Epic GamesのCEO、Appleの手数料率引き下げは、批判を避けるための施策に過ぎないと指摘。アプリ配信・決済機能提供の公平な競争を求む


Appleは11月18日、App Store Small Business Programを発表。前年の年間収益100万ドル(約1億400万円)以内の小規模事業者を対象に、App Storeの売上手数料率を15%にする取り組みである。条件付きながらも、標準手数料率30%の半分という大幅な引き下げだ(関連記事)。Appleは近年、App StoreやApple Payについて他企業や米議会、EUなどから妥当性を問われる機会が増えており、そうした議論が起きている中での対応となった。

Appleの発表を受けて、同社と係争中のEpic GamesのCEOであるTim Sweeney氏が海外メディアにコメント。「競争相手を封じ、決済の大多数に適用される30%手数料を維持するのに足りるだけの批判を取り除こうとしているだけです。消費者がApple税の影響で上昇した金額分を支払わないといけない点に変わりはありません」と、Appleの対応は不十分であるとの姿勢を示している(TechCrunch)。ただし、Appleの姿勢が好ましい方向へと一歩前進した点は認めている(Twitter)。

※Appleの新プログラムは小規模事業者にとっては嬉しい知らせだが、市場独占を維持するための計算された分割統治であるとSweeney氏は主張している

手数料15%が適用されるのは、年間収益100万ドル以下の小規模事業者。The New York Timesは、App Storeで事業を展開する企業の98%が恩恵を受けられるだろうと伝えている。ただ、App Storeでは少数の人気アプリが決済の多数を占める状況。影響を受ける事業者の収益金額としては、App Store全体の5%に満たないとされている。

ユーザー数が多く、収益額の大きいアプリでの手数料は変わらない。『フォートナイト』を運営するEpic Gamesも、同プログラム対象外となる(なお現在同iOSアプリは、Appleのガイドラインで禁止される独自決済手段をゲリラ実装したことを受けて、ストアから取り下げられている)。小規模事業者にとっては嬉しい変化。消費者にとっては影響範囲が限定的な施策ではある。


またSweeney氏はオンラインサミット「DealBook」でも、対Apple訴訟について話している。なぜEpic GamesはAppleのストアガイドラインを破ったのか、という質問に対する回答では、米国での公民権運動を引き合いに出して説明。もしもEpic GamesがAppleの規定に従い続け、30%の取引手数料率を受け入れて消費者に負担を課していれば、それはAppleの反競争的行為に共謀することを意味すると伝えた。Appleの規定に従うこと自体が誤りなのだと。かつての公民権運動では、法律自体が間違っているとして人々が法を受け入れなかった。法に従えば現状維持に加担することになる。彼らは間違っていなかったのだと、対Apple運動になぞらえて語っている。

しかし、ルールが間違っているため従わないという姿勢を正当化する例として公民権運動を出した点は批判の的に。Twitterでは、民間企業間の争いと公民権を一緒くたにしたことを疑問視する声が、Sweeney氏のもとに寄せられた。それらに対しSweeney氏は、公民権運動の例はあくまでも不正に立ち向かう方法としての比較であり、間違ったルールには従わない方が正しいという考えを示すための回答であったと補足している。


では、Epic Gamesが考えるフェアな手数料率とは、一体どれほどなのだろうか。先述したDealBookにてSweeney氏は、8%であればApple税として許容できるだろうと伝えている。なおEpic Gamesが開発途上国にて課している取引手数料は2〜3%、決済手段のサポートとして1%、そして場合によっては帯域幅のコストとして1%であるとも補足している(参考として、同社が運営するEpic Gamesストアの場合、標準手数料は売上の12%となっている)。

Epic Gamesは今年8月にAppleを提訴。Appleの反競争・不当な市場独占を主張する訴訟の論点は、単なる手数料の話にとどまるものではない。「アプリ配信市場の独占」と「アプリ内課金機能の強制」という2つの分野を軸に、米国独占禁止法違反を訴えている。Epic Gamesはすでに自前の決済手段およびアプリ配信プラットフォームを、iOSで提供するだけの力がある。健全な競争環境下であれば、Epic GamesもiOS市場にてそれらのサービスを展開できるはずだという主張である。

実際、Sweeney氏は30%の手数料率自体は高すぎるものの、不当であるとは主張していない。Appleの手数料率を下げるために争っているのではない。不当なのはAppleがアプリ配信と決済手段について競争相手を排除している点だと強調。アプリ配信と決済手段の2点について、iOSがオープンになるのであれば、Epic Gamesは喜んでiOSに戻ると伝えている。仮にAppleの決済手段が30%の手数料を取り続けたとしても、App Store以外のストア、Appleが指定する決済手段以外の決済手段を提供する余地があるのであれば、問題ないと。そうした意味で、今回Appleが発表した条件付きでの手数料率軽減は、まだEpic Gamesが望むところからは程遠いだろう。