『ザ・シムズ』のシム語は「声優が自分で考えたデタラメ」だった。『ザ・シムズ 2』参加声優が語る


長い人気を誇るライフシミュレーションゲーム『ザ・シムズ』シリーズ。同作のなかで登場人物が用いるのは、「Simlish(シム語)」と呼ばれる、何語ともつかない言葉だ。ファンの間では、元となった言語やその意味についてしばしば話題にあがり、ミームとなっている側面もある。今回、そうしたシム語の真実の一部を、『ザ・シムズ 2』に参加した声優が明かした。

『ザ・シムズ』シリーズは、開発者ウィル・ライト氏を中心として開発されたロングランシリーズだ。初代作品は国内タイトル『シムピープル』の名で発売され、世界的に根強い人気を集めている。同作の魅力といえば、ゲーム内の住民である「シム」同士による多彩なコミュニケーションの様子だろう。シムたちは、ときに楽しげに、ときに喧嘩腰でおしゃべりする日々を送る。とはいえ、シムたちは現実に存在する英語などの言語を使って話すわけではない。シムがしゃべるのは、シム語という架空の言語だ。これは聴いただけではランダムな音が組み合わさっただけの法則性のない言語で、繰り返し聞いてもその内容を推測することは難しい。

シム語は、国内では『シムピープル』のタイトルで知られる初作から一貫して、シムたちの会話言語となっており、現行の最新作『ザ・シムズ4』でもシム語は健在だ。同作は、現在も継続的にコンテンツの追加がなされており、6月29日から7月7日までは、ゲーム内で実在アーティストのライヴが開催されるという「シムセッション」イベントがおこなわれている。

このイベントに反応したのが、アーティストのLolo Zouaï氏だ。同氏はツイッター上で「公式なシム語に私の曲を翻訳してもらうには、どうしたらいい?」と投稿。同氏は前述のシムセッションには参加しておらず、同作プレイヤー兼アーティストとしての言及と見られる。シムセッションにおいて実在アーティストは、その持ち曲をシム語で歌うのだ。シム語は正体が明確になっていない言葉で、翻訳は困難を極める。「さようなら」のような意味で用いられる「スルスル(Sul-sul)」など、一部単語は一貫した意味をもっているように見られミーム化しているものの、その全容は明らかになっていない。
 

 
Lolo Zouaï氏のツイートを受けて、シム語の“真実”を語ったのが、ミュージシャンのKey BeyondことAndrew Chaikin氏だ。Chaikin氏は『ザ・シムズ 2』などシリーズ諸作に声優として参加していたとのこと。同氏は、Zouaï氏のツイートを引用するかたちで収録の裏側を告げた。「仕事を始める時に、開発チームからちょっとした秘密を教えて貰ったよ。シム語は存在しない。台本も存在しない。声優がでっちあげるんだ」
 

 
つまり、Chaikin氏の証言によれば、シム語は声優の演技によって作られたほぼデタラメの言語だというのだ。しかしながら、それでも完全にデタラメというわけではなく、「アメリカ英語っぽい」演技が求められたとのこと。また収録量もかなり多く演技のバリエーションも多岐にわたり、収録にはかなりの苦労をしたそうだ。同じ言葉の繰り返しになってはいけない、しかしボキャブラリーには限りがある。そんなジレンマのなか、Chaikin氏はひとつの方法を編み出した。

それは「雑誌を利用する」というものだった。Chaikin氏は雑誌を逆さまにして、文字を逆から読むことを繰り返し、シム語のボキャブラリーを増やしたそうだ。幾度もの長時間にわたる収録をそうして乗り切ったChaikin氏には副作用もあったようで、「頭が変になったよ、英語が喋れるようになるまで暫くかかった」と語っている。
 

 
思わぬところから裏側が明らかになったシム語。しかしながら、今回の証言はChaikin氏個人の体験を伝えたものだ。同作はかなりの長寿シリーズであり、シム語に関する方針も一貫しているとは限らない。そのため、シム語にさらなる裏事情が隠されている可能性はあるだろう。

シム語の一部には、前述の「スルスル」などに代表される、ある程度一貫した意味をもつと見られる単語なども存在する。そのため、諸作において一定のディレクションはなされていたとも考えられる。いずれにせよシム語には、開発チームや、『ザ・シムズ』シリーズおよびシム語生みの親であるウィル・ライト氏しか知らない事情がまだ隠されていることだろう。