Rockstar Gamesの人気作品、『グランド・セフト・オートV』をAIで“再現”する技術デモが登場した。制作者はYouTuber/プログラマーのHarrison Kinsley氏および、同じくプログラマーのDaniel Kukieła氏だ。両氏が制作し『GAN Theft Auto』と名付けられたプログラムは、元となるゲームエンジンを用いずに、AI技術のみで『グランド・セフト・オートV』ゲームプレイの一部をプレイ可能にしている。
『GAN Theft Auto』は、NVIDIAが作り上げたAIモデル「GameGAN」を利用したプログラムだ。動作している様子を見ると、画質はぼやけているものの『グランド・セフト・オートV』と同じように車が走り、ハンドルを切って旋回し、ライティングなども実装されているように見える。しかし、これらの映像はすべて、AIが作り出した“自動生成画像”なのだ。本プログラムの仕組みについて順を追って説明しよう。
本プログラムには「GAN(敵対的生成ネットワーク)」と呼ばれるAI技術が活用されている。これは「教師なし学習」と呼ばれる生成モデルの一種で、ざっくり言えば「生成者(Generator)」と「識別者(Discriminator)」と呼ばれる二つのネットワークが競い合い、学習精度を高める仕組みを特徴としている。例としては「実在しない人物の顔画像を生成する」、「物の名前から画像を生成する」といったプログラムなどに利用されている技術だ。
このGANを利用してNVIDIAが開発したのが、GameGANだ。こちらは文字どおりゲームの再現に特化したAIモデルで、『パックマン』40周年の折には、NVIDIAがこのAIモデルを利用し「ゲームエンジン無しで実際にプレイ可能な『パックマン』」を実現していた。“ゲームエンジン無し”とはつまり、ユーザーの入力を受け取ったAIが、操作に応じて「それらしい」ゲーム画面を自動生成するということだ。
GameGANの学習には、別のAIが操作する『パックマン』の入力信号、および画面変遷の膨大なデータセットが用いられていたそうだ。学習の結果、パックマンがドットを食べるといった基本ルールや、ゴーストの動きに至るまで再現されている。つまりAIが『パックマン』のゲーム内の“法則”を学習して、ゲームエンジンの助けなしに自力で再現しているというわけだ。
上記の技術を利用して『グランド・セフト・オートV』を再現したのが、今回の『GAN Theft Auto』だ。こちらもAIによる自動生成であるため、操作への反応や描画はすべてAIが「こう来たらこう」と予測したものを画面に映し出したものだ。また、単純な挙動のみならず、車体に照り返す光や路上に落ちる影、風景の動きなども再現している。こうした描画のすべてが、AIの学習によって再現されている点は驚きに値する。
『GAN Theft Auto』開発にあたって、Kinsley氏はNVIDIAからDGX Station A100というワークステーションを借り受けたそうだ。こちらは単体で価格100万円を超えるNVIDIA A100 GPUを4つ搭載しており、AIコンピューティングに特化しているマシンだ。Kinsley氏とKukieła氏は、このマシンで12のAIを同時に実行、『グランド・セフト・オートV』ゲーム内の同じ高速道路を走行しているデータを学習させたとのこと。出力される映像については、AIによるスーパーサンプリング技術で荒いピクセル画像をなめらかに整えたとのことだ。
しかし、成果を見せたAIにも弱点はあるようで、その一つが衝突判定だ。Kinsley氏の動画では、NPC車両と接触により自車両の走行が妨げられている様子がうかがえる。しかし、複雑な挙動を再現しかねたのか、NPC車両はやがて画面から消えてしまう。また、警察NPC車両との正面衝突では、相手の車両が真っ二つに分かれてしまっている。NPC車両については、自車や風景に比べてはるかに多様な動きを見せるため、AIにとって学習難易度が高かったのかもしれない。これもまた、実験としては興味深い結果である。
なお、『GAN Theft Auto』は約2ヶ月ほどで開発されており、プログラムはKinsley氏のGithubにて公開されている。こちらについては「通常のPCでも動作可能なはず」とのことだ。ただし、実行にはPythonの動作環境、および機械学習ライブラリの導入が必要であるため注意されたい。
AI技術が『グランド・セフト・オートV』のような高度なゲームでさえも、ある程度再現してしまえるのは驚くべきことではないだろうか。そして、ゲーム開発と密接な関係にあるAIの進歩は、ゲーマーにとって喜ばしいことだろう。今後の発展次第では、「AIが作ったゲーム」を遊べる日も来るかもしれない。