『デス・ストランディング(以下、デススト)』における特徴のひとつは、主人公サム・ポーター・ブリッジズの生理現象をリアルに再現している点だ。スタミナや血液量、そして排尿。サムは、フィールドで人目のないところならどこでも用を足すことができる。これにはゲームシステムとしての意味合いがあるのだが、そんなことよりある好奇心に猛烈に掻き立てられてしまった人物がいた。ゲーム実況者Reetae27氏が挑戦したのは、「立ちションで自分の名前を書くことができるか」という実験である。
『デススト』を知らない人のために解説しておくと、排尿はゲームにおける重要なシステムである。作中に登場する未知の敵「BT」に対抗する手段、それはサムの体液から採取される特殊な成分を使うこと。よって、彼の血液や排泄物はゲーム内の拠点で逐一回収され、対BT用のグレネードとして精製される。排尿は武器を作るために不可欠なのだ。
とはいえReetae27氏は「立ちション」機能についてはしばらく忘れていたそうだ。先述のとおり、武器精製用の排泄物は基本的に屋内の拠点で採取される。一応屋外で排泄した際も別の利点があるのだが、とにかくReetae27氏が操るサムはお行儀よくトイレで排泄する生活を送っていたのだ。
転機となったのは、あるミッションで雪山にやってきたときである。Reetae27氏は以前から気に入っていることがあった。雪で覆われた地面の上を歩くと、その道筋を忠実に辿った足跡が刻まれるのである。そこで彼は思いつく。「足跡だけで自分の名前を書いてみる」というのはどうだろうか。これだけでもブリッジズが聞いたら神妙になりそうなチャレンジだが、直後にReetae27氏はさらなる雷に打たれてしまった。そういえばこのゲームでは立ちション機能が実装されている。ならば「おしっこで自分の名前を書けるのではないか」。アメリカ再建を背負った男の、壮大な立ちションチャレンジが始まった瞬間であった。
プロジェクト開始の前にはまず検証が必要だ。果たして雪の上に排尿したところで、その跡はしっかり残るのだろうか。この点に関して小島監督は裏切らなかった。放物線を描いた先にはしっかり雪が溶けた跡が刻まれたのである。「雪が黄色くならなかったのはちょっと残念」としつつ、溶けた跡はその場を離れない限り消えないということも判明した。最低条件は整ったわけだ。
いよいよ名前を書く段に入る。Reetae27氏がいきなり直面したのは自身のユーザーネームの問題だ。初っ端の「R」が、一文字目にして複雑で書きにくいのである。はじめはいびつな四角めいた形しか書けなかった同氏だが、持ち前の粘り強さでたびたびトライを続けた。そして何度かの試みののち、同氏はようやく「R」らしい字を描き出すことに成功する。この最初の挑戦により、彼は重要な学びを得ることになった。それは「いちどセーブすると、立ちションの跡はぜんぶ消える」という残酷な事実である。
勝負はいちどに決める必要がある。実験は続いた。幾度となく繰り返すうちに良い検証結果も得られるようになってきた。「Reetae27」という名前に含まれるのは8文字。これに対し、サムの膀胱が含有できる尿の量は1000mlにおよぶ。8つの英数字を描き出すには十分な量だ。「本作の実に太っ腹な部分です」と、Reetae27氏は海外メディアのPolygonに語っている。通常の人間の膀胱であれば500mlが限界だからだ。伝説の配達人ともなれば鍛えられているのかもしれない。
さらに課題も見えてきた。まず、雪の跡だけで描くにはどうしても自身の足跡が邪魔になってくる。それに、雪原に文字を書くにあたってサムも同じ地平に立っていたのでは、目線の都合でどうしても文字が潰れてしまう。ちょうどうつ伏せのまま字を書くと妙なパースがついてしまうのと同じ原理だ。字を書くなら背筋を伸ばして、まっすぐ真上から紙面を見下ろす必要がある。Reetae27氏はすぐに次なるミッションを見つけた。立ちションするのに適した高台を見つくろう必要がある。
『デススト』といえば橋。偶然にも実験場所からほどない場所に橋が架かっているのを発見したReetae27氏は、さっそくその上から排尿を試みた。ところが様子がおかしい。先ほどまであれほど開放的だったサムが頑なに立ちションを拒むのだ。その口からは「いや、人がいるだろう」「今はそのときじゃない」と、もにょもにょ呟く言葉。原因は橋にあった。『デススト』の建設物はカスタマイズすることで、好きなキャラクターのホログラムを設置することができる。先述のとおりサムが放尿可能なのは「人目のない場所」に限られるのだが、どうやら橋の上にホログラムで投影される人物もNPCとして認識されるらしいのだ。気持ちの問題だろうか。
