個人開発者、Steamでゲームをリリースしたが初週で10本も売れなかったと悲しむ。情報を発信する難しさ

個人開発者しふたろう氏は1月21日、自身のサイトにて「2年費やしてSteamでリリースしたゲームは初週で10本も売れなかった」と題した記事を投稿。なぜ同作の記事が弊誌には載らなかったのかも併記。

個人開発者しふたろう氏は1月21日、自身のサイトにて「2年費やしてSteamでリリースしたゲームは初週で10本も売れなかった」と題した記事を投稿。衝撃的なタイトルおよび内容であるとして、SNSなどを通じて話題にのぼっている。なお本稿については、しふたろう氏に今回の件を取り上げることについて許諾をいただいている。

売れなかった

記事の内容としては、しふたろう氏はSteamにて2020年9月に『KONSAIRI』なるゲームをリリースしたが、初週で10本も売れなかったと報告。もともとitch.ioやboothにて販売していたが数字が芳しくなく、Steamでのリリースに期待を寄せていたが、前述したような結果になったことがショックであったという旨の心境を綴っている。

宣伝手段としてはTwitterの告知やPVの作成、エア化した同人イベントの参加、キュレーター経由のキー送付、有料のPRマーケティング、ゲームメディアへのプレスリリースの送付などをしたが、いずれも効果がなかったと報告。今後はゲーム開発をやめ、新しい仕事をしていくと綴った。詳細やニュアンスは同氏のホームページを確認するほうが正確だろう。

では『KONSAIRI』はどのような作品なのだろうか。同作は、2D横スクロールアドベンチャーゲームと紹介されている。主人公となるのはコギツネルース。キツネを操作し根菜を見つけて、弱っている島の住民に料理してあげる。ダンジョン探検をまじえつつ島を歩いていきながら、根菜を見つけて料理をしていくというのが、本作の大まかな流れとなる。実際プレイしたところ、クセがある作品なのは確か。根菜を抜いて料理するというユニークなシステムが導入されている一方、それらがうまくゲーム内で説明されておらず、デモなどをプレイしてすぐに投げてしまうプレイヤーもいるだろう。


また本作はピクセルアートゲーム制作に特化したエンジンPICO-8にて開発されており、画面比率は16:9どころか1:1。画面自体が特殊な上に、デザインの関係で背景とテキストがかぶったりと、視認性にも障害がある。しふたろう氏もそうした背景を理解しているのか、Steamストアの説明は丁寧でかつゲームマニュアルも公開中。とはいえ、さまざまな面でわかりづらさという課題を抱えている。


では『KONSAIRI』はただわかりづらいだけの作品なのかというと、そうではない。光る魅力があるゲームだ。ピクセルアートで描かれるルースはドット絵でかわいく表現されており、動きも多彩。世界観全体がまばゆいほどのピクセルアートと“ケモノ愛”であふれている。根菜を抜いて料理するというシステムも、演出・システムともにこだわられている。ステージは15種類と多彩で、ダンジョンシステムも融合させるなどシステムも野心的。ゲーム各部分に、しふたろう氏ならではのアイデアが詰め込まれている。もちろん、ゲームへの意見は個々によって異なり、独創的なアイデアがゲームとして噛み合っていないと批判することもできる。しかしながら、『KONSAIRI』にはしふたろう氏の愛が込められているのは確かで、ビジュアルやシステム面で特筆すべき部分があるというのが筆者の感想だ。つまり、ゲームがダメだから売れなかった、と単純に切り捨てるべきではない。
【UPDATE 2021/1/22 22:30】
ステージ種類について追記

AUTOMATONに載らなかった理由

ゲームが売れること、逆に売れないことについて明確な原因を見つけるのは難しい。情報を発信することにも、労力や時間、人手やお金、そして運がいる。本件も露出の仕方や1120円という価格を含めて、売れなかった理由探しは無限にできることだろう。しかしメディア視点では、『KONSAIRI』が取り上げられなかった理由の一端を説明できるかもしれない。弊誌AUTOMATONは『KONSAIRI』を取り上げてこなかった。というのも、弊誌にプレスリリースが送付されたのは、Steam版が発売され1か月以上経過した11月1日であった。弊誌にとって発売された後のゲームを取り上げるのはやや難易度が高い。

ニュースとは、なんらかの出来事や告知があって書けるもの。新作の発表であったり、映像公開であったり、リリース日決定であったり、ゲームの発売であったり、もしくはアップデートであったり、イベント実施であったり。発売1か月後にプレスリリースを送付しても、何か付随する出来事がなければ取り上げることが難しい。なぜその作品を取り上げたのかを説明する、理由付けを見つけづらいわけだ。それゆえに、弊誌AUTOMATONでは『KONSAIRI』の取り上げを断念した背景がある。そうした事情で取り上げを断念したのは決して同作に限らない。光るアイデアや魅力があると感じても、メディアとしての事情から、取り上げることが難しい作品に遭遇した機会は何度もあった。

もちろん、メディアによってポリシーはことなるだろう。ただし、メディアにとって新作発表・発売日発表・発売の3要素が記事化しやすいトピックであるというのは、ある程度納得してもらえると感じている。何が言いたいかというと、プレスリリースの送付は、上述したような情報を発信するタイミングで共有しておくのが重要になるということだ。発売前の告知が鍵を握るというのは、プレスリリースに限った話ではないだろう。

ただ重ねて述べるが、メディアによってポリシーは異なる。発売前にプレスリリースを送付しても、載るとは限らない。ゲームが面白そうであることも重要であるが、送る時間帯や曜日、編集部の多忙加減によって掲載するか否かが変わる時もある。逆に言えば、メディアにプレスリリースが載らなかったとしても、その作品に魅力がないわけではない。多くの場合、作品の魅力以外の要素によって左右されがちである。ゲームメディアに載ることは、ゲームが売れるための多くの要素のうちのひとつでしかないが、もし載せたい場合は発売前にお送りいただけると確率は上がるということ。しふたろう氏がほろ苦いリリースにあたっての情報を開示してくれたことによって、より有効的なプレスリリースの送付が広まっていけば幸いである。なお弊誌のプレスリリース用メールアドレスは[email protected]である。

しふたろう氏が手がける『KONSAIRI』は、itch.io/Steamにて販売中だ。体験版も配信されており、まずそちらをチェックしてみるのもありだ。ただしマニュアルを読みながら遊ぶことをオススメする。同氏のケモノ愛は一見の価値ありだ。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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