“ドア”を侮るなかれ。PS4『The Last of Us Part II』などのゲーム開発者たちが語る、ゲームにおけるドアの複雑さ
インディーデベロッパーのStephan Hövelbrinks氏が、「ゲームに“ドア”を実装することの難しさ」ついてTwitterに投稿した。その内容は、インディーからAAAまで規模を問わず、幅広いタイトルに関わるゲーム開発者たちの間で話題となっている。中でも“ドア”に並々ならぬ思いを寄せたのは『The Last of Us Part II』の共同ゲームディレクターKurt Margenau氏。“ドア”について、13ツイートにもわたって詳しく語った。
“ドア”談義に花が咲く発端となったのは、ホラーアクションRPG『Death Trash』を開発中のインディーデベロッパーStephan Hövelbrinks氏のTwitterへの投稿だ。
“ドア”は、ゲームに実装するには複雑であるほか、さまざまなバグが起こり得ると、Hövelbrinks氏は語った。そして、ゲームの中でドアが担うさまざまな役割をあげて「複雑さ」を強調。通り道になったり、障害になったり、破壊可能な場合もあれば、ゲーム内のさまざまなインタラクションやキャラクターたちの間に存在し得ると説明した。
また、Hövelbrinks氏は「AAAタイトルでも、“ドア”の実装は困難だ」とも語っている。例として、『アサシン クリード』シリーズ(『アサシン クリード オデッセイ』)をあげ、「同作には、さまざまな要素が取り入れられているが、ドアがない」と指摘。実装するのを避けたのではないか、と推測したようだ(なお最新作『アサシン クリードヴァルハラ』に関してはドアがあるようだと補足している)。加えて、「AAAタイトルでも実装に苦労するような“ドア”を、自身が開発中の小さなインディーゲームに実装することがいかに難しいか」について述べている。
Hövelbrinks氏のツイートに対し、近年を代表するAAAタイトルのひとつ『The Last of Us Part II』の共同ゲームディレクターKurt Margenau氏が反応。Hövelbrinks氏の推測どおり、AAAタイトルでも“ドア”に苦労したという。『The Last of Us Part II』におけるドアへのこだわりや、実装されるまでのエピソードを語った。
Margenau氏は、まず、ゲームプレイでのドアの利点を解説した。ステルスプレイ中にドアがあれば、空間的な自由度や逃げやすさが向上する。敵の視界を遮ったり、障害となって動きを遅らせるためだ。これにより、プレイヤーにステルスプレイを促す効果も狙っているという。
アニメーション面では、ドアの開閉に対するこだわりを紹介。「キャラクターがドアノブに手をかけ、押し開ける」といった動作だけでなく、「後ろ手にドアを閉める」または「走り抜ける」といったような、ドアを通り過ぎあとの動作に対しても熟考が重ねられた。開発段階でのテストプレイでは、プレイヤーがドアを閉められるようになっていたが、うまくいかなかったという。逐一ボタンのホールド操作が必要であることや、「逃走している最中にドアを閉めるアニメーションが入る」といった状況は、ゲーム体験として良くないとの判断だったようだ。
『The Last of Us Part II』製品版では、「戦闘中は、開いたドアは自動的にゆっくり閉まる」という動作になっている。プレイヤーのゲーム体験を損ねずに、敵AIの動きを遅らせることができるよう調整された。また、戦闘以外では、開けたドアは開いたままとなる。これにより、未探索/探索済の部屋がわかりやすいようになっている。
さらに、同作の“ドア”は「加わった力」によって動きが変わるという。たとえば、走りながら勢いよく開けたドアは、通り抜けたあとに勢いよく閉まる。この動きのために、開発チームは新しい物理オブジェクトを開発した。プレイヤーが「押す」ことができると同時に、「押し返す」こともできるオブジェクトだ。開発を担当したのは、「驚くほどリアル」と話題となったロープ挙動(関連記事)の開発にも深く関わったJaroslav Sinecky氏のようだ。
さらにビジュアル面でも、意外なこだわりがあった。ドアの開き方は、より素早く開いてゲームプレイの邪魔にならないよう、常にプレイヤーから遠い方向(手前から奥)に開くという。この動きを実現するために、ドアのデザインはすべて両開きタイプになっているそうだ。両開きタイプであれば、どちらの方向に開いてもビジュアルに説得力がある。
「“ドア”を実装するにあたり、影響がなかった部門はほぼなかった」というMargenau氏の言葉どおり、サウンドチームも“ドア”の音作りにこだわったようだ。オーディオリードのNeil Uchitel氏が、“ドア”の奥深さをTwitterにて語った。
Uchitel氏は、ゲームだけでなく、映画やドラマなどのメディアでも「ドアの音」が軽視されがちだと主張。経験豊富なクリエイターを必要としない、初心者レベルの編集タスクという扱いを受けているが、既存の効果音などを使った「悪いドアの音」は、作品を台無しにする。ドアの音にこだわることは、作品への没入感を高めるための重要な要素だと述べた。
サウンドチームは、理想の「ドアの音」に近づけるため、さまざまなドアの材質、ドアノブのタイプ、蝶番のタイプなどから、できるだけ多くの音を録音したようだ。既存の「効果音」ではなく1から音を作り上げることで、作品に寄り添う「ドアの音」に仕上げた。
クオリティの高い物づくりには、想像力が欠かせない。Uchitel氏は、「それぞれのドアが持つ物語に思いを馳せること」の重要性についても語っている。欠けた破片がどれだけ長くそこにあったか、どんな物質がそのドアに当たったかなど、「ドアの物語」に思いを馳せることが仕上がりに大きな影響を与えるという。このように、ドアの音作りは「編集」ではなく、「デザイン」の仕事と捉えるべきだとして、ドアに対する熱い思いを語った。
ゲームにおける“ドア”は、実は、開発者の考え方やこだわりが大きく現れる部分なのかもしれない。「没入感を損なわない」ために、想像できないほど多くの工夫がなされているようだ。ゲームをプレイする際には、ドアの開く方向や動き、デザイン、音、などに注目してみると新たな発見があるかもしれない。