iOS/Android向け『薔薇と椿』紹介。Flash版の良さはそのままに、バトルに臨場感と遊びやすさを追加したリメイク版

京都のゲーム開発会社room6から、iOS/Android向けにリリースされた『薔薇と椿』。本作は元々、2007年にFlashゲームとして公開。独特の世界観と笑える内容から、Web上で人気を誇っていた作品だ。

京都のゲーム開発会社room6から、iOS/Android向けにリリースされた『薔薇と椿』。本作は元々、2007年にFlashゲームとして公開。独特の世界観と笑える内容から、Web上で人気を誇っていた作品だ。

開発元NIGOROの公式サイト上には、Flash版『薔薇と椿』を含め、多数の作品が今でもプレイ可能な状態で公開されているが、2020年12月にはFllashのサポート終了が迫っており、以降は今ほど手軽には遊べなくなってしまう。今回の移植は、そうした状況を踏まえて行われた側面もあるのだろう。しかし、結論から言ってスマートフォン版『薔薇と椿』は、決してただ移植しただけものではない、完成度を高めたリメイク版とでもいうべき作品だった。

『薔薇と椿』は、華族の一家である椿小路家を舞台に、家を賭けた女の闘いが繰り広げられるおビンタバトルゲームである。主人公の椿小路玲子は、庶民の家から椿小路家の長男、俊介の嫁としてやってきた女だ。しかし、嫁いできた翌日に俊介が亡くなり、玲子に対する椿小路家の女たちの態度が一変。高貴ないびりが行われるようになってしまう。

椿小路家の人々の態度から、今まで俊介が自分をかばってくれていたことに気づいた玲子は、いびりに耐えかねていたこともあり、強くなろうと決意。俊介の残した一輪の薔薇を胸に、「椿小路家は長男の嫁である私が頂く」と宣言し、女の闘いが始まる。

椿小路玲子は強い。庶民生まれの生たれ強さ、紡績工場での労働から培った腕力、椿小路家を自分のものにしてしまおうと大胆に考えられるメンタルも含め、本作では強い女として描かれている。そんな玲子の闘いの相手として、ストレートに高貴さを発揮してくるお嬢様タイプの次女・沙織、顔の良い女・静香、何故か天井に張り付いて登場する家政婦・三田悦子、高齢の椿小路家の主・椿小路華江などが登場。それぞれ異なる高貴さを武器に、玲子の前へ立ちはだかる。

いずれもキャラクターの立った登場人物たちが、おビンタバトルによって顔面にビンタを受けるとしっかりリアクションを見せ、玲子が勝つとボロボロのまま悔しがり、逆に負けるとキレキレの煽りを繰り出してくれるのだから、それだけでも十分に面白い。ストーリーや表現などは基本的にFlash版と同じ内容になっているが、スマートフォン版では画面サイズが元の横幅728から、2000ピクセル前後へと変更。画面が綺麗になっており、顔芸も強化されているのは嬉しい