『Dying Light 2』開発元の「暴言を吐くファンを受け入れる姿勢」に一部から反発の声。愛があれば汚い言葉は許されるのか?
ポーランドのゲーム会社Techlandは3月17日、『Dying Light 2』の続報を伝える映像を公開した。結論から言えば、『Dying Light 2』の開発にはもう少し時間が必要であることや、2021年内の発売を目指していることが明かされた。同映像では、そうした情報のほか、開発者からの直々のメッセージも発せられた。しかし、彼らの言動について、一部の開発者やメディアから疑問を呈されている。
熱心なファンへの感謝
映像の構成は、前半と後半のふたつに分けられる。前半は、開発者がSNSに寄せられたファンの声を読み上げつつ、訝しげな表情を見せるというもの。ファンの声にはどれも汚い言葉が含まれており、そうした表現を隠すためにピー音が多発している。後半は、開発者たちが直々に現状を報告するというものだ。『Dying Light 2』は複雑なゲームになっており、時間がかかっていること。長く遊べるゲームにするために、もう少し時間がいること。発売まで長く待たせていることから我慢できないというユーザーの気持ちもわかるということ。その気持ちを“どのように表そうとも”熱心なファンがいることを誇りに思っていると語った。
この最後の文言が、前半のファンの声を読み上げるパートにつながっている。つまり、映像前半に出てきたような暴言まじりの言葉であっても、ゲームに期待してくれているならありがたい。もしくはそうしたファンにも感謝していると伝えているわけだ。さっそく今回の映像に対しても、口調荒く失望と期待を表明するメッセージがTwitterなどで寄せられている。そうした声ですらもありがたいと、Techlandは表明しているのだろう。一方でTechlandのスタンスには一部から疑問が呈されているのだ。
たとえばGamesIndustry.bizの編集者であるBrendan Sinclair氏は、こうした暴言まじりのメッセージや振る舞いを、面白半分に取り扱うのは、業界にいるすべての人にとって悪影響だと断言。『Neo Cab』などに携わった現Failbetter GamesのBruno Dias氏も、Sinclair氏の意見に同調。自分が働いているスタジオがTechlandのような動画を出すならば、勤務中に別の仕事を探すと嫌悪感を示している。Kotakuでも同様に、暴言を許容することに疑問を呈する記事が公開されている。同記事にもTechlandの姿勢を問うユーザーコメントが寄せられている。
不安なファンの心証を察したか
なぜわざわざTechlandは、こうした動画を公開したのだろうか。推測に過ぎないものの、『Dying Light 2』の開発が難航していることに関連しているのかもしれない。そもそも同作は最初にゲームプレイ映像などが公開されてから、すでに2年近く時間が流れている。当初の発売予定時期は2020年春だった。しかし発売は延期され、情報が途絶えていた期間も長い。前作の人気が高く、発売が近いと思っていたファンにとっては、じれったい時間が続いている。
さらに、新たな情報がない期間、いくつかの内部告発報道もなされてきた。2020年5月にはポーランドメディアPolskiGameDev.plが、内部情報を入手したとして、Techland内のトラブルを報道。クリエイティブディレクターAdrian Ciszewski氏とヘッドライターChris Avellone氏が対立しており、決定事項がたびたび覆されるなど『Dying Light 2』の開発は混迷を極めていると報道していた。同年6月には前出のAvellone氏が、セクシャルハラスメントの告発をされたことにより、ヘッドライターの職を降りTechlandとの契約が打ち切られた。今年2月には、The Gamerより内部告発報道記事が公開。スタジオは体制に問題を抱えており、上層部の権力が強すぎることや身内優遇主義など、開発内のゴタゴタによりプロジェクトが進んでいないと、伝えられている。
開発延期が続いており、内部告発報道も出てきていることから、ゲームのクオリティそのものを危ぶむファンもいるわけだ。愛は時に憎しみになり、期待は時に失望になりかわる。心配と不満を抱えたファンはSNS上で声を荒げながら、『Dying Light 2』の発売を催促している。そうした声すらも受け入れ、そして懐柔することで、フラストレーションを解消させたいというTechlandの意図が、今回の動画から見え隠れする。
本当に暴言を受け入れてもよいのか?
実際に今回の動画についてのユーザー反応は好意的だ。Techlandを応援する声が多数寄せられている。そもそも、作り手とユーザーとの距離が近くなり、長期運営型のゲームが増え、継続的に遊んでもらうことが重要な昨今のゲーム業界では、ファンをエンゲージさせることは極めて重要。開発者が自己批判をしたり、さまざまな意見を聞いていると表明したりすることは、ファンを納得させエンゲージを高め得る。
そのほか英語圏では、有名人が一般人の過激めなツイートを読むことそのものをコンテンツ化する文化が存在している。米国トークショー「Jimmy Kimmel Live!」の人気コーナー「Mean Tweets」がその一例だ。海外IGNも、有名人やゲーム開発者がIGNに寄せられたユーザーコメントを読み上げて反応する「〇〇 Responds to IGN Comments」なるコンテンツを制作している。過去には『オーバーウォッチ』ディレクターのJeff Kaplan氏も同企画に参加した。Kaplan氏はもともとファンの声に耳を傾けることで信頼されている一面があり、そちらの動画も人気を呼んでいる。遠い存在だと思える開発者が、ユーザーの荒々しいコメントを読み上げて丁寧に反応してくれれば、その人をつい好きになってしまう。Techlandは、こうした企画や文化を踏襲したのだろう。
ただし、このような企画はリスクを抱えている。そもそも暴言まじりのメッセージは、脅迫へと発展しうるリスクがある。何をもって脅迫なのかという線引きも曖昧で、開発者によってはメッセージそのものを脅迫だと認識する可能性もある。期待や愛が伴っていたとしても、罵倒は罵倒。それを容認する行為は、危険ではないかという声もあるわけだ。そうしたメッセージを開発側に投げることが文化として根付いてしまえば、ほかのゲーム会社スタッフがより多くの暴言を受けることにつながり得る。Techlandスタッフはダメージを受けなくとも、ほかの開発者の心に傷を残す可能性はあるだろう。
かといって、Techlandスタッフの言動を批判することが正解ともいい難い。そもそもでいえば、ゲームファンたちが自覚していかなければならない問題だ。もちろん、多くのファンは開発者をリスペクトし、マナーをもってゲームを遊んでいる。とはいえ、時には批判の声をあげたくもなるし、ゲーマーはゲームを批判する権利がある。しかし愛があっても、ゲームを購入していても、罵詈雑言は許されない。批判と暴言は違う。問題点の指摘はしても、人格批判や汚い言葉を用いたりすべきではない。SNSが普及し、開発者に直接メッセージを伝えやすくなった。そんな便利な時代だからこそ、画面の向こうの相手の気持ちを考えながら、正しく言葉を選びたい。Techlandの今回公開した映像からは、そうした教訓が得られるかもしれない。