セガが、プライズゲーム機「Key Master」の“景品排出制限”を理由にアメリカで提訴される。一定クレジット投入までは出ない仕組みか

 

セガの米国法人Sega of Americaが、過去に同社が手がけたプライズゲーム機「Key Master」についての訴訟に直面している。カリフォルニア在住の男性を代表とする集団訴訟(Class Action)となる本件の争点は、「どんなに上手いプレイヤーでも一定額を投入するまで景品が取れないよう操作されているが、その情報が消費者向けに開示されていない」という主張だ。同機に関しては、過去にも別の集団訴訟を起こされていた。海外メディアPolygonが報じている。


今回の訴訟は、米国カリフォルニア在住の男性Marcelo Muto氏が自身を代表として、カリフォルニア州東部地区連邦地方裁判所(東部地区)に現地時間7月12日提訴したもの。被告はSega of AmericaおよびPlay It! Amusements(現Sega Amusements)と、Key Masterの開発元であるKomuse Americaだ。

Key Masterは過去にセガおよびKomuse Americaが手がけたプライズゲーム機だ。主に海外で人気があり、後述の騒動の的になったほか、国内向けにも2013年頃から展開されている。ゲームの仕組みとしては、鍵穴状の枠に鍵型のアームを差し込み、無事通り抜ければ景品がゲットできる、というシステムになっている。

現在Sega of Americaでは同機種の取り扱いはしていないようで、同社のKey Master商品ページは消えている状態だ。しかし、ほぼ同じ筐体を利用していると見られるプライズゲーム「Prize Locker」が展開されている。こちらは「スキル100%」を謳っており、騒動の影響か動作にも改修が加えられていると見られる。


まず、Key Masterに関しての訴えが起こったのは今回が初めてではない。2013年と2014年には、それぞれ別の原告が「Key Masterがプレイヤーのスキルではなく、確率や投入金額によって景品の獲得を左右している」と主張、その情報を開示せず消費者を騙したとして賠償を求める訴えを起こしている。

また、Polygonによれば2019年にはアリゾナ州が「Key Masterは(アリゾナ州法では)カジノでのみ許可されているスロットマシーンに近い仕組みだ」と主張。アーケードゲーム機の流通会社であるBetson Coin-Opを提訴していた。こちらの訴訟は、Betson Coin-Op側がアリゾナ州におけるKey Masterの販売/レンタルを停止、および100万ドル(約1億1000万円)をアリゾナ州側に支払うことに合意して幕が引かれた。

アリゾナ州での訴訟の結果や、一連の裁判とともに出回った資料からは、Key Masterがいわゆる「確率機」と呼ばれるタイプの機体ではないかと推測できる。確率機とは、プレイヤーの技術ではなく、「一定の投入金額への到達」などで景品がゲットできるか否かが決定されるプライズゲーム機のことだ。ウェブ上に流された「Key Masterのマニュアル」とされる資料や各訴状によれば、同機はプレイヤーの景品獲得を阻む2種類の機能を搭載しているとのこと。

Image Credit: Marcelo Muto/裁判資料より


そのひとつが、払い出しコントロール(Pay Out Control)機能だ。これはプレイヤーの数に応じて、景品を排出するかどうかを決定するシステムと見られる。マニュアルとされる資料によれば、こちらには「設定金額に到達するまで景品を排出しない」もしくは「設定金額に至るまでのどこかで景品を排出する」という2つのモードが存在するとのことだ。初期設定は700クレジットで、1から9999の間で設定可能とされている。

そしてもうひとつが、マニュアルとされる資料において強制的上方偏差(Compulsory Upper Deviation)として言及されている機能だ。こちらの機能は、その名前と1単位0.4mmと記載されている点から、アームの停止位置に誤差を生じさせる仕組みだと考えられる。こうした機能が存在していながら、「上手に操作すれば景品が取れる」と誤認させてプレイを促したのは不正にあたる、というのが今回の原告の主張だ。

Image Credit: Komuse on YouTube


国内でも、クレーンゲームなどのプライズゲームについては「確率やクレジット数で景品が手に入るか操作されている」という話題は絶えない。一方で、日本国の法においてこうした機能が違法にあたるかどうかと問えば、厳密に言えば適法にあたるようだ。というのも、そもそもゲームセンターにおいてゲームの結果に基づいて“賞品”を提供することは本来禁じられているのだ。

現在、ゲームセンターという業態は風適法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)において「風俗第五号営業」という枠組みにある。プライズゲームの景品については、こうした枠組みに組み込まれる以前から議論が進められており、現在においては市場価格が800円以下の物品であれば“「遊技の結果に応じて賞品を提供」することには当たらない”と警視庁により明文化されている。

すなわち、プライズゲームを提供する側としては、プレイヤーが投入するクレジットについて「アームを動かして物品が取れるかのワクワクを味わうための対価であり、賞品の提供は前提にない」という建前があるのだ。以前には大阪の事業者が「取れないプライズゲーム」により詐欺で摘発されたケースがあるものの、そちらは悪質な勧誘や高額な景品が問題になった結果の逮捕だった。プライズゲームに「確率やクレジット数により取れない内部的仕組み」が存在すること自体は、現在は法律上セーフと言える状況なのだ。


「取れるかどうかのワクワク感を味わう」と言われれば、たしかにプライズゲームのプレイ体験の実態に沿っている印象はある。しかしながら、景品獲得を阻むシステムが存在し、その旨が開示されていないとすれば、消費者として「騙された」といった思いを抱くのも無理はない。今回の米国での訴訟がどういった道を辿るのか、そして今後のプライズゲームが消費者心理に対してどうアプローチしていくのか、慎重に見守っていきたい。