Steamゲームが動く携帯PC「SMACH Z」に返金要求相次ぐ。沈黙により破られ続ける、予約者との約束

Steamゲームを遊べる携帯ハードウェアSMACH ZをめぐってKickstarterでは返金を求めるユーザーが相次いでいるようだ。何度も発売延期を重ねてきた背景から、8月に入り、出資者らの怒りが爆発している。

Steamゲームを遊べる携帯ハードウェアSMACH ZをめぐってKickstarterでは返金を求めるユーザーが相次いでいるようだ。何度も発売延期を重ねてきた背景から、8月に入り、出資者らの怒りが爆発。返金を求めるユーザーたちの声が急増している。沈黙を守る開発チームへの不信感が極めて高まっているのだ。

SMACH Zは、PCゲームを遊ぶことを考慮して設計された、ポータブルPCだ。デフォルトのOSはカスタムされたLinuxだが、アップグレードしてWindows 10も選択可能。ゲームをプレイするほかにも、Webブラウジングを楽しんだり、YouTubeを視聴したりすることもできる。スペックとしては、AMD Radeon Vega 8AMDを組み込んだSoC Ryzen Embedded V1605Bが搭載されている。解像度は1080pにまで対応。メモリやストレージは選択することができ、最小構成ではRAM 4GB、ストレージは64GB、カメラなし。メモリは最大16GBのデュアルチャンネルにすることができるほか、SSDは256GBまで選択可。バッテリー容量は4 cells of 3200mAhで、45分の充電で、2時間から7時間のゲームプレイが楽しめるとのこと。6インチのモニタの両脇には、タッチパッドがそなえつけられている。下部にはスティックおよびボタンが配置されるなど、ゲームを遊ぶことに配慮されたデザインである。


Steamゲームを遊べる携帯型ハードウェアと聞けば響きこそ甘美であるが、製品化の道のりにおいては、かなり予約購入者を待たせている背景がある。そもそも、SMACH ZチームがKickstarterやIndiegogoで資金を集めだしたのは2016年秋までさかのぼる。100万ドル以上の支援を集め、2017年4月に出荷を始めると公言するも、モジュールメーカーとの間でトラブルが発生。対応を強いられたため発送時期は2018年3月へと延期し、そのまましばらく続報が途絶えていた。

製品発表当初はSoCとしてAMD RX421を搭載するとしていたものの、延期によりスペックは型落ち状態になってしまった。そうした部分を懸念して、延期発表にあわせて前述したようにSoC Ryzen Embedded V1605Bへとスペック引き上げを発表。グレードアップに際しては、発送時期の再延期をアナウンスしていた。同年9月には日本で発売予定であることも伝えられ、2018年内に発売すると告知した。東京ゲームショウ2018ではデバイスの展示もなされ、ユーザー自身でパーツを換装可能な仕様であると公表。カスタム小型PCとしても販促していた。一方で、肝心の展示デバイスはガワだけのコールドモック。その後続報なく同年発売が危ぶまれ、最終的に2019年へと発売延期されている。


その後2019年第1四半期に製造を開始すると発表していたが、いつのまにかなかったことに。E3 2019や東京ゲームショウ2019ではホットモックが展示され、実際にゲームが動作することが確認されていたが、2019年内に発売するとの告知は当然のごとく果たされなかった。

そして2020年、事態はさらにおかしくなり始めた。昨年7月には2020年の発売に向けて動いていると報告していたものの、定期的におこなわれていたバッカー向けアップデートは2020年6月を最後に途絶える。この時点では、新型コロナウイルスの影響によって生産プロセスが止まったことを明かしていた。中国製のプラスチック部品の生産にトラブルが起こったとのこと。プラスチック部品のメーカーを変えると公言し、その影響で発売日の目処が立てられないとのコメントを残した。公式Twitterは2019年9月から1年更新されておらず、フォーラムは閉鎖され、情報共有の場も限られつつある。


問題なのは、そもそもとして生産の遅延は、新型コロナウイルス以前から起こっていたことである。SMACH Zチームは、2016年からあの手この手でPRし資金を集めてきた。KickstarterIndiegogo公式サイトにて、予約を促す呼びかけをしながらも、生産の問題は改善されておらず、さまざまな理由で製品化を先延ばしにしてきたのである。本体価格は最低構成でも9万近く(値引きなしの場合)と高価。2019年に製品を受け取れる“かもしれない”権利を10ドルのオプションにして売りつけていたが、そちらも果たされず。集金のためのプロモーションのみが先行しており、お金を払い終わった購入者との約束は破られ続けていたのだ。新型コロナウイルスに巻き込まれたことについては、同情できる部分もあるが、根本的な問題はパンデミックによるものではない。

今年9月に入ってAUTOMATON編集部からも開発チームに現状についての問い合わせを入れているが、返信はない状況だ。KickstarterやRedditの返金要求者の間では、返金を受け取れたと報告する者もいれば、断られたという者もいる。出資者/予約者から資金を受け取ってから4年が経とうとしているSMACH Z。あまりに長く予約販売をしていたことを考えると、製品そのものが完成していても、すべてのユーザーに届ける力が残されているのかという疑問が残る。一時はライバルとされていたGPD WINシリーズは、SMACH Zの製造が停滞している間にもさまざまな新製品を展開し“発売”しており、その背中は遥か遠い。繰り返される延期と、途絶えた続報。はたして本当に、SMACH Zは発売されるのだろうか。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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