『Apex Legends』コースティック強化発表と取り消しのゴタゴタについて、開発者が口を開く。「防衛型」抜きにして『Apex』は語れない
『Apex Legends』にてコミュニティをざわつかせた、コースティック調整をめぐる動き(関連記事)。その詳細が、開発者の口から明らかになっている。本作では1月6日より、期間限定で「ファイトナイト」が開催中だ。イベントに先立っては、一部レジェンドや武器に調整が入ることが告知されていた。その際、議論を呼んだポイントがコースティックに対する強化だ。シーズン初めに受けたデバフの代償として、アビリティのクールタイムが短縮されることが発表されていた。ところがコミュニティからは、「すでにコースティックは十分強い」と大きな反発が寄せられる。改めて開発チームが直近のデータを見直したところ、ここ数週間でコースティックの戦績が飛躍的に向上していることが判明。アップデート実施に際して急遽、強化を取りやめるはこびとなった。
一連の流れの詳細を語ったのは、開発者のひとりJohn Larson氏。同氏はもともとコースティック強化が決まった席にて、デザイナーのDaniel Zenon Klein氏とともに居合わせたひとり。まず大枠の話として、同氏はレジェンドの強化の際には常に自身のプレイ体験やコミュニティの声を中心に考えているという。ピック率や勝率は補助的なツールであり、数値そのものを指標とするよりは、実際にプレイしていて得られる感覚を支持するために用いているとのこと。
Larson氏はコースティックの調整について考えるとき、まず決して彼のピック率をレイス並に上げたいわけではない、と断りを入れた。むしろ、突出して高い/低い状態から平均値へならすことが調整の最終目標として挙げられた。そのための施策として「クールダウンのわずかな短縮」が決定されたのは、1か月以上前のこと。Larson氏はEUの競技シーンをチェックし、ガスグレネードが最終リングで猛威を振るう姿を確認。アルティメットアビリティを強化する方策についてはあり得ないと判断した。
対して戦術アビリティのガストラップを強化することは、コースティックのニッチな専門分野以外にも効果を発揮すると考えられた。トラップの設置は漁夫を狙うパーティへの対策や、開けた地形であっても視覚的な牽制になりうるからだ。クールタイムが従来の25秒だった場合、絶え間なくガストラップを設置すると、最長でガスの持続時間は65秒。これに対しクールタイムを20秒に縮めると、もっとも効率的にガスを設置した場合は最大で78秒間も毒の効果を発揮することができる。小さな変化ながら、たとえチームが潜伏中でなくともコースティックのプレイヤーに積極的にアビリティを使わせる動機付けになるとLarson氏は考えたそうだ。
こうした説明の中でLarson氏は、常にプレイヤーが攻勢を仕掛けるべきかどうか判断しながらプレイすることを、「意思決定のレイヤーを与える」と言い表している。言い換えればこれは、常に十数秒先の展開を予測し、対応を検討しながら行動を選び取っていくということ。瞬発力よりも予見性・戦略性を重視するゲームデザインは『Apex Legends』の基本思想として、デザイナーKlein氏の口からもこれまでたびたび語られてきた(関連記事)。さらにLarson氏は、プレイヤー意思決定のレイヤーを与えるゲーム性が、防衛型のレジェンド抜きでは成立しないと断言。この言葉を解釈するなら、「どこにトラップが仕掛けられているか分からない」という不確定性を作り出すことが、コースティックをはじめとするディフェンダーの役割であり、『Apex Legends』の設計の根幹を担っているともいえるだろう。
ゲームの設計思想に鑑みればコースティックの強化は十分理に適っている。しかし実際の環境にふさわしいかを検討すると、齟齬が生じてしまったようだ。強化の決定があったのは1か月以上前のこと。その時点でコースティックは、現在ほど「スパイシーな」議題にはなっていなかった。それゆえLarson氏は上述の調整について、実行する意義があると確信を得ていたようだ。ところがホリデーシーズンの休暇が明けて見ると、博士をめぐる環境は激変。より競争的に用いられ、ピック率・勝率とも健全なレベルまで向上していたとのこと。あとは知ってのとおりの展開になったようだ。
聞けば、Larson氏がRespawn Entertainmentに入社したのは数か月前。それより以前は、Klein氏がたったひとりで全レジェンドのバランス調整を担当していたという。Larson氏は現在、実際のゲームプレイと運営側の調整の乖離を感じているユーザーたちを、安心させたいと考えているそうだ。大規模な作品に変更を加える場合、どうしても決定から実行までのプロセスに期間が空いてしまう。コースティックの強化〜中止については、ゲームの基本思想に忠実に検討されながらも、プレイ環境の急速な変化についていけなかった不運なケースといえるだろう。博士のクリスマス無双の原因については、ランクマッチが後半戦に入り、マップが相性の悪いオリンパスからワールズエッジに移り変わったためではないか、との説がコミュニティでささやかれている。
なお最新パッチではリングの収束にも変化がもたらされた。第5リングが半径2000〜1500ユニットと従来よりも大きくなり、縮小速度は従来と同様。さらに第6リングが最終円となり、第5リングの中心近くに向かって100秒以上かけて縮まっていくという。コースティック最大の見せ場が終盤リングであるだけに、また違った立ち回り方が求められるようになりそうだ。
ちなみに本日、期間限定で登場しているパスファインダーのタウンテイクオーバーに修正が入った。武器を持ち込めないはずのリングに銃を持って参入できる不具合が解消され、今度こそ拳で勝負できる土俵が整ったという。安全回復ゾーンに使われたり、出てくるプレイヤーを狙った狙撃が多発したりと話題の絶えないリングだが、今しか見られない特別な演出を覗きにいってみるのも一興だ。