サクッとホログラムを削除したのち、改めて立ちションチャレンジに挑戦。Reetae27氏の目論見どおり、平地に立って書くよりもかなり正確に文字を描き出すことができた。ところがここにきて、最大の課題が立ちはだかることになる。「REE」まで書いたところでスペースがなくなってしまったのだ。橋とは、あくまで必要とされるところに建てられるもの。つまり橋がある場所はすべからく凹凸の激しい入り組んだ土地であり、お名前チャレンジをするのに適した平地などあるわけがないのだ。ここでReetae27氏は大きな決意をする。ないなら造ればいい。
サムはようやく本業に戻った。アメリカの大地に橋を架けるのだ。すべては立ちションのため。名前を書くのに適した橋を架けるべく、大きく開けたスペースを探す旅が始まった。そしてこのロケハンは思いのほか難航する。橋を設置するための条件は厳しく、広く平坦な土地が求められるのだ。そして雪が覆う山岳地帯では、そうした場所にはめったに巡り合えない。運よく平たい場所を見つけても湧き出るBTが邪魔をしてくる。雪煙を撒き散らしながらReetae27氏は雪山を駆けた。そして探求の末、とうとう完璧なロケーションが発見される。そこは偶然にもハート型の湖のすぐそばだった。平坦で、何もなく、BTも現れない。完璧なゴールだ。長旅の疲れもそこそこに、すぐ建設装置を起動するReetae27氏。するとここであることに気がつく。橋の建設に必要な素材、金属×800。とんぼ返りの旅が始まった。
すべてが準備され、無事に橋は建設された。「『デススト』を遊んでいてこんなに嬉しかったことはない」とReetae27氏は動画内で語る。事情を知らない者から見たらトマソン建築としか思えない、平らな雪原に架かる無意味な橋。しかし今やReetae27氏は、80メートルにおよぶ巨大なキャンバスを手に入れたのである。ようやく立ちション再チャレンジの時がやってきた。はじめ、その筆跡はおぼつかないものだった。しかし繰り返し挑戦するにつれ徐々にコツをつかんでゆく。ゆっくり書けばそれだけ正確になる。膀胱の残量を気にしすぎてはいけない。少し左寄りに角度をつけるといい、等々。度重なる練習の末、とうとうそれは完成した。白い紙面の上に刻まれた「REETAE27」の文字。一文字だけごまかしたようにも見えるが、確かに同氏は自らの名前を刻むことに成功したのである。
その後Reetae27氏は「完璧主義者の務めとして」、自らの名前以外の全アルファベットを書くことにも挑戦。「W,M,Q」のように幅広な文字はやや難しいとしながらも、すべての文字を放尿で書くことが可能だと証明してみせた。8〜9文字以内の名前なら立ちションでの筆記が可能だろうとの検証結果を伝えている。そして「もしこれらの情報が無駄だと思うのなら、」と同氏は続ける。「そもそも立ちションできるシステム自体無駄なんじゃないでしょうか」。
シニカルなオチまで秀逸なReetae27氏の挑戦だが、一応立ちションが無意味ではないという点はお伝えしておこう。サムがフィールドで排尿すると、ときどきホログラム状のキノコがその場に生えることがある。なんともシュールな絵面だが、このキノコは繰り返し放尿することで成長してゆく。そして十分に育ったキノコからは、サムの血液量を回復できるクリプトビオシスを採取することができるのだ。キノコを育てるには相当な量の尿が必要となるが、オンラインでプレイしていれば他人とシェアすることも可能。みんなで立ちションすればみんなでキノコを育てることができるのだ。もし道中で立派なキノコを見つけたら、そこで用を足してきた数多のサムワンに思いを馳せながらいいねしておこう。
A beautiful but steep mountain range, an upside-down arc of rainbows, and a mushroom growing with another Sam.
美しいが険しい山脈、逆に弧を描く虹、そして別のサムと共に育てるキノコ#DeathStranding #PS_TGS2019 #PS4 #デスストランディング pic.twitter.com/xZ4MOmOxpC— Finem Orientis (@keepitrealVR) September 14, 2019
*キノコはよく見ると「いいね」のサムズアップ柄をしているらしい。
Reetae27氏の今回の挑戦には15時間以上が費やされたという。同氏といえば今年2月、PS4『Marvel’s Spider-Man』のバスケットコートでダンクを成功させようとしたチャレンジでも話題を集めた(関連記事)。「ときおり、遊んでいるゲームの限界を押し上げられるかに突き動かされるんです」とPolygonに語るReetae27氏。次はどんなゲームで、いかなる挑戦をするのだろうか。今後の行く末からも目が離せない。
ちなみに極寒の地で立ちションするとこうなるとのこと。参考にしてほしい。