『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』を“目隠しクリア”するスピードランナー出現。記憶と経験、音を頼りに戦国を駆けた修羅

フロム・ソフトウェアが手がけた人気アクションゲーム『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』を、目隠し状態でクリアしたプレイヤーがあらわれた。目隠し状態でのクリアという常軌を逸したチャレンジだ。

フロム・ソフトウェアが手がけた人気アクションゲーム『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』は、難易度の高さでも一目置かれる作品だ。油断を見せたプレイヤーを一瞬で死に追いやる本作を、目隠し状態でクリアしたプレイヤーがあらわれた。題材の性質上、本稿には作品のネタバレが含まれるため、未プレイの方は注意されたい。


『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』は、戦国時代を舞台にしたアクションアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは隻腕の忍び「狼(おおかみ)」となり、幼き主君をめぐる容赦なき死闘に身を投じていく。本作は練り込まれた世界観や物語、キャラクターたちがファンを魅了する一方で、かなり歯ごたえがありつつも緻密に設計された難易度設定も評価を集めている。プレイヤーは、一瞬の油断が命取りになる戦闘メカニックに適応しつつ、地形や道具などあらゆる要素を味方につけて戦闘に臨む必要がある。カテゴリーは、PC版で空中遊泳グリッチ「Airswim」を封じつつ「修羅エンド」を目指すもので、記録は23分24秒だ。つまり、Mitchriz氏は本作のスピードラン(RTA)においても一線級の精鋭である。

Mitchriz氏は、今回のチャレンジ以前には「一度も攻撃を食らわず」修羅エンドに到達するという挑戦も達成しており、こちらでも33分54秒という驚異的な記録を残している。また、自ら挑戦しつづけるのみならず、Speedrun.comの『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』カテゴリーにおけるモデレーターを担っており、各種テクニックのチュートリアル動画なども公開している。同作スピードラン文化に大きく貢献している人物だ。
【UPDATE 2021/8/17 18:20】
壁抜けグリッチについての記述を修正。またMitchriz氏についても補足説明を追記。

まさに同作スピードラン界の第一人者ともいえるMitchriz氏が手を伸ばしたのが、目隠し状態でのクリアという常軌を逸したチャレンジだ。“目隠しクリア”そのものは、他タイトルにて複数の挑戦者が達成している題材だ。目隠し状態でクリアされたタイトルとしては、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』、『スーパーマリオ64』、『Outlast(アウトラスト)』そして『スーパーマリオ オデッセイ』などが挙げられ、本誌でもその恐るべき挑戦について紹介した(関連記事)。実を言えば、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』においても限定的な目隠しチャレンジ自体はおこなわれていた。それは、Mitchriz氏とリーダーボード上で鎬を削るスピードラン走者、LilAggy氏が達成した「剣聖 葦名一心目隠し撃破」である。ゲームクリアを目指すのではなく、終盤のボスを目隠しで倒す挑戦だ。


同氏のチャレンジがMitchriz氏のハートに火をつけた可能性はありそうだ。ボス撃破をするだけでも神業レベルである目隠しチャレンジ。比較的短時間で迎えられる「修羅エンド」ではあるものの、ゲーム全体を通すというのはさらなる苦難を伴う。実際、Mitchriz氏の目隠しチャレンジの様子をうかがえば、見ている方が腰を抜かしそうになるようなシーンが何度も訪れる。

まず、エリアの移動からして心臓に悪い。本作はクライミングや鉤縄を利用する、高低差のあるエリア設計が豊富だ。エリアによっては一歩踏み間違えれば崖から転がり落ちる場所や、建造物の梁(はり)を立て続けによじ登っていく場面もあり、画面を見ていてもハラハラするシーンはしばしば登場する。Mitchriz氏は、そうしたエリアを冷静なカウントや微調整によってどんどん走破していく。ここで注目したいのが、同氏がキーボードとマウスで操作している点だ。

キーボードではWSADの4方向でプレイヤーキャラクターを動かすため、コントローラーのアナログスティックよりも定量的な操作が可能だ。そのため、目隠し状態でも同じ操作を再現しやすい。細い梁を連続して登るシーンでは、主人公である「狼」が直角にキビキビと方向転換している様子が見られ、この操作方法と“目隠しプレイ”の相性の良さを物語っている。しかし、エリアでの行動を暗記して通過出来るだけでも凄いというのに、敵の存在さえ考慮して音を頼りに進行していくMitchriz氏のプレイは常軌を逸している。

Image Credit: Mitchriz on Twitch


さらに問題になるのが、ボスとの戦闘だ。本作のボスはそれぞれ目を皿にして取り組んでもプレイヤーを仕留める難敵揃いであり、Mitchriz氏もさすがに目隠し状態での完勝とはいかなかった。しかし、同氏は戦略と経験、聴覚を頼りに「修羅エンド」の前に立ちはだかるボスたちを最終的には撃破。「獅子猿」1戦目などは何度か返り討ちに遭いアイテムを消耗しつつも、目隠ししているとは思えない動きで無事撃破している。

また、この記録の達成にあたっては目隠しやゲームプレイ以外の障害も立ちふさがった。インターネット接続の問題で、同氏のストリーミングが一時中断してしまったのだ。しかし同氏はやや落胆を見せつつも取り乱さず、チャレンジを再開して放送されなかったシーンを再度プレイし配信した。視聴者が確認できない空白時間が生じてしまったものの、同氏の実績と奮闘、として類まれなる技術から察するに“ズル”をしていた可能性はゼロに等しい印象だ。

そうした苦難を乗り越え、Mitchriz氏は「修羅エンド」最終ボス戦に突入。恐るべき技術をもってして、目隠しというハンデを背負いながら「薬師エマ」「葦名一心」のボス両名を冷静に下した。クリア時間、4時間35分13秒。通常のプレイスルーでも比較的早いクリアタイムであるが、目隠し状態での達成だというのだから恐ろしい。もちろん、途中のタイムロスを含んでの記録である。 葦名一心を倒した瞬間、同氏は大きな安堵の様子を見せた。それでも、目隠しは外さずエンドクレジットを静かに待つ。まさに残心の心得である。


同氏は、目隠しクリアのストリーム動画に「World First(世界初)」と銘打っている。同様のプレイがすでに実現されていないか筆者も確認したが、前述のLilAggy氏の「剣聖 葦名一心目隠し撃破」がもっとも今回のプレイ内容に近いものであり、「目隠しクリア」については前例が見当たらなかった。観測できる範囲では、Mitchriz氏の達成はたしかに世界初と考えられる。

経験と技術、研究に裏付けられた今回のチャレンジは、まさに偉業であると言えるだろう。しかしながら、筆者は同氏のひたむきな姿と異常なテクニックを見て、スピードランに全身全霊をかける「修羅」の恐ろしささえも感じた。なお、Mitchriz氏が記録を達成したのは約3日前のことであるが、本日も目隠しランのタイム短縮を試みていたようだ。世界初と見られるこの記録が、同氏によってさらに短縮される日も近いかもしれない。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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