Twitchは5月21日、公式ブログにて配信カテゴリーの新設を発表した。その名も「Pools, Hot Tubs, and Beaches(プール、お風呂、ビーチ)」だ。 一見突拍子もないこのカテゴリーがなぜ作られたのか。その背景には、Hot Tub(お風呂)系セクシー配信者にまつわる一連の騒動があった。
「セクシー配信者」の広告収益無効化騒動
ことの発端は、セクシー系Twitch配信者の広告収益が無効化されたという出来事だ。近年、Twitchでは、ビキニなど露出の多い衣装を身にまとっての配信が人気を集めている。それらの配信者は、Twitchの性的コンテンツに関する規制を回避するため、お風呂やプールを利用するケースが多かった。 Twitch では性的なコンテンツの配信について、ガイドラインにて規準が定められている。腰から下腹部および臀部までの範囲や、乳首の露出は禁止。授乳に関する例外措置や透明な衣服の着用禁止など、細かな取り決めが存在するのだ。
しかし、プールなど特定の場所ならば水着の着用を認めると定められている。「プールにいるから水着で露出が多いのは当然」というロジックだ。何が下着で、どの程度の露出がアウトなのか、といったガイドラインとの駆け引きをせず露出度の高い衣装で配信可能。こうした利点から、一部のセクシー系Twitch配信者の間でプールや風呂場での配信が人気に。以前から過熱していた風呂場(Hot Tub)配信は、2021年に入り、とりわけ勢力を拡大。セクシー系 Twitch配信者 Kaitlyn “Amouranth” Siragusa氏などが筆頭となり、お風呂に浸かりながらの配信を続けていた。
そうした状況のなか、Amouranth氏の広告収益が無効化された。 Amouranth氏は、セクシーな衣装を身に付けたお風呂配信での、視聴者との交流を主戦場にしている配信者だ。Amouranth氏は今月5月19日、自身のTwitterアカウント上で「Twitchの広告収益が停止された」と報告していた(関連記事)。
この出来事は、配信者ふくむコミュニティに波紋を呼んだ。先述のとおり、お風呂場における水着配信は“コンテンツとしては”認められている。一方で、広告配信の対象になるかどうかには、別のジャッジがはたらくことが判明したわけだ。一部のユーザーには、「Twitchはお風呂配信を排除しようとしているのではないか」という懸念も生じた。ユーザー間では、露骨に性的なコンテンツであるお風呂配信の是非をめぐった議論も激化。そんな中、とうとうTwitchが公式にセクシーお風呂配信への姿勢を明確にしたのだ。
Twitchはお風呂配信「許容」
Twitchは今回の発表のなかで、「他者からセクシーだと思われることは、私達のルールに違反しません。Twitchは女性、およびいかなる利用者についても“他者から魅力的だと思われる”ことを理由に取り締まることはしません」と明言。ポルノや禁止された性的コンテンツにあたらないかぎり、規制することはないという姿勢を明らかにした。
Twitchは、前述の広告収益無効化の理由についても触れている。いわく「広告主の多数から広告配信NGと報告された配信者について、広告配信を停止した」とのことだ。つまり、自社ブランドの広告が、“セクシーさを押し出した配信”に表示されるのを望まない広告主が存在したのだろう。また、Twitchは広告停止について「事前に通知すべきだった」としている。広告が停止された配信者にそれぞれコンタクトを取り、適切な広告を復帰させていく予定とのことだ。
今回の「プール、お風呂、ビーチ」カテゴリーの追加は、そうした広告主と配信コンテンツの摩擦への対処の一環のようだ。今までのセクシーなお風呂系配信は、雑談(Just Chatting)カテゴリーでおこなわれることが多かった。つまり、普通の雑談とセクシーお風呂雑談を切り分けられていなかったのだ。
Twitchは「ブランドが広告をターゲティングしたり、停止したりするために個人の“保護されるべき特性(protected characteristics)”を利用させることは絶対にありません」と述べている。セクシーお風呂雑談をカテゴリー化することで、配信者個人を名指しすることなく、適切な広告配信先を選択できるようにする配慮だろう。
また、このカテゴリー切り分けは視聴者の利便性を向上する狙いもあるようだ。お風呂配信に興味のないユーザーは同カテゴリーがおすすめされることを防ぐことができ、見たいユーザーはフォローすればいい、ということだ。Twitchは「視聴者が自身におすすめされるコンテンツを選択できること、広告主がどのようなコンテンツに広告が表示されるかを選べることが重要だと考えています」と述べている。Twitchは現在、視聴者・広告主が表示コンテンツ・広告をコントロールできる、より堅固なシステムを開発中とのことだ。
Twitchは、今回のカテゴリー追加は短期的な対策にすぎないとして、ほかにも長期的な対策をおこなう姿勢を示した。また、性的な示唆が含まれるコンテンツに対するポリシーを、今後数か月のうちにアップデートする予定とのことだ。また、水着を着たストリームは原則としてすべて「プール、お風呂、ビーチ」カテゴリーを選択する必要があり、カテゴリー外にて水着配信を発見した場合はメールにて通知のうえ、Twitch側で「プール、お風呂、ビーチ」カテゴリーに移す措置がとられるという。
お祭り騒ぎの「プール、お風呂、ビーチ」カテゴリー
新設された同カテゴリーは本稿執筆時点で、さっそく2.4万人のフォローをあつめ、2.8万人が同時視聴するという盛況を見せている。コンテンツはほとんどお祭り騒ぎの様相だ。前述のような正統派(?)のセクシーお風呂配信のほか、3Dの女性キャラクターや、男性の配信も目立つ。中には際どい衣装でひたすらDJプレイをしながら踊る謎の男性二人組の姿も。
ほかにも、「ロード・オブ・ザ・お風呂: 二つのお風呂」というタイトルで、映画「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」の違法配信をするアウトな配信者までいる混沌っぷりだ。一方でウィットに富んだものもあり、海洋動物レスキューセンターのチャンネルは、救助されたラッコが水辺で休む様子を配信しており心が和む。PC Gamerは『ウィッチャー3 ワイルドハント』の主人公、ゲラルトの入浴シーンをひたすら流しており、「なるほど、お風呂配信だ」と思わされる。現在はパーティー状態の「プール、お風呂、ビーチ」カテゴリー。中には不適切に思われる配信もちらほら混じっており、今後Twitchの手により一定の秩序がもたらされる必要はありそうだ。
同カテゴリーの新設は、広告主との摩擦を回避する上でも重要な変更だと見られる。また、素直に受け止めるならば、Twitchのお風呂配信への許容的な姿勢を示すものだろう。しかしながら、前述のお風呂配信者Amouranth氏はTwitter上に、他配信者へのリプライというかたちで、懸念を示す投稿をしている。
Amouranth氏は「カテゴリー分けがお風呂配信を潰しちゃうんじゃないかと、実は少し心配してる」と述べている。同氏はお風呂配信がTwitchによって「隅に追いやられた」とも感じているようで、お風呂配信スタイルの扱いにまだ懸念を抱いているようだ。
いまだTwitch上での性的コンテンツの立ち位置については、先行きに不透明さが残る。いずれにせよ、今後Twitchがさらにガイドラインを更新し、より多くの視聴者/配信者が、安心して利用出来る環境が整うことに期待したい。