Nintendo Switchに「ネットで売られる素材集そのまま」のゲームが発売され批判集まる。eショップに迫る“低品質ゲームの魔の手”
欧米のニンテンドーeショップにて、アセットストアで販売されている「素材集」をそのまま使ったゲームが発売されており、批判が集まっている。今月5月7日にNintendo Switchでリリースされた『The Bullet: Time of Revenge』は、ポーランドのパブリッシャーArt Games Studioが販売する作品。ぱっと見る感じでは、ローポリスタイルのシンプルなシューター。ゴア表現も多くESRBでも「M(17歳以上対象)」レーティングと対象年齢が高めだ。それほど問題があるゲームには見えないが、このゲーム実はUnityアセットストアで販売されているアセット“そのまま”なのだという。物申し系YouTuberであるJim Sterling氏が指摘し、注目が集まっている。
『The Bullet: Time of Revenge』は、結論からいうとUnityアセットストアで販売されている「Hammer 2」をそのまま使った作品である。Full Game Kitとして販売されている「Hammer 2」には、スクリプトや素材が備わっており、ゲームそのものが詰まっているわけだ。「Hammer 2」については、フリーゲームを制作し、時にそのアセットを販売するXformGamesが手がけており、ストアレビューは星4と安定した評価を獲得している。この49.99ドルで発売されている素材集「Hammer 2」を、そのままNintendo Switch向けに移植し、4.99ドルという値札をつけたのが『The Bullet: Time of Revenge』である。なお、「Hammer 2」はXformGamesや関連のFlashサイトにてブラウザで無料プレイ可能だ。
アセット「Hammer 2」をそのまま使用することについては、Unityのアセットストア上の規約として問題がない。利用規約ページにもそうした記載が確認でき、素材販売主であるXformGamesも商用利用は禁じていない。しかしながら『The Bullet: Time of Revenge』の発売においては、Art Games Studioだけではなく、任天堂にも批判の矛先が向けられている。
というのも、こうしたアセットフリップ(素材のコピペ)と呼ばれる作品は、低品質なゲームの代表例としてあげられている。粗悪なアセットフリップタイトルが数多く販売されるSteamではたびたび問題視されている。アセットストアには高品質なアセットが揃えられており、ゲームを含めたさまざまなシーンで役立つ。一方で、それをそのまま使う作品は、クリエイティビティが込められておらず、そのメンタリティ自体が完成度に反映されがち。それゆえに、素材をそのまま使うだけの低品質タイトルの販売を許す、任天堂の姿勢が危惧されているわけだ。
ニンテンドーeショップのランキングは、金額ベースではなく数量ベースとなっており、その性質上低価格で投げ売りされた作品がスポットライトを浴びやすい。500円程度の定価でタイトルを販売し、セール時に100円ほどに価格を設定することで、ランキング欄に顔を出すというケースは多々見られる。どのような方法でも、露出さえすれば客引きすることができるからだ。
Steamでは、運営元であるValveがゲームにおける多様性を認めており(一部規制されるものもあるが)、こうした低品質ゲームの氾濫も半ば容認されている。Nintendo Switchはこれまでの任天堂ハードに比べると、ゲーム販売をする敷居も低く、個人レベルの開発者が低品質なゲームを出しやすい環境となっている。こうした低品質ゲームの氾濫においては、アタリショックの再来を危惧する声もあり、必ずしも迎合されておらず、ニンテンドーeショップがSteamストアのようになっていくことを心配する声が寄せられている。そうした背景を踏まえ、『The Bullet: Time of Revenge』の発売を容認する米任天堂の姿勢に批判が寄せられている。
Asset flips are now invading the Nintendo eShop. Does this bother you at all? Reply with your reasons.
If you don't know what an asset flip is check the link.https://t.co/DjovAo169l
— threads.net/@billfairchild (@RunJumpStomp) May 11, 2020
おそらく、指摘されてこなかっただけで、これまでにもアセットをそのまま使ったようなタイトルが発売されていた可能性はあるだろう。『The Bullet: Time of Revenge』は、必ずしも初めてのケースではないかもしれない。しかし今回の例は、同件のみならず任天堂のストアプラットフォーマーとしてのスタンスについて問題提起する流れを生んでいる。同件は以前から指摘されている点でもある(関連記事)。なお、国内のニンテンドーeショップについては、販売者の質の問題か任天堂の国内担当者のコントロールの問題かは定かではないが、欧米のニンテンドーeショップより“低品質安価ゲーム”の氾濫はかなり抑えられている印象だ。
ニンテンドーeショップでは、国内では毎週20本前後のタイトルが配信されており、国外でも同程度かそれ以上の数のゲームがリリースされている。本体の売れ行きも好調で市場が拡大し続けていることも考えると、リリース数はしばらく減ることはないと予想される。低品質ゲームの絶対数も増えていくだろう。『The Bullet: Time of Revenge』のような、低品質でありながらもポップでゴア要素のあるタイトルは、低年齢層にもリーチする可能性もあり、ちょっとしたヒットタイトルにもなりうる。そうしたタイトルを排除していくのか、もしくは共存していくのか、あるいは粗悪タイトルにストアが飲み込まれていくのか。巨大化し続けるニンテンドーeショップにおいて、任天堂がどのようなハンドリングをしていくかに注目が集まる。