Activision Blizzard訴訟問題、セクハラ容認を示唆するグループチャットの内容が一部明かされる。「マクリー」氏などが非難の的に
Activision Blizzardおよび子会社の訴訟問題が、元従業員・現役従業員やコミュニティ、そして業界関係者たちへも波及しつつ過熱の一途を辿っている。海外メディアKotakuは7月29日、訴状でも実名が挙げられたAlex Afrasiabi氏と、周辺の従業員による不適切な行動を調査し、ソーシャルメディア上での投稿などを公開した。
Activision Blizzardおよび子会社は7月20日、女性従業員に対するセクシャルハラスメントや待遇の不平等などがあったとして、カリフォルニア州の公民権保護機関である公正雇用住宅局から訴えられていた。この訴訟および重役の対応を発端として、Activison Blizzard内外から同社への批判がエスカレートしている。従業員たちは連名による公開状を作成し、その後同社CEOであるBobby Kotick氏が改めて謝罪と今後の対応を示す声明を従業員に送信、一般向けにも公開されるに至った(関連記事)。
こうした一連の動きのなかで、個人として比較的大きな批判を集めているのが、訴状で実名を挙げられた『World of Warcraft』元クリエイティブディレクター(2020年に同社から解雇されている )のAlex Afrasiabi氏だ。訴状のなかでAfrasiabi氏は、ゲームイベントBlizzCon開催中に女性従業員へのセクシャルハラスメント行為をおこなったと訴えられている。ハラスメント行為で有名な人物であることから、同イベント開催中にAfrasiabi氏が泊まっていた部屋は“Cosby Suite(コスビーのスイート)”と通称されるほどであったとのこと。
Kotakuは、この“Cosby Suite”とAfrasiabi氏を取り巻く従業員たちについて、関係者の証言を交えて調査した記事を公開した。同誌はFacebook上で発見したとする“Cosby Suite”におけるグループ写真やグループチャット履歴とされる画像など、社内文化の一端を示す情報を記事上で明らかにしている。
まず、“Cosby Suite”という名称について説明したい。Cosbyはアメリカのコメディアン、Bill Cosby氏に由来するようだ。同氏は奇妙な柄のセーターの着用を一種のトレードマークとしている。複数の証言者がKotakuの取材に対し、そうした変なセーターの柄のような内装の部屋を指して、Cosby氏の名前を使ったジョークを言う文化があったと主張している。Kotakuが公開した画像では、Afrasiabi氏と複数の従業員がCosby氏の写真を掲げて記念撮影をしている様子も見られる。しかし問題となるのは、Bill Cosby氏が2005年頃と2014年頃に性的暴行に関する訴えを起こされ、多額の賠償金の支払いや一時的な服役(後に釈放)などをした経緯がある人物だということだ。
つまり、Cosby氏は性的暴行に関連付くイメージをもたれる芸能人だといえる。Kotakuによれば、2013年のBlizzConにおいて利用された“Cosby Suite”とされる画像には、先述したセーターの柄に関連するジョークに当てはまるような奇妙な柄の内装は見られず、また画像へのコメントには性的な内容のコメントがついていたとのことだ。少なくとも一部従業員は“Cosby Suite”という名称と性的暴行を関連付けていたと推測される。
Kotakuは、このCosby Suiteに関連すると見られる「BlizzCon Cosby Crew」なるグループチャットの履歴画像を公開している。画像を見るかぎりでは、Alex Afrasiabi氏自身が同グループ内での性的な会話を笑いのタネとして、履歴の一部をFacebookに公開しているかたちのようだ。画像のなかでのやりとりを以下に訳す。
まず、現在Deviation Gamesでクリエイティブディレクターを務めるDave Kosak氏が「Cosbyに連れてく可愛い子集めてる」と投稿し、Afrasiabi氏が「連れてこいよ」と返信している、このやりとりだけでも、事実であればCosby Suiteの使用目的のひとつに「異性間の接触」があったことを示唆するものだろう。
そしてKosak氏がAfrasiabi氏に向けて「全員とは結婚できないよAlex(Afrasiabi氏)」と返すと、同氏は中東の一夫多妻制を踏まえ「俺は中東系だから、できるよ」と返答している。そこにBlizzard Entertainment社現リードレベルデザイナーのJesse McCree氏が「(結婚じゃなくて)性交渉の間違いだろ」と茶化すコメントを投稿して、一連の会話は終了している。なおAfrasiabi氏はBlizzCon 2013での一連の不適切な言動を受け、2020年に会社の調査が入り、解雇されている。また、現在『World of Warcraft』リードゲームデザイナーを務めているCory Stockton氏が上記とは別の文脈でチャットに投稿をしており、グループメンバーの一員だったと目されている。
『オーバーウォッチ』ファンは、上述のJesse McCree(ジェシー・マクリー)氏の名前にピンと来るのではないだろうか。同作にはフルネームを同じくする「McCree(マクリー)」というキャラクターが存在する。開発者のMcCree氏から取ったと考えられるこの名称に、海外の一部ファンは強い嫌悪感を示しているようだ。SNS上では『オーバーウォッチ』のマクリ―について名称の変更を求めるユーザーも見られるものの、支持は乏しい状況だ。
一方で、『World of Warcraft』については、開発チームが不適切な由来の名称などを変更すると発表し、修正を実装している。同作関連サイトWowheadの調査によれば、男性NPCの「Field Marshal Afrasiabi」が女性NPC「Field Marshal Stonebridge」に、武器「Fras Siabi’s Axe」が「Grimm’s Cigar Cutter」に改名されるなど、上述のAfrasiabi氏にちなんだ名称が多数改変されているようだ。
前述したActivision BlizzardのCEOであるBobby Kotick氏による声明のなかでは、ゲーム内にある不適切なコンテンツの変更についても約束されている。『World of Warcraft』内での名称変更は、こうした公約を実践したものかもしれない。
しかしながら、Kotick氏の声明は従業員の多くを納得させるには至らなかったようだ。Activision Blizzard社従業員多数は、日本時間の本日未明から、Blizzard Entertainmentのカリフォルニア州アーバイン社屋およびリモートでストライキを決行したようだ。この運動の主催者たちは、Kotick氏の声明について強い不満を述べる意見を表明している。問題視されているのは、Kotick氏の声明が従業員たちの求めるいくつかの要求に触れていない点だ。具体的には、従業員による会社への訴訟を制限して内々での仲裁を促す「強制的仲裁(Forced arbitration)」の取りやめ、平等性を保つために給与に関する透明性を向上することなど、4つの要求が盛り込まれていないと主張している。
また、Activision Blizzard従業員たちの動きに呼応して、Ubisoftの元従業員・現役従業員たちが業界全体への職場環境改善を求め、Activision Blizzard従業員たちを支持する旨の連名公開状を作成し開示している。Ubisoftは近年、社内でのハラスメントや職権乱用を巡る告発が相次いでいた。同社の従業員たちにとって、Activision Blizzardにおける一連の出来事は、強いシンパシーを抱かせるものだったのだろう。
訴訟の展開を待たずして、Activision Blizzardは社内外からの痛烈な批判を受け、対応を迫られている。控える各新作のことも案じられるが、開発には従業員たちが納得して働ける環境の構築が前提となるだろう。