乙女ゲー『アンジェリーク ルミナライズ』の男子高校生が“Twitter上で失踪”。半年かけて生活し、1か月かけて消される


コーエーテクモゲームスが5月20日に発売予定の恋愛シミュレーションゲーム『アンジェリーク ルミナライズ』にて、2020年7月よりおこなわれていたTwitterでのプロモーションに大きな動きがあった。攻略対象として登場する男性キャラクター・カナタが日常を綴る形式で運用されていたTwitterアカウントにおいて、とある異変が起きたのである。 

カナタのアカウントは、現代世界においてごく普通の男子高校生としての生活をツイートするアカウントだった。4月27日の朝方に「聖地へ連れ去られた」ことを示唆するようなツイートを残して更新を停止。その後、一部のツイートが削除されたのだ。アカウントのフォロー数は0になり、友人(という設定で運用されていた別の公式アカウント)とのリプライも消滅。この世界での存在を抹消されてしまったかのような演出に、長くカナタの生活を見守っていたファンの間に激震が走っている。 
 

『アンジェリーク』シリーズとは 

『アンジェリーク』シリーズは、コーエーテクモゲームスの女性社員を集めた開発チーム・ルビーパーティーが手掛ける恋愛シミュレーションゲームだ。シリーズ第1作目『アンジェリーク』が発売されたのは1994年のこと。男性キャラクターを攻略対象とし、主な購買ターゲットを女性に絞った、いわゆる「乙女ゲーム」としては世界初となるタイトルである。魅力的な世界観やキャラクター、重厚なストーリー展開には根強いファンが多く、5月20日発売の新作『アンジェリーク ルミナライズ』は恋愛シミュレーションとしてはシリーズ5作目にあたる。 
 

 
『アンジェリーク』シリーズの世界では、人々が暮らしている「宇宙」は女王と9人の守護聖たちに守られているという設定だ。シリーズの主人公たちはさまざまな経緯によって女王候補に選ばれ、ライバルと切磋琢磨しあい、恋愛対象キャラクターである守護聖たちと仲を深めながら女王としての素質を開花させていく。 

守護聖は炎や水など9種類の聖なる力・サクリアを司る存在で、もともとはただの人間だ。先代の守護聖が力を失ったり、後継を指名したりすることで代替わりとなり、素質のある者が聖地へと召喚される。聖地と元の世界では時間の流れが違い、聖地に召喚されてしまえば元の世界とは異なる時空を生きることとなる。 

『アンジェリーク ルミナライズ』で主人公やカナタが暮らしている世界・バースでは、宇宙や女王、守護聖の存在は神話化してしまっており、おとぎ話と同じような扱いをされている。バースは現代とほぼ変わらない世界のようで、彼らはプレイヤーである我々と同じような生活を送っている。しかし、ある日突然、主人公は女王候補、カナタは水の守護聖に選ばれ、「令梟の宇宙」の浮遊大陸「飛空都市」へと連れて行かれてしまう。 

そして、カナタについてはなんと2020年7月からその運命への至るまでの入念な導入が行われていた。カナタ本人が呟いているという設定の公式Twitterが運営されており、水の守護聖として飛空都市に連れて行かれるまでの、現代世界における幸せなひとときが綴られていたのである。 
 

消えてしまった日常 

このカナタの公式Twitter、とにかく「等身大の男子高校生」感がすさまじい。公式が運営しているにもかかわらず、プロモーションめいた発言は一切ない。アイコンやヘッダーすらキャラクターのものではなく、なんてことのない猫と魚の写真である。 
 

 
マクドナルドの新作ハンバーガーを引用RTして「明日食べようかな」と呟いてみたり、迫る期末試験の心配をしたり、昨今の緊急事態宣言について鬱屈とした気持ちをぼやいてみたり。公式サイトのキャラクター紹介ページからのリンクが貼られていなければ、誰もゲームの公式アカウントだとは思わないだろう。しかし、このアカウントのフォロワーの大半はその後の彼の運命を知っている。何も知らずに日常を綴っているのは、カナタ本人のみなのである。
  

