『バイオハザード ヴィレッジ』海賊版にてゲームパフォーマンス向上が報じられる。ゲームを守るコピーガードのジレンマ


『バイオハザード ヴィレッジ』PC版のコピーガードがクラックされ、それによりゲームのパフォーマンスが向上したとの報告がなされている。同作で採用されているコピーガード「Denuvo Anti-Tamper」は、比較的強固である反面、ゲームの動作への悪影響がしばしば指摘されている。今回の報告が事実であれば、Denuvoの風評にまた一石を投じることになりそうだ。DSOGが報じている。


Denuvo Anti-Tamper(以下、Denuvo)は、名を同じくするDenuvo社が提供するコピーガードシステムだ。2013年以降、アップデートが続けられており、数々の大型タイトルに実装され、一定の成果をあげている。一方で、Denuvoを採用したタイトルにおけるゲームプレイ中のパフォーマンスの低下についても、以前からユーザーや各メディアにより指摘されている。そのため、Denuvoに対して批判的な見方をするユーザーも少ないとは言えない状況だ。

実際にDenuvoがゲーム動作パフォーマンスに与える影響はどうなのかというと、総合的には“やや低下する傾向がある”と言える。しかし、パフォーマンスに与える影響は各採用タイトルによってまちまちと見られている。というのも、Denuvoはゲームプログラムに高度に織り込まれて動作する仕組みになっており、その実装は開発元によって異なるからだ。

例として、『Batman: Arkham Knight』での検証では、Denuvoの削除によって、ゲーム読み込み速度などに若干のパフォーマンス向上が見られた(関連記事)。ユーザーの過去の検証動画においては、Denuvo採用の一部タイトルで「カクつき(Stutter)」の原因となるフレームタイム(フレーム描画時間)が顕著に増加しているなどのデータが示されている。このようにDenuvoの実装によるパフォーマンスへの影響は多種多様で、誤差の範囲に留まっているタイトルも存在する。しかし、その動作原理にも起因して、些少だとしてもパフォーマンスの低下は避けられないようだ。


そうした背景もあり、海賊版コミュニティを中心にDenuvoは大型ゲームタイトルを守る“大ボス”のような扱いを受けている。海賊版関係の一部フォーラムなどでは、Denuvo関連のミーム投稿は日常となっているほか、Denuvoをクラックするシーンチーム(クラッカー集団)は注目を集める存在だ。今回、『バイオハザード ヴィレッジ』のクラックに成功したとされる「EMPRESS(別名C0000005)」もそうした著名クラッカーの一員だ。

海外掲示板RedditのEMPRESS関連コミュニティ/r/EmpressEvolutionには、『バイオハザード ヴィレッジ』のクラックに関するドキュメントが投稿された。そのなかでEMPRESSは、『バイオハザード ヴィレッジ』にはDenuvoおよび、「Capcom Anti-Tamper V3」と呼ばれる、カプコンによる独自のコピーガードが施されていたと述べている。EMPRESSは、同作ゲーム内で敵を倒す際などに発生しうるカクつきの原因は、カプコンの上記コピーガードに起因するものだと主張している。また、EMPRESSはカプコン側のコピーガードがDenuvoの仮想コンピュータ技術を利用して難読化(Obfuscation)されており、その点もゲームのパフォーマンスを低下させていた原因であるとコメント。「“消費者”はもっと良く扱われるべきだ」として批判の意思をあらわにしている。

また、正規版とクラック版のパフォーマンス比較動画を投稿するユーザーもあらわれている。動画において表示されているデータが確かだとするならば、クラック版の方が正規版よりも平均フレームレートが高く、カクつきの原因となるフレームタイムについては大幅に改善されている。こうした情報からは、『バイオハザード ヴィレッジ』においては、コピーガードがゲームのパフォーマンスに与える影響があったと考えられる。

Image Credit: KyoKat PC Gameplay on YouTube


しかし当然のことながら、ゲームのパフォーマンスが改善するとしても、海賊版の作成、配布は法的に許されない行為だ。ゲーム開発と販売もビジネスである以上、売り上げを守れなければ次の作品は開発できず、海賊版の氾濫はゲーム企業の衰退に繋がる。ゲーム企業各社が、ユーザー体験への影響が指摘されているコピーガードの実装を選択しているのは、海賊版行為からゲームを守るための決断だ。

コピーガードのゲームパフォーマンスへの影響が、クラッカーたちの“大義名分”として利用されている現状は、ゲーム企業にとって歯がゆいものだろう。今後もゲーム企業とクラッカーたちの間では、いたちごっこが続くことが予想される。いずれにせよ、割を食らうのは正規にゲームを購入する一般ユーザーたちだ。