任天堂が『マリオパーティDS』にて“恐ろしい海賊版対策”を施していたという噂が広まる。システムが海賊版ユーザーを罵りまくる


任天堂が2007年11月に、ニンテンドーDSにて発売した『マリオパーティDS』。携帯型ハードで発売されたパーティーゲームとして、全世界で800万本以上を売り上げたヒット作品だ。発売から13年以上が経過しているが、同作の海賊版対策を映したと主張する動画が投稿され、昨年末より話題を呼んでいる。だがその動画が本物かどうかは疑わしい。


きっかけとなったのは、YouTubeユーザーJoey Perleoni氏の投稿だ。同氏は2013年にYouTubeアカウントを取得し、視聴者として活動してきた。動画の投稿は活発ではなく、1年前に元米任天堂社長の講演内容を投稿していただけ。ごくごく普通のユーザーである。しかしPerleoni氏は2020年末になり奇妙な動画を投稿し始めた。その最初の動画には「Mario Party DS Anti Piracy Screen」というタイトルがつけられている。『マリオパーティDS』をプレイしていると、突如ゲームが崩壊しユーザーに警告を浴びせるという内容だ。同氏は、『マリオパーティDS』で見つかった海賊版対策であると説明している。


この映像の内容が、かなり怖いのだ。ミニゲームをプレイしている最中に、突如赤文字で海賊版であることを検知した旨のメッセージが現れる。その後画面が暗転。下画面には檻に入れられたマリオたちの姿と「電源を切ってください」の文字。上画面には「海賊行為はパーティではない(遊びごとではない)」という赤文字の言葉とともに「ゲームの海賊利用は深刻な犯罪であり、いますぐ電源を切り、この盗まれたソフトについて報告してください」とのメッセージが映し出される。BGMにはゲーム内サウンドをアレンジしたようなものが使用されており、裏ではひっそりとクッパの笑い声も聞こえるなど、この音楽もまた怖い。ゲーム本編から想像できないようなホラー要素がまじえられており、恐ろしい海賊版対策であるとして話題を呼んだ。

その後Perleoni氏は、12月末になりさらなる映像を投稿した。同じく『マリオパーティDS』の海賊版をプレイ中に警告が表示されるとの説明がついたものであるが、今度は演出がさらに凝っている。パーティーゲーム中にルイージがショップを訪れるが、店員に「犯罪者に出すものはない」とコメントされる。そのまま“プレイヤーが何も操作できない”ミニゲームに突入し、前回の動画と同じくマリオたちが檻に閉じ込められている警告画面が表示される。


その後も似たような動画が投稿されている。まずは、クッパイベントマスに止まったプレイヤーがクッパから「このパーティーに、お前のような犯罪者に居場所はない!出ていけ!」と罵られたのち、ドッスンに潰されおなじみの警告画面へ入るもの。次の動画は、パーティーゲーム中に他の参加者がいなくなり、自分のみが取り残されるというもの。システム側が「誰もいなくなっちゃった、犯罪者とはパーティしたくないって」と表示したのち、警告画面へと強制移動させられる。ほかにも、ヘイホーのキャンディーチャレンジ中に捕食されるという、表現としてもエグめのもの。また、警告画面にて電源を消さないでいると、勝手にWi-Fiコネクションへと接続。自身が海賊版を使用していることが任天堂へと報告され、ボイスチャットを通じて名前や住所を吐かされるという映像も投稿されている。

気になるのは、実際に『マリオパーティDS』にこうした不正対策が施されていたのかということだろう。結論からいうと、おそらくされていなかったと考えられる。というのも、こうした演出が存在することはPerleoni氏の動画以外に報告されていない。それだけでなく、Wi-Fiコネクションを通じて報告されるというシステムもツッコミどころあり。さらには、Modderらによって、ゲームファイルの中に海賊版の利用を警告するテキストおよび演出が含まれていないことが報告されている。

具体的には、Trash_Bandatcoot氏は、完璧なでっちあげだと断言している。つまり、一連の映像はPerleoni氏が作ったか、もしくは何者かが作ったものを投稿したことが濃厚だ。『スーパーマリオ64』のベータ版に仕込まれていたという、本編未使用海賊版ユーザー向け忠告映像が元ネタという説もある。『スーパードンキーコング3』に仕込まれていたという海賊版ユーザー向け映像に触発された可能性もあり。一方、一連の映像がフェイクであると指摘する動画も数多く投稿されているにもかかわらず、「『マリオパーティDS』には恐ろしい海賊版対策が施されていた」との噂が後を絶たない。この噂は、ニンテンドーDS時代に繰り広げられていた海賊版事情が関係しているかもしれない。
【UPDATE 2021/1/12 20:55】
『スーパーマリオ64』のベータ版映像が元ネタであるという可能性を追記


ニンテンドーDSが人気を博していた時代には、家庭用ゲーム機でも今より多く海賊版が流通していた。ニンテンドーDSではマジックコンピューター(マジコン)なるツールを導入することにより、インターネットのダウンロードを通じて不正にゲームソフトをプレイできるとされていた。PS2やPSPなど(もしくはそれ以前のハード)も同様の被害を受けていたが、ニンテンドーDSにおいてはその手軽さも関係してか注目されることも多かった。その後、コンソールメーカーは各社対策を施し、大規模な訴訟に踏み切った。販売業者の取り締まりやオンライン要素の強化などにより、そうした手口は世代の変化と共に減少することになるが、当時のコンソールゲーム市場は大きな傷を負うこととなった。

海賊版が出回った時代には、あわせて海賊版向け対策の噂も多く流れた。代表的なものとしては、『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』のゲーム冒頭にて、主人公が乗り込んだ船が港につかないといった対策がなされているとの報告だ。ゲームこそ始められるが、序盤にて永遠に終わらない航海を強いられるとして、痛快な対策だと話題になったわけだ。そのほかの人気作品でも、RPGの重要シーンでフリーズする、恋愛ゲームにて好感度が上がらないといった報告があがっていた(G-Renda)。


一方で、こうした対策の真偽ははっきりしない。そもそもマジコンを使用していなければ証拠は残せないし、スクリーンショット機能のないニンテンドーDSのゲーム画面を残すことも煩雑。証拠を残すプロセスが大変なのだ。それゆえに、どのタイトルの海賊版対策においても、証拠はほとんど残されていない。証拠がない以上、こうした海賊版対策について、ユーザーが面白がって創作したという線も拭いきれない。悪しき者である海賊版利用者への対策は厳しく苛烈であるほど、エンタメ性が高く面白い。不正利用者には厳しい罰則を受けてほしいという心理も働き、わざわざ手間をかけて嘘である可能性を探りたくはならないのだろう。真偽の重要性は低いのだ。

今回の『マリオパーティDS』の一件は、そうした海賊版対策をエンタメ化する当時の文化を加味すると、より背景が理解できるかもしれない。本件をきっかけに、任天堂タイトルに海賊版利用を警告する架空のホラー演出を導入するネタはネットミーム化してきている。年末から年明けにかけて、マリオやピーチがホラー気味に不正者を断罪する映像がYouTubeなどに続々と投稿されている

海賊版の利用を禁じる啓蒙としては面白いコンテンツであるが、『マリオパーティDS』に恐ろしい海賊版対策が施されているという誤解が広まってしまう懸念もある。ファクトチェックはされながらも、海賊版の利用を悪しきものとするメッセージ性は、しっかりとのちの世代に受け継がれていく。そんなネットミームに変化していくことに期待したい。