 
雲行きが怪しくなってきたのは今年の3月31日頃からだ。身体の不調を訴えるカナタ。熱を測っても平熱らしい。「オレかかっちゃったの?」と、新型コロナウイルスへの感染を疑っているようなツイートもあり、Twitterを見ている我々と地続きのところに彼がいることがわかるのが妙に生々しい。4月に入ると「指の先が光った感じがした」「誰かに見られている気がした」など、不穏なツイートが増え始める。そして4月27日、「目立つのに誰もあいつ気にしてない0743きた」というツイートを最後に、カナタのTwitterアカウントは更新を停止している。 
 

 
忘れ去られていくカナタ 

カナタは友人(という設定の公式アカウント)である「横溝海斗」と、Twitter上でときおりリプライを飛ばし合っていた。しかし現在では、カナタと海斗のアカウント間におけるリプライはすべて削除されている。また、カナタについて言及していた海斗のツイートもすべて削除され、両アカウントのフォロー数は0に。バースからカナタの存在が抹消されていく過程では彼らのTwitterのアイコンとヘッダーに、本作で女王と守護聖が守っている「令梟の宇宙」の紋章が浮かび上がっていた(現在は元のものに差し替えられている)。宇宙からの干渉を思わせる演出に、結末がわかっていても胸が苦しくなるファンは多かったようだ。 
 

令梟の紋章が浮かび上がっている様子 

ちなみに、海斗からカナタへの最後のリプライは、カナタが追われていることを訴えるツイートに対する「カナタLINEしてるから見て多分俺近くにいるから」である。4月27日の午前7時40分頃のやりとりで、それから1時間ほどでリプライは削除されてしまったようだ。水の守護聖に選ばれてしまったことでカナタの日常は一変し、最後に友人から心配されていたことも含め、バースでの出来事はすべて抹消されてしまったのだ。 
 

友人・海斗からの最後のリプライ(現在は削除されている) 

そして彼は水の守護聖となる 

『アンジェリーク ルミナライズ』公式サイトには、いくつかのショートストーリーが公開されている。そのうちの一編「バースにて ―予兆―」では、飛空都市に連れて来られるまでのカナタの様子を垣間見ることができる。Twitterで綴っていた身体の不調や、友人である海斗とのこと。宇宙の守護聖になることなど考えもしていなかった頃の彼が描かれている。 

また、他の守護聖たちがカナタのことを案じているショートストーリーもある。癖のあるキャラクターもいる守護聖たちだが、何も知らない状態から突然守護聖に着任することとなってしまったカナタに対しては同情的な意見も多いのだろうか。特に鋼の守護聖であるゼノは公式Twitterでもカナタへのメッセージを発信しており、特に彼を気にかけている様子が見て取れる。 
 

 
そして忘れてはならないのが、本作は恋愛シミュレーションゲームであり、カナタが攻略対象であるということだ。平凡で幸せな日常が一変してしまったカナタだが、プレイヤー次第で水の守護聖としての彼も幸せにできる可能性は高い。彼にとってもプレイヤーにとっても、これは救いと言えるのではないだろうか。 
 

 
昨年7月からの入念な仕込みを終え、発売前の丁寧な導入でファンを驚かせた『アンジェリーク ルミナライズ』。初めからカナタの結末がわかっていても苦しい気持ちになってしまったのは、ひとえに演出の妙と言えるだろう。一方で、話題を集めすぎた結果、一般ユーザーの心配を誘った部分もある。追いかけているユーザーからすれば、『アンジェリーク』シリーズの販促だと理解できるものの、あまりに等身大な投稿をしていることやPR表記をしていないことから、何もわからない人にとってはおおごとに思えてしまう。かといって、PR感を丸出しにしてしまうと見ている人を興醒めにさせてしまう。企業にとってはこの辺りのライン引きも悩ましいところだろう。 

いずれにしても、見る人の印象に強く残るPRであったのは間違いない。『アンジェリーク ルミナライズ』はNintendo Switch向けに、5月20日発売だ。また、5月6日にはセーブデータを本編に引き継ぐことができる体験版も配信される。水の守護聖としてのカナタが気になる方は、ダウンロードしてみてはいかがだろうか。 


ポストアポカリプスとドット絵に心惹かれます。AUTOMATONではFF14をメインに担当します。