『Titanfall』関連コミュニティRemnant Fleet管理者であるとされるp0358氏と、その友人であり同じくRemnant Fleet管理者とされるRedShield氏。そしてdogecore氏とMrSteyk氏というふたりの人物が、ゲームへの攻撃に関係していると主張されている。

意外なのがその活動と動機についての示唆だ。告発文章は、これら4名が実行したのは『Apex Legends』ハッキング事件のみではないと主張している。そして、そもそも『Titanfall』の機能不全を起こしたのもこの4名であり、『Titanfall 2』にも攻撃を仕掛けていたと訴えているのだ。この主張が事実だとすれば、ハッカーたちはシリーズ作品すべてに攻撃を仕掛け、壮大な“自作自演”を実行していたということになる。

告発文章は動機について、開発中止になったシリーズ関連作品『Titanfall Online』の復刻を狙っていたのではないかと分析している。告発文が根拠として挙げているのは、RedShield氏がRespawn Entertainmentへの就職を目的としたレジュメ(履歴書)をアップロードしていたこと、p0358氏が頻繁にRespawn Entertainmentへ“アドバイス”を送っていたこと、そして主に同氏が「『Titanfall』がプレイ不能なのは『Titanfall Online』復刻に寄与する」などの、『Titanfall Online』復刻を狙う発言をしていたことだ。
 

 
つまりこの告発文は、一連のハッキング被害はすべて、ハッカーたちがシリーズ開発元であるRespawn Entertainment内部に入り込み『Titanfall Online』完成を実現させるための計画だったと主張しているのだ。資料に掲載されているのはいずれも“決定的”といえる証拠ではない。しかし、p0358氏による『Titanfall』の機能不全を喜び、また「攻撃する能力をもっている」と示唆する発言など、前述の4名による大量の不穏なやりとりが開示されており、総合して考えると少なくとも辻褄は合う。

ほかにある注目すべき点としては、RedShield氏が海外メディアEurogamerからのインタビューを受けて語った内容がある。同氏は『Titanfall』への攻撃に関する記事において、コミュニティ主導の対策を提案している。記事のなかで同氏は「Respawn Entertainmentに対して、事態の恒久的解決のために我々(コミュニティメンバー)に『Titanfall』サーバーのモデレートやユーザーのBAN権限を譲渡してはどうかと提案した」と語っている。

告発文章ではこのインタビューの前に、RedShield氏がMrSteyk氏とEurogamer記者への答弁の内容を相談する様子が示されている。そのなかでは「Eurogamerにどの程度情報を開示するか」といった会話がなされており、MrSteyk氏が「『Apex Legends』については何も喋るな、『Titanfall 2』が『Titanfall』と同じ状況になるかもしれないと言ってくれ」と発言しているのが確認できる。この会話のなかには、MrSteyk氏が『Titanfall 2』ストリーマーをサーバーから締め出す行為をおこなったと認める発言が含まれている。つまり、この会話が実際におこなわれたのであれば、RedShield氏は身内によるハッキング行為を認識しながらEurogamerのインタビューに答えていたことになる。

また、開示された証拠のなかにはチート行為に関するものも含まれている。MrSteyk氏については『Apex Legends』においてチートを利用しているスクリーンショットや、ゲーム内のテキストを改竄している様子、またチートの実装についてのノウハウをあけすけに語る様子などが明らかにされている。
 

 
一方で、“容疑者”にされたp0358氏は、告発の内容を強く否認している。同氏はTwitter上の一連の投稿で「もっとも信頼していた人々から裏切られた」とコメントして、告発が嘘であると主張し、告発者たちを強く非難している。また、今回の一件を扱った海外メディアKotakuの記事によれば、RedShield氏についても、今回の告発は中傷を目的として「文脈を無視した」調査結果であるとしてハッキング実行を否定している。同氏は著名YouTuberに打診して、今回告発された側からの意見を伝える準備をしているそうだ。

ファンによる歪んだ愛情が動機だと見られた7月4日の『Apex Legends』ハッキング事件はしかし、さらにいびつな魂胆が背景に潜んでいたのかもしれない。現状ではどちらの主張が事実であるかは判断を待つ状況だ。しかし、告発と報道がなされた以上は、事態が真相の究明に向けて動いていくと願いたい。