『The Last of Us Part II』ゲーム開発者たちは「ロープの挙動」に注目。同業者が感心する、自然なロープ表現の数々
Naughty Dogの最新作『The Last of Us Part II』が6月19日に発売された。同作に関しては、ストーリーだけでなく、PS4の限界に挑む技術面での取り組みも注目されている。細部にまでこだわった美麗なグラフィックや、豊富なアクセシビリティオプション。これらは発売前から宣伝されていたが、ゲームの発売後には、本作ならではの技術的成果として「ロープの挙動」が、ゲーム開発者を中心としたユーザーから高く評価され始めている。
『The Last of Us Part II』におけるロープ/ケーブルを使ったアクションは、環境パズルの幅を広げる役割を担っている。前作の環境パズルは、ステージの先へ進むために「ハシゴ、ゴミ収集コンテナ、木製パレット」を特定の位置まで運ぶ類のものが軸となっていた。続編では水上移動用の木製パレットがなくなり、かわりに躍動的なアクションをもたらすロープ/ケーブルが新たな移動・パズルメカニックとして加わった。
*Lukas Kanik(Life28SK)氏が『The Last of Us Part II』発売時に公開した、ロープ挙動の紹介動画
具体的な使い道としては、ロープにぶら下がってスウィング移動する、ロープを伝って上り下りするといったロープアクション。そして発電機から伸びる電源ケーブルを、電力を供給したい場所まで引っ張っていく環境パズルが挙げられる。ロープの片方を固定した状態で、建物上部にあるパイプや突起部分を超えるようにして投げて、ロープの反対側から登れるようにするといった「投げる」「手繰り寄せる」行為も求められる。
ロープを使って移動する/パズルを解く行為自体は、目新しいことではない。だが「ロープの挙動」に関して言うと、同業者を驚かすほどのリアルさを実現しており、注目を集めている。国内のインディーゲーム開発者であるニカイドウレンジ氏の以下ツイートは、ロープ挙動のすごさを簡潔にあらわしており、海外ユーザーからも多くのコメントが寄せられているほか、VG247、Push Squareといった海外メディアに取り上げられている。
ロープのどの部分でも手に持つことができ、手に取った箇所に応じて自然な形で手繰り寄せることが可能。ロープのたるみ具合、ピンと張ったときの動き、他のオブジェクトやキャラクターモデルとの干渉など、現実味のある挙動を実現している。ロープに触れるキャラクターの反応も作り込まれていおり、たとえば片方が固定されたロープを持って走り出すと、ロープが張ったときに反動で身体が引っ張り戻される。このように、不自然さを残さないよう、細部にまで力が注がれている。
インディーゲームのレベルデザイナーとして活動するNotewell Lyons氏は、「私の専門はレベルデザインであり、こうしたロープの挙動を実現するための仕事をしているわけではないのですが、それでも涙が出そうになります」とニカイドウレンジ氏の投稿内容に反応。Insomniac Gamesの3Dキャラクターアーティストとして『Marvel’s Spider-Man』『ラチェット&クランク』などに関わったXavier Coelho-Kostolny氏は、「ロープの挙動を作り込むため、開発中には15人ほどのスタッフが涙を流したことでしょう」と同業者の視点からコメントを残している。
そのほかにも複数のゲーム開発者が驚きの声を寄せており、Naughty DogのゲームプレイアニメーターMaksym Zhuravlov氏は、ロープの持ち運びという目立たない部分に気づく人が出てきたことに喜びの声をあげている(該当ツイート)。作業工数については、担当者3人で、半年はかからなかったと伝えている。ただ実装難易度は高く、気軽に試せるものではないとも補足している。
ロープ挙動の主な貢献者は、Naughty Dog在籍歴10年以上のベテランプログラマーJaroslav Sinecky氏である。Naughty Dog共同ゲームディレクターのKurt Margenau氏によると、Sinecky氏は『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』の車両ウインチメカニックを組み込んだ人物であり、それを発展させたのが新作におけるロープ挙動なのだという(該当ツイート)。
『Half-Life: Alyx』に関わったデザイナー/アニメーターJames Benson氏は、『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』でロープまわりの技術を実装して経験を積んでいたからこそ、ここまでのクオリティを実現できたのだろうとコメントしていた。その推測はそこまで外れてはいないのだろう。
『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』では、樹木や柱にウインチをくくりつけて、車両を牽引する、あるいは柱を破壊する場面が数箇所ある。そこで用いた技術を発展させたのが、『The Last of Us Part II』におけるロープ挙動。ただ、ウインチよりも、ゆるみのあるロープ/ケーブルの方が、自然な表現を実現するための難易度ははるかに高い。そうした難関に直面しても解決策を見つけ出すのが、Sinecky氏なのだという。
Naughty Dogはロープの挙動に限らず、技術面で最先端のスタジオとして名を馳せている。植生の分布や植物、建築に関する膨大な量の調査にもとづき構築されたシアトルの街並み。キャラクターが戦闘時に見せる険しい表情、シネマティックシーンにおける目の充血具合、額に浮き出る血管表現、首を絞められたときの鬱血具合など、人々も場所も、最大限にリアルな描写になるよう、細部まで作り込まれている。
同業者であるゲーム開発者たちは、そうした目に付きやすいこだわりだけでなく、先述したロープの挙動や、キャラクターモデルとのクリッピングを生じさせずに服を脱ぐシーンといった、一般ユーザーでは気づきづらい技術的な成果にも目を向けている。そうした「リアルな描写」という方向性だけでなく、60項目におよぶアクセシビリティオプションを代表とした「遊びやすさ向上」のために労力が注がれていることも、注目に値するだろう。
『The Last of Us Part II』において、ユーザーがもっとも関心を寄せているのは物語に関わる部分かと思われる。同作のレビュー解禁時、もっと遡れば今年4月にゲームの大まかな流れがリークしたころから、物語の方向性や描き方について議論が交わされてきた。物語を評価軸とした場合、絶賛と酷評とで意見が大きく分かれている本作であるが、技術的な成果物としては、Naughty Dogの名に恥じぬ品質であることは間違いなさそうだ。