新作ゲーム『HUMANKIND』開発元、同作を”コピーガード技術Denuvoを外して”発売すると発表。「ゲームパフォーマンスとの両立が難しい」から

Amplitude Studiosは7月15日、来月8月18日にリリース予定のストラテジーゲーム 『HUMANKIND』について、コピーガードソフトウェア「Denuvo Anti-Tamper」を外した状態でリリースすることを発表した。なぜ、このような決断を下すことになったのか。

デベロッパーAmplitude Studiosは7月15日、来月8月18日にリリース予定のストラテジーゲーム 『HUMANKIND』について、コピーガードソフトウェア「Denuvo Anti-Tamper」を外した状態でリリースすることを発表した。同ソフトウェアがゲームパフォーマンスに与える影響を鑑み、ユーザー体験を優先した結果の決断とのことだ。PCGamesNが報じている。


「Denuvo Anti-Tamper(以下、Denuvo)」はDenuvo社が手がけるコピーガードソフトウェアだ。比較的強固なセキュリティを誇る反面、ゲームのパフォーマンスに影響を与えかねないとされ、ゲーム体験を損ねるものとして一部ユーザーからは嫌忌される傾向がある。また、ゲームに高度に組み込まれて動作する仕組みとなっているため、ゲームにおける実装手法によってパフォーマンスへの影響もまちまちと見られている。

最近では『バイオハザード ヴィレッジ』PC版に実装されていたDenuvoが同作のパフォーマンスに与える影響が、ユーザーや海外大手テック系メディアDigital Foundryにより指摘され、カプコン側が対応するかたちで改善パッチを配信するに至った(関連記事)。リリース以降議論が重ねられていた「Denuvoがゲームの動作を重くする」という現象が、特定の実装例では起こりえることを、大手メディアが実証したかたちである。

基本的にパフォーマンスの問題が指摘されていたのは、アクションゲームなど、描画の変動や戦闘などのインタラクションが激しいタイトルが中心だ。一方で、今回Denuvo実装見送りが発表された『HUMANKIND』は比較的動きが控えめなストラテジーゲームだ。こうしたジャンルにおいて、開発側がDenuvoのパフォーマンスへの影響に言及した点は注目に値する。また、“リリース前”にDenuvoを外すことを表明したケースについてもかなり珍しい。なぜ、このような決断を下すことになったのか。


今回、Amplitude StudiosがDenuvoを外してリリースすることを決断した背景には、前述のようなパフォーマンスとゲーム保護の間のジレンマが存在したようだ。同スタジオヘッド兼CCOのRomain de Waubert de Genlis氏が、Denuvoを外すことを伝えるフォーラム投稿で、その思いを綴っている。

Romain氏が投稿したのは、同スタジオ主催コミュニティGames2Getherに立てられたユーザーによるスレッドだ。スレッド主は書き込みにて、「Denuvoを実装する必要性はわかるものの、どうかリリース後に外してほしい」という旨の意見を表明。Denuvoがもたらすパフォーマンス面への影響や、Denuvoがもたらすオンライン接続の必要性について懸念を示していた。同スレッドにおいて、ユーザー間での激論が加熱する中、Romain氏により公式としてのスタンスが表明されたのだ。

Image Credit: Romain de Waubert de Genlis/Games2Gether


Romain氏は「クローズドβテストでのデータを元に、『HUMANKIND』リリース時のDenuvo実装を見送ることにしました」と述べた。まず同氏は、海賊版の発生がゲーム開発に与える影響が大きいものであると説明。そして本作『HUMANKIND』は、実際の開発に約4年をかけ、同氏の個人的な夢のプロジェクトとしては約25年の歳月をかけた大切な作品であると述べた。また同氏は「Denuvoがたとえ数日間でも海賊版の作成を押し留めてくれるのなら、リリースに際して十分な助けになります」と語り、テスト版にDenuvoを盛り込んでいた理由を説明した。

ゲームを守るためにDenuvoを導入するというのは、無論デベロッパーとして当然の判断だ。しかし、Romain氏およびAmplitude Studiosはあえて実装を見送る決断を下したという。同氏は「私達にとって最優先なのは、私達のゲームを購入しサポートしてくれるプレイヤーたちに、可能な限り最高のゲーム体験を届けることです」と方針を表明、Denuvoが正規に購入したユーザーのゲーム体験を損ねることはあってはならないと述べた。

また、Romain氏は「パフォーマンスとDenuvo実装の両立は可能」との見解も示している。同氏は、クローズドβテスト中にDenuvoの機能とパフォーマンスを両方保つことを目標にしていたものの叶わず、同作リリースまでに改善することが難しいため、Denuvo実装を見送ったとしている。つまり、Denuvoが必ずしもゲームに大きな悪影響を与えるわけではないものの、最適化するには高度な技術と開発期間が必要になるということだろう。同氏は後の補足投稿で、『HUMANKIND』にリリース後あらためてDenuvoが実装される予定はないと明白にしている。


Denuvoをリリース後に取り下げたタイトルについては、公式に告知せず“こっそり”外したケースが多い。本作『HUMANKIND』のパブリッシャーであるSEGAが手がけたPC(Steam)版『龍が如く0 誓いの場所(Yakuza 0)』については、発売から約半年後に配信されたパッチと共にDenuvoが外されている。開発元が一存でコピーガードの実装について決定したとは考えづらく、今回のDenuvo実装見送りについては、Amplitude StudiosとSEGAが意見の一致を見た上での決断とも推測できる。

前述の『バイオハザード ヴィレッジ』にまつわる一件や、今回のケースにより、ゲームのパフォーマンス面へ影響を与えうることが浮き彫りとなったDenuvo。ユーザー体験のために発売前にしてコピーガードを外すと開発側が表明したケースもやや珍しい例だ。今後、Denuvoの是非についてさらにオープンな議論が活発化していくことが予想される。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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