『聖剣伝説 Legend of Mana』原作フォントへの関心が再燃、当時の開発者から開発秘話が語られる。1文字1文字に込められた“津田イズム”

HDリマスター版『聖剣伝説 Legend of Mana』が発表された。その美しく描き直された要素のひとつが注目を集めたことから、原作発売から20数年が経った現在、当時の開発者から開発秘話が語られているようだ。

スクウェア・エニックスが2月18日に発表したHDリマスター版『聖剣伝説 Legend of Mana』。リマスター版ではグラフィックを高解像度化。一部の背景やUIも新たに描き直され、作品全体が現世代向けにリファインされている。その美しく描き直された要素のひとつが注目を集めたことから、原作発売から20数年が経った現在、当時の開発者から開発秘話が語られているようだ。

『聖剣伝説 Legend of Mana』といえば、ワールドマップに街やダンジョンとなるオブジェクトを配置し、プレイヤー自らがファ・ディールの世界を構築していく「ランドメイクシステム」が特徴。従来シリーズとは異なるベルトアクション方式のバトルも目玉となる。それらと同様に、きめ細やかなピクセルアートで描かれた、絵本のような暖かみのあるビジュアルも本作ならではの魅力といえよう。

先日公開されたリマスター版のトレイラー内では、ブラッシュアップされたピクセルアートが確認できる。作品全体が高解像度化されたことで、ファ・ディールに生きるキャラクターやモンスターは鮮明に。加えて一部の背景やUIを新たに描き直すことで、作品への没入感がさらに高められている。その美しくなったファ・ディールの光景が切り取られたトレイラーを何度も見返したファンも少なくないようだ。

そんな熱心なユーザーの間で、新たに描き直された要素のひとつである「フォント」に関心が寄せられた。どうやらリマスター版では、原作とうってかわって汎用的なフォントが採用されているようだ。


ゲーム内フォントの違いは、同一シーンの画像を比較してみれば分かりやすい。原作では対応ハードであるPlayStationの出力解像度にあわせた、趣のある味わい深いフォントが使用されている。一方のリマスター版では、高解像度化にともない、視認性を重視したフォントが採用されているようだ。このフォントの違いに、少なからず違和感を抱いた原作ファンもいた様子。Twitter上ではフォントに対するさまざまな思いが飛び交った。


そんな中で、とある人物から原作の開発秘話が飛び出すに至った。その人物とは、原作のキャラクターデザインを手がけたブラウニーズ代表の亀岡慎一氏である。

亀岡氏いわく、原作で使用されたフォントはドット打ちで表現されたゲームオリジナルのフォントだという。当時はゲーム開発に使用できるフォントのバリエーションが少なく、それぞれのゲームに合ったフォントが丹精に描かれていたようだ。具体的には既存フォントを仕様のドットサイズまで縮小後、独自のテイストに修正。新たな漢字が追加される度に、ポチポチとフォントのバリエーションを追加する作業がおこなわれた。あの味わい深いフォント1文字1文字に匠の技が注力されていたわけだ。


また亀岡氏は、自身が手がけた他の作品で使用されたフォントについても言及。2001年にゲームボーイアドバンス向けに発売された『マジカルバケーション』も同様に、作品独自の手打ちフォントを使用していると伝えた。そしてそれらのフォントは、開発チーム内で「津田フォント」と呼称されているそうだ。そう呼称されるのは、これらのフォントのほとんどを手がけた津田幸治氏が由縁となっているのだろう。


津田氏はブラウニーズに所属するアートディレクターだ。『聖剣伝説』シリーズ、『マジカルバケーション』のアートディレクションを担当し、その後も長きに渡って亀岡氏とタッグを組み作品を手がけてきた。ほかにも『サガ フロンティア』や『ドラえもん のび太の牧場物語』など、携わった作品内のビジュアルには情緒豊かな“津田イズム”が感じられる。それら津田氏によって生み出されるアートのひとつとして、「津田フォント」が存在するわけだ。そんなアート作品ともいえるフォントが、リマスター版となる本作では汎用的なデザインに変更されてしまった点は少々残念に思えるかもしれない。


昨今のゲーム内フォント事情については、亀岡氏も触れている。それによると昨今においては、使用料さえ払えばさまざまなデザインのフォントがゲーム内で使用できるようだ。また解像度が高くなったことから、開発会社がタイトル毎にオリジナルのフォントを作る文化は消えつつあるとも伝えている。つまりはグラフィックや解像度の向上で増加する開発工数の効率化を図るために、おのずと手間のかかるオリジナルフォントは使用されなくなっていったということなのだろう。結果として『聖剣伝説 Legend of Mana』のリマスター版も例外ではなく、高解像度化に見合うフォントが採用されたという背景がありそうだ。

なお、リマスター版の開発には亀岡氏率いるブラウニーズは関わっておらず、原作フォントの著作権はスクウェア・エニックスが保有しているという。パッケージイラストについては、亀岡氏と津田氏のタッグによって新たに描かれているようだ。


ではフォントが変わったことで本作全体の魅力が損なわれたのかというと、そうではないだろう。原作同様に、亀岡氏と津田氏のタッグによって生み出された美麗なビジュアルは健在だ。むしろ高解像度化されたことで、その美しさは磨きあげられている。加えて、どこでもセーブやエンカウントOFF機能が導入されたことで快適性も向上した。物語を彩るBGMについては、原曲を手がけた下村陽子氏監修によるアレンジ楽曲も収録される。より美しく、快適になった本作でファ・ディールの世界を構築し、その世界で織りなされる夢物語をもう1度、隅々まで味わい尽くしてほしい。

聖剣伝説 Legend of Mana』のHDリマスター版は、Nintendo Switch/PS4向けに6月24日、Steam向けに6月25日発売予定だ。

Tetsuya Yoshimoto
Tetsuya Yoshimoto

ニュース担当。国内を中心に日々トレンドを探求しています。新しいものや可愛いものが好き。

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