『あつまれ どうぶつの森』でトランスジェンダーを自覚した人が話題。二頭身のむらびとが秘めた、多様な自己表現の可能性
『あつまれ どうぶつの森』を遊んだことで、性自認が変わった人が話題だ。NINTENDO 64時代以来、『どうぶつの森』主人公はずいぶん豊かな自己表現手段を獲得してきた。ドレスやタキシードは男女問わず着用でき、キュートなおさげもワイルドな顎髭も思いのまま。そして最新作においては、とうとう性別そのものが自由自在になった。プレイヤーはいつでも男性と女性を切り替えることができるのだ。
『あつ森』の自由度は、海外掲示板RedditユーザーCallMeLara氏が小さな一歩を踏み出すきっかけを与えた。動画に映っているのはデニムジーンズにラフな短髪の、ボーイッシュな主人公だ。ステッキを取り出した同氏は「お知らせがあります」と述べる。次に飛び出した言葉は、「私は……トランス(ジェンダー)です!」とのひとことだ。「今はLaraなんです!」と言うやいなや、華麗にコスチュームを変身。赤いワンピースに髪飾りが可愛らしい、ポニーテールの女の子へと身を転じた。その後、ドレッサーに向かい正式に性別設定を変更している。CallMeLara氏は『あつ森』を使い、自らの性自認カミングアウト動画を友人たちに向けて制作したのだ。
Redditでの書き込みによれば、CallMeLara氏は『あつ森』を遊ぶことで自身がトランスジェンダーだと気がついたそうだ。同氏はゲーム内のアバターを自由に着せ替えているうちに、キャラクターに女性的な格好をさせた方が心地よく感じている自分を発見したのだという。また、友人の島に遊びに行った際にティアラを身につけた経験も大きな要因となった。友人から「可愛い」と褒められたことで、とても強い感情が心に生じたそうだ。もちろん『あつ森』だけが唯一のきっかけではないものの、抱えていた感情に向き合って自己表現するための大きな場所を本作が与えてくれたと語る。
『あつ森』におけるジェンダー表現の自由度は発売前から話題となっていた(関連記事)。性別がいつでも変更でき、服装も性に縛られないことから、流動的なジェンダーにも柔軟に対応することが可能だ。本作のディレクターである京極あや氏はWashington Postのインタビューで、「基本的に、ユーザーがジェンダーについて考えなくてもいいし、考えてもいいゲームを作りたいと思っています」とコメントしている。
また同氏は『あつ森』キャラクターのカスタマイズ性は「ジェンダーについてだけではありません」と語る。開発チーム全体で「社会が多くの人々の異なるアイデンティティを尊重する方にシフトしている」という価値観を共有していることから、現在のような設計となったことを伝えた。本作における多様性への取り組みでいえば、アイテム「くるまイス」が導入されたことでハンディキャップを背負う人々から歓迎された件も報じられている。重要なのは必要性だけでなく、その存在がゲーム内で表現されているということなのだ。
ちなみにCallMeLara氏のスレッドでは、ゲーム開始時の性別選択の画面についても話題が及んでいる。日本語版では「どちらかを選んでね!」という文言とともに、「おとこのこ/おんなのこ」とキャプションが付けられたアイコンを選択することになる。対して英語版では「Please choose your style.(スタイルを選んでください)」との文章になっており、アイコンにも男性/女性を表す言葉が付けられていないのだ。フランス語版や中国語版などの他言語では日本語版と同じく男女を区別する単語が表示されているため、あえて「Boy/Girl」といった記載を避け「スタイル」という表現を用いる英語版は独自の配慮がなされているのかもしれない。
小さな身体で、プレイヤーの自己表現を力強くサポートしてくれるむらびと。CallMeLara氏の体験は、『あつ森』における多様性の懐の広さが改めて確認できたエピソードといえるだろう。