中国の大人気ゲーム『王者栄耀』のバーバリーコラボが突然中止。新疆ウイグル自治区のコットン問題が、ゲームのコラボにまで影響を及ぼす

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今年の3月20日ごろ、中国で国民的な人気を維持しているゲーム『王者栄耀』が有名ブランドバーバリーとコラボし、ゲーム内で特に女性ユーザーに人気なキャラクター「瑶」向けの新たなスキンをリリースすることが発表された。しかしわずか数日後、このコラボ企画は中止されることになった。

※ 「瑶」の宣伝映像。ブランド品とのコラボのため、大きな収益をもたらすことが期待されていた。


モバイルゲーム『王者栄耀』は、中国でもっともプレイされているゲームのひとつ。2020年には、『王者栄耀』の平均DAU(一日あたりのアクティブユーザー)が1億に至ると公式に発表された。普段ゲームにまったく興味がないものの『王者栄耀』だけは遊んでいるという人も多い。公式データによると、女性ユーザーの割合は54.1%となっている

しかし3月25日ごろ、『王者栄耀』運営はバーバリーとのコラボイベントを中止すると突如発表した。中止直前まで今回のコラボのマーケティングをしていたことを見ても、今回の中止は急遽決まったことが分かる。もちろん、この決定を下すことで『王者栄耀』は多くの損失を出していると考えられる。

ではなぜ、このようなゲームに不利益をもたらす決断を下したのだろうか。中国共産党の指導下にある、若者向けの組織「中国共産主義青年団」(略称「共青団」)が3月25日にWeiboに投稿したある文章が、事件の始まりである。この投稿には、スウェーデンのファストファッションブランドH&Mを運営するHennes & Mauritz ABが発表した、企業責任についての声明文が添付されている。声明文にて同社は、BCI(Better Cotton Initiative、国際的な非営利団体であり、世界最大の綿花の持続可能性プログラム)の会員である以上、新疆ウイグル自治区のコットンを使用しないと約束している。この声明文について、共青団は批判。「新疆ウイグル自治区のコットンについて存在しないデマを作ってまでボイコットしながらも、中国でお金を儲かるつもりか?痴心妄想だ」と挑発的なコメントを出している。なお、中国機関紙におけるBCIに対する態度は、こちらの日本語記事も参考にできる

この投稿を受け、中国の多くのネチズン(ネットユーザー)が激怒。愛国心に満ちている彼・彼女らは、BCIに加入している会員のファッションブランドを次から次へと発掘し、不買運動をするよう呼びかけ、ネットで活動し始めたのだ。結果としては、日本のユニクロなども含めて、ナイキ、アディダスなどほぼすべての外資大手ファッションブランドがソーシャルメディアで標的になり、中国の多くのユーザーたちから批判を受けている。当局に直接指名されたH&Mは、中国の大手ネット通販サイトタオバオで店舗が強制的に閉め出されるなど、損失を被ることとなった。

タオバオで「HM」と入力しても検査結果には何も表示されない。これは普通のことではない。H&Mがブロックされていることの証明となっている。


不買運動の対象となったブランドの中には、上記の『王者栄耀』とコラボを発表していたバーバリーも含まれている。これが、今回のコラボが突如取りやめられたことのもっとも直接的な原因だ。多くの人が遊んでいるゲームゆえに、政治的に敏感な話題をさけたいところなのだろう。ビジネスのことを考えるならば、中国政府が主導する政治的な運動には、賛成する姿勢を示すのが最善なのだ。


中国は世界最大のコットン生産国であり、世界全体の生産量の25%が中国産、その中でも新疆ウイグル自治区産の綿花は中国国産綿花の八割を占めている。ではBCIがなぜ新疆ウイグル自治区産のコットンの認定ライセンスを取り下げ、また多くの世界的大手ファッション企業が新疆ウイグル自治区産のコットンを不使用と声明したのか。その背後には、新疆ウイグル自治区において、イスラム系の少数民族ウイグル族の人々が強制収容され、強制労働を余儀なくされているとの疑いが存在する

中国政府は、この人権を著しく侵害する収容所のことを公式に「職業訓練センター」と称している。その目的は、イスラム系のウイグル人によって行われうるテロ活動を事前に予防するためであると宣言している。この「職業訓練センター」を立てた2016年頃当時(もしくはもっと前)から、政府はこの施設が強制収容所であるとは認めていないのだ。2019年に流出した中国政府の公文書によると、この職業訓練を名目にするキャンプでは、前述した強制労働と令状なしの強制収容だけではなく、宗教儀式の禁止、ウイグル語の禁止、中国標準語の矯正など、洗脳教育も多くおこなわれている

そして昨年8月頃より、BCIが公正取引を守るために、新疆ウイグル自治区産の綿花の認定を取りやめた。H&Mを含め、多くの大手ファッション企業が新疆ウイグル自治区産のコットンを使わないとの声明を出したのも、昨年の秋頃だった。中国政府はなぜ、多くの動きがあった昨秋当時に動かず、それから半年後の2021年3月末になってから、新疆ウイグル自治区産綿花に関する挑発的なメッセージを発表したのか。

その背後にあるのはおそらく、今年3月中旬に入って実施された、欧米各国の中国当局への制裁措置が原因だ。BBCの報道によると、3月22日に実施された各国の制裁の対象には、新疆ウイグル自治区の収容施設に携わっている幹部たちも多く含まれている。また米国では、指定された人物は米国内に保有する資産を凍結するほか、取引も禁止するとのことだ。 

こうした流れを受けて、中国も対抗措置をいくつか発動した。上記のWeiboでの出来事は、その一環だ。これはいわゆる中国の「戦狼外交」であり、中国の思惑通りに動かない国に対して経済的な圧力をかけることによって、制裁を下すというもの。2019年、米国のプロバスケットボールNBAのチームであるロケッツのゼネラルマネージャーが、香港デモを支援するツイートを発信したことを機に、NBAが中国現地でのスポンサーを失ったことも「戦狼外交」の一例。ソーシャルメディアを利用して中国の人々の愛国心を煽動し、「中国で金を儲けたいなら中国のルールに従え」という認識を、多くの中国人の中に植え付けている。

また、この煽動が効果的に発揮できるのは、GFW(グレート・ファイアウォール、中国外のサイトへのアクセスをブロックする中国のWebシステム)のおかげだ。GFWが存在することで、多くの中国人は政府から許された情報のみ閲覧することができる。今回の新疆ウイグル自治区産コットンの件についても、国内のユーザーに対して新疆ウイグル自治区のコットンを支援するように告知されている。その背後の理由については一切説明されていないにも関わらず、である。多くの中国人は、新疆ウイグル自治区に収容施設があることすら知らないのだ。そして、このように世界と断絶された中国人たちの愛国心は、政治的に利用されている。これからもまた、利用され続けていくのだろう。

余談だが、今回新疆ウイグル自治区産コットン問題が中国国内で議論になったことが原因で、多くのソーシャルメディアで禁止キーワードとして指定された(禁止キーワードとは、「敏感詞」と称され、中国では投稿できない、または投稿されても削除されるワードのこと)「新疆」という言葉は、一時的に開放された。「私は新疆ウイグル自治区産コットンを支援する」と言わせたいためだろう。中国のネチズンはようやく、一時的とはいえ、暗号を使わずに「新疆」と言うことができるのだ。

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