「Steamで30万DLされたのにメディアレビュー0件のゲーム」として自作をPRする開発者現る。宣伝に悩む個人開発者
個人開発者のTaranasus氏は、自身が手がけた『Vecter』というゲームを「Steam以外では誰も聞いたことがないゲーム」として宣伝するという、変わったマーケティング手法を取り始めた。同作は今年10月にSteamで無料配信され始めた、レトロテイストなアーケードレース&シューティングゲーム。プレイヤーは自機を操作し、障害物を撃って破壊しながら、自動生成される街をハイスピードで滑走していく。シンプルな作りながらもSteamでは2000件近くのユーザーレビューを集め、好評率96%と高い支持を得ている。
そんな『Vecter』は約30万ダウンロードを達成し、累計ユニークユーザー数は20万におよぶという。無料とはいえ、熾烈なレッドオーシャン市場であるSteamにて、ほぼ無名の個人開発ゲームがこれだけの実績をおさめているというのは、注目に値するだろう。無名というのは開発者であるTaranasus氏自身認めるところであり、ゲームメディアによるレビューはいまだに0件であるとTwitterにて発信。通常であれば悲しい知らせかもしれないが、「メディアレビュー0件」を自作のPRとして、あえて活用するという発想の転換をおこなっている。
Taranasus氏は自身のPatreonページでも、メディアにまったく取り上げてもらえないと伝えている。ユーザーからは好評価を集めており、Steamではそれなりの人気はある。約30万ダウンロードを達成しているからには、もはや無名のインディーゲームとは名乗れないだろうと。それにも関わらず、ゲームメディアには取り上げてもらえず、レビュー集積サイトであるMetacriticではメディアレビューとユーザーレビューともに0件であると、不思議がっている。
一体何が問題なのか。Taranasus氏が他のインディーゲーム開発者に相談してみると、マーケティング企業に依頼し、メディアやインフルエンサーにレビューのリクエストを送りまくってもらうべきなのだという回答が得られたとのこと。この方法は、営利目的でゲームを開発しているのであれば問題ないのだが、Taranasus氏のゲームは収益化を考えていない、趣味で作っている無料タイトル。マーケティング企業を雇うようなお金はない。寄付は募っているものの、寄付者はそのお金を宣伝費に使ってほしいとは思っていないだろうと、自身の見解を述べた。
そのため自分自身で宣伝活動を試み、30通ほどメールを送ってみたものの、返事があったのは1件のみ。YouTuberからの「ありがとうございます、面白そうですね。でも残念ながらスケジュールの都合が合わないのです」という返答だけであり、すぐにやる気をなくしてしまったという。メディアの人間にスパム業者と思われるのも嫌。ではどうすればよいのか。そこで思いついたのが、「メディアに取り上げてくれないゲーム」という側面を押し出す宣伝素材を作ることだった。レビュー件数0のMetacriticページと、ユーザーレビュー2000件近くのSteamページを並列して見せ、興味を引くというわけだ。
Steamでは日々何十もの新作が配信されており、2018年の年間新作リリース数は8206本。2019年は8396本と膨大な数になっている(関連記事)。玉石混淆の新作群から、メディアに取り上げられるのはごく一部のみ。『Vecter』のように、ユーザーレビューは多いもののメディアには取り上げられない作品も出てくる。そうした中、いかにして人々の注目を集めるのか。それはTaranasus氏に限らず、多くの開発者が頭を悩ませている難題だろう。Taranasus氏が出した答えは、低コストで済む、自虐的ながらもユーモラスな宣伝方法と言える。ただ実際に効果が見られるのかどうかは、まだ未知数である。
『Vecter』はSteamにて無料配信中。リーダーボード用のサーバー運用および他プラットフォーム展開に向けた開発コストを捻出すべく寄付を募っており、寄付用の「Vecter Donation DLC」が520円(12月1日までは40%オフの312円)で販売されている。