『スポンジ・ボブ』新作ゲームを10点中2点と酷評したライター、厳しい批判に晒される。そのヘタクソさに「クソまぬけ」との罵倒

今月24日に配信開始された『SpongeBob SquarePants: Battle for Bikini Bottom - Rehydrated』。同作レビュー記事を書いた海外のライターが今、激しいバッシングに遭っているという。いったい何が起きているのだろうか。

今月24日にSteamなどで配信開始された『SpongeBob SquarePants: Battle for Bikini Bottom – Rehydrated』。そのプレイレビュー記事を書いた海外のライターが今、激しいバッシングに遭っているという。いったい何が起きているのだろうか。

ゲームライターはゲームが上手くてしかるべきかという問いは、ここ数年で何度か繰り返されてきた。発端となったのは2016年、海外メディアPolygonが新生『DOOM』のプレイ映像を公開したときのこと。動画内のプレイヤーはエイムがおぼつかず、敵との距離感もいまひとつ掴めていないプレイぶりで、その“ヘタクソ”さが批判を受けた。

さらに2017年、海外メディアVentureBeatで記事を執筆する記者Dean Takahashi氏が騒動を起こす。同氏が『Cuphead』をプレイする動画を公開したところ、チュートリアルすらままならない鈍臭いプレイぶりが炎上。「果たしてゲームの下手なプレイヤーはゲームライターたりうるのか?」との議論を巻き起こし、Takahashi氏を非難する声が集まった(関連記事)。その後同氏は練習を重ね、なんとか問題のステージをクリアしリベンジを果たすことに成功。しかし悲劇は終わらなかった。今年2月、またしてもTakahashi氏が稚拙なゲームプレイ動画で批判を受けたのだ。今度のタイトルは『DOOM Eternal』で、目的地へうまく辿り着けないなどの醜態を晒し矢面に立たされた。

*Takahashi氏のプレイを見守る、YouTubeチャンネルTasty Loot Gamingのリアクション動画

「ゲームライターがゲームヘタクソ問題」については議論すべき点がふたつある。ひとつは「ゲームが下手=ふだんからゲームを遊んでいない」記者が、果たしてゲームを語る資格があるのかという点だ。そしてもうひとつ、特にハンズオン動画を公開する際など、プレイがおぼつかないせいで肝心のゲーム内容を伝えきれず、ジャーナリストとしての仕事が果たせていないという点である。

あくまでコンテンツの内容を伝えることがゲーム記者の果たすべき機能である以上、情報を伝える際に雑音とならない程度の最低限の腕前は必要だ。おおむねこのような意見が冒頭の問いかけに対する回答となるだろう。では、なぜ今さらこの問題を蒸し返すのか。「また」悲惨なライターが現れてしまったのである。

「スポンジ・ボブ」ゲームに下された評価、2点

海外メディアGameSpotは6月23日、『SpongeBob SquarePants: Battle for Bikini Bottom – Rehydrated(以下、SpongeBob)』のレビュー記事を公開した。同作は米国テレビアニメ「スポンジ・ボブ」を題材としたプラットフォームアクションで、2003年に発売されカルト的人気を博したPlayStation 2版タイトルのリメイクとなっている。日本向けにもSteamでPC版が6月24日より配信されているほか、8月4日にはPlayStation 4 / Nintendo Switch版の発売が予定されている。GameSpotで本作のレビューを担当したのがライターのFunké Joseph氏だった。同氏は『SpongeBob』に対し衝撃のレビューを寄せている。その評価点数、10点満点中たったの2点。

Joseph氏は語る。『SpongeBob』はほとんど楽しくもなければ、やりがいのあるものでもない。本作を完遂しようとすることはまったく無味乾燥な体験だ。たしかに素敵に見えるし、象徴的なモチーフやきっちりした声優の演技はカートゥーンの楽しい思い出を呼び起こす。しかしプレイヤーは不愉快で時代遅れな仕掛けのためにフラストレーションに囚われた気分になり、結局は数えきれない今昔のプラットフォーマー作品に劣る出来栄えとなっている。

特にJoseph氏が問題視しているのは本作の操作性だ。同氏は、難しく思える作品の操作方法を覚えるのには決してやぶさかではないという。しかし『SpongeBob』においては操作や能力を理解することは問題ではない。ただ操作系統そのものが上手く作用していないのだという。プレイヤーが上手く操作できていないときにゲームがペナルティを与えるのは問題ない。しかし本作はただ理由もなく、無自覚にプレイヤーを罰し続けている。このほかJoseph氏は、キャラクターの動きの遅さや隠しアイテムの配置の無計画さ、あまりに敵が多いことなどを挙げ、本作を痛烈に批判している。最後には、「原作に愛着があるならネットのRTA動画を観るか、PlayStation 2の埃をはらってオリジナル版を遊んだ方がよい」とまで言い切った。



