『The Sinking City』開発元Frogwaresが、パブリッシャーの契約不履行を訴える。計1億円を超える発売前後の支払い拒否、IPの所有権も主張
ウクライナのデベロッパーFrogwaresは8月25日、探索型アクション・アドベンチャーゲーム『The Sinking City』が一部ストアから取り下げられた件について報告した。本作は2019年6月にPCおよび海外PS4/Xbox One向けに発売され、のちに国内PS4版やNintendo Switch版もリリース。しかし今年7月頃になって、一部のストアから本作が消えているとファンから指摘されていた。今回の報告によると、問題の背景には販売元の契約不履行が存在したという。
『The Sinking City』の販売を担当したのはフランスの大手パブリッシャーBigBen Interactiveで、現在はNaconへと社名を変更している。Frogwaresは、2017年にNaconと契約。開発費を提供してもらう代わりに、Epic Gamesストア/Steam/PS4/Xbox Oneにて本作を販売する権利を預けるという内容で、作品自体の権利はFrogwaresに帰属するとしている。すべて順調に事が進んだものの、実際に両社の提携が開始してから事態が変わったという。
契約では、本作の開発マイルストーンを達成するごとにNaconから開発費が支払われるはずだった。しかし、Frogwaresは期限内に開発を間に合わせ、その内容についてNaconから承認を得ていたにも関わらず、Naconからの支払いは毎回平均して40日間遅れたそうだ。Frogwaresが正式に遅延を通知しないと、支払いがおこなわれなかったとのこと。ほかにも、Naconから送られてきた本作の売上予測の数字が一貫しないなど、不適切な対応が続いたそうだ。
そうした開発状況を経て『The Sinking City』は発売を迎えた。するとNaconは、開発マイルストーンの承認を取り消すと通告してきたという。これは契約上、本作の販売収益からの取り分をFrogwaresが得られないことを意味する。Frogwaresは、本作がすでにリリースされているにも関わらず、過去に遡って承認を取り消し、開発遅延を主張することは受け入れられないとコメント。同スタジオは、ついに訴訟を起こすこととなった。
Frogwaresは、2019年8月にNaconを相手取り提訴。これを受けてNaconは、同スタジオに収益の報告書を送ってくるようになったそうだ。しかし内容は不十分で、一体本作は何本売れていくら収益があるのか分からないものだったという。また、あるコンソールメーカーからのロイヤリティの支払いが5か月以上滞ったことにも言及。Frogwaresの他タイトルについては、同じメーカーから遅延なく支払われていたため、Naconへの不信感を高めている。
またFrogwaresは、『The Sinking City』のPS4/Xbox One向けパッケージ版のジャケットから、同スタジオのロゴが外されていることに気づき驚いたという。以下に掲載した画像は、同スタジオが添付したオークションサイトの様子と思われるもの。公式のパッケージ画像には下部中央にFrogwaresのロゴがあるが、販売者が撮影した実際のパッケージにはロゴが見当たらない。Frogwaresについてはパッケージ裏に記載があるものの、IP保有者であり開発元であることは明記されていないという。
さらに、Naconは本作のテーブルトークRPGを無断で制作。その著作権表記にもFrogwaresの名はなかった。ほかにも、Frogwaresのあずかり知らぬところでUtomik向けにPC版が配信開始し、Naconが上場した際には『The Sinking City』の権利を同社が保有しているとの資料が配布されていた。
このような問題が相次ぎ、FrogwaresはNaconに説明を求めたが、納得できる回答は得られなかったそうだ。そして2020年4月20日に、FrogwaresはNaconに対して販売契約解除を通告。しかしNaconは、拠点を置くフランスの非常事態法によってそれは無効だと主張しているという。その法律は、新型コロナウイルス感染拡大により悪影響を受けた企業を守るものだそうで、コロナ禍を背景にした急な契約解除はできないというもののようだ。
Frogwaresは、確かにゲーム業界も新型コロナウイルスの影響を受けているが、実際のところNaconは巣ごもり需要などにより前年度よりも売り上げを伸ばしていると指摘。非常事態法の適用を主張する一方で、その悪影響を最小限に抑える努力をおこなっていない状況から、Frogwaresは当初の契約に盛り込まれた不可抗力条項によって契約解除が可能だとしている。
また、Naconは契約解除は無効と主張しながら、Frogwaresへのロイヤリティなどの支払いは拒否しているままだという。その総額は100万ユーロ(約1億2600万円)に達しているとのこと。そしてNaconは契約解除の無効を確認するため訴訟を起こすが、裁判所は却下。法的には契約解除が妥当との判断が下された。
FrogwaresとNaconとの間の契約関係については一応の決着を見たようだが、Naconは依然として『The Sinking City』の権利の保有を主張しているという。そのため、関係するパートナーやプラットフォームホルダーに混乱をもたらす状況となっており、FrogwaresはNaconに利益が流れないようにするためにも、各ストアに本作の取り下げを要請。本作が突然ストアから姿を消したのは、こうした背景があったというのだ。なお、こうしたFrogwaresの主張に対して、本稿執筆時点でNacon側は反応を示していない。
Frogwaresというと、過去にも「シャーロック・ホームズ」のゲームを含む複数の作品がストアから取り下げられたことがあった。当時は、パブリッシャーのFocus Home Interactiveとの間でトラブルが発生。契約終了後も、ストアの管理に必要なIDが引き渡されなかったことが原因だった(関連記事)。同スタジオは近年、自らの作品について自主販売を積極的に手がけるようになっており、現在開発中の推理アドベンチャーゲーム『Sherlock Holmes Chapter One』も自ら販売する予定。この方針転換の背景にも、そうしたパブリッシャーとのいざこざがあるようだ。
『The Sinking City』は、現在Frogwaresの公式サイトやOrigin、GamesplanetにてPC版が販売中。またNintendo Switch版も、自主販売しているため販売が継続されている。同スタジオは、今後ほかのストアでの販売再開を目指す考えだそうだ。なお、国内PS4版についてはオーイズミ・アミュージオが販売を担当しているが、こちらも現在配信停止している模様。Naconとの契約に基づいて国内販売していて影響を受けたのかもしれない。
【UPDATE 2020/8/27 10:40】
Naconは8月26日、海外メディアを通じて声明を発表した。同社は、『The Sinking City』の販売契約をめぐるFrogwaresとの争いは今もフランスの裁判所にて係争中で、判決が出るのは数か月後の見込みだとコメント。Frogwaresはその判決の予想をもとに今回の発表をおこなっており、さらに契約内容と今回の問題を誤って解釈しているとし、事実を反映していないと主張している。
また、Frogwaresは機密情報を開示してまでNaconの信用を失墜させ、『The Sinking City』の流通を脅かそうとしているとし、このような行為は容認できないと強調。今後については法的措置に訴え、Frogwaresを有罪にした上で救済措置を得るつもりだという。そして、Frogwaresは自らを傷つけることになるトリックを使ったが、それとは関係なく救済措置を勝ち取る自信があるとした。