読者が疑問を抱いた「問題のシーン」

そこまでJoseph氏に酷評される本作は、いったいどれほどの出来栄えなのだろうか。同氏が特に取り上げて批判しているギミックのひとつが、作中で巨大なピタゴラ装置を作動させるシーンだ。マシンを起動したらボールの速度に合わせて進み、途中にある跳ね橋などのギミックを作動させてボールを導いていくというもの。一連の仕掛けのある箇所で、ボタンを押す場面がある。ボタンはシャッターによって守られており、シャッターを開けるためにはその手前にある大きなスイッチの上に乗っていなくてはならない。

したがってプレイヤーが行うべきことは、まずスイッチの上に乗り、そこからスポンジ・ボブの「シャボン玉を飛ばす」能力によって遠隔でボタンを押す、という流れになる。しかしJoseph氏はここに問題があるという。スポンジ・ボブがシャボン玉を飛ばす際、必ず「やや前進する」予備動作が入ってしまうのだ。したがってスイッチの上からシャボン玉を飛ばそうとすると、必ず前に進むモーションが入ってしまい、彼がスイッチから降りてしまう。するとシャッターが閉まり、シャボン玉がボタンに届く前に弾かれてしまうのだ。この操作性が大いにJoseph氏を苦戦させ、何度も繰り返すハメになったという。文章では伝わりにくいので、下記の動画を参照されたい。該当のギミックは0:27ごろからスタートする。

映像を観たところで、何か引っかかるところはなかっただろうか。Joseph氏のプレイ動画を観た多くの視聴者の胸にある思いが去来した。「もう少し下がってからシャボン玉を撃てばいいのでは?」。この動画はTwitterユーザーのMatthew Sclafani氏によって切り出され、「マジモンのクソまぬけ」との文言とともに拡散された。そのリツイート数は驚異の1万件、いいね数は4万4000件を超過する。

*他のプレイヤーによる同ギミックのシーン、4:25:46ごろ。特に苦労なく通過していることがわかる。

腕前問題プラス、レビューを下す難しさ

プレイ動画はこのほかにも、明らかに敵との距離感を見誤って激突したり、おぼつかないカメラ操作のために足場から落下したりと、操作性云々よりプレイヤーの腕前が疑わしい「モヤッと」するシーンが多数観られる。YouTubeのページでは高評価が400件あまりに対し、低評価は1万件という桁違いの反響が寄せられた。コメント欄には「“プレイヤーが上手く操作できていないときにゲームがペナルティを与えるのは問題ない”なら、あなたの場合がまさにそうなのでは?」といった手厳しい意見が頻発。またGameSpot記事ページのコメント欄にも「子ども向けの作品すらプレイできないのか」といった非難があるほか、「“2点”という極端な評価はバグなどでまともに遊べない作品につけられるべきであって、個人の好みによってこのようなレビューを付けるべきではない」といった声もある。

記事の著者紹介によれば、Joseph氏は本稿を執筆するにあたり『SpongeBob』を20時間ほどプレイしているという。同氏のものと思われるTwitterアカウントは現在非公開となっているようだ。普段はカナダのエンタメ系メディアMTV Canadaにて芸能記事を中心に執筆しているというJoseph氏。ゲーム記事としてはIGNやVICEなどにも寄稿している。GameSpotでは今年1月にPlayStation 4用アドベンチャー『Wattam』をレビューし、そのハートフルな作風に触れ10点中7点の好評価を下していた。一方、カルチャー分析的な文脈で『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』や『Red Dead Redemption 2』などを記事に取り上げることはありつつも、本格的にアクションゲームのプレイレビューを執筆することは少ない印象だ。『SpongeBob』の記事執筆にあたっても、必ずしもJoseph氏が得意とするフィールドではないという背景があったのかもしれない。

たびたび繰り返される「ゲームライターの腕前問題」。これまでの例と異なるのは、『DOOM』シリーズや『Cuphead』と比べて難易度が低いとされる作品であったこと、そして何より「レビュー」として明確に作品の出来栄えを点数化しなくてはならなかったことが挙げられるだろう。今回の件に限らずどんな作品でも、ひとりのライターがそのクオリティを判断し点数化するのは非常に困難な作業だ。どれほど中立性を保とうとしても、そこには必ず一個人としての意見が反映されざるを得ない。ましてここに「ライターの腕前がイマイチ」という問題が重なってくれば、その評価はますます信頼性を担保することが難しくなってくるだろう。『SpongeBob』レビューが書かれた経緯は不明だが、極端に本作との相性が悪いJoseph氏に評価を一任することは無理があったのではないか。ゲームメディア、そしてジャーナリストが作品を評価するということの難しさが、改めて浮き彫りとなった例といえるだろう。

『SpongeBob SquarePants: Battle for Bikini Bottom – Rehydrated』はSteamおよびXbox Oneにて、日本語対応で配信中。また8月4日にはPlayStation 4 / Nintendo Switch版の発売が予定されている。実際に本作を遊んで“GameSpotのレビューをレビュー”してみるのもいいだろう。
【UPDATE 2020/6/27 9:50】
Xbox One版が発売中であることを追記

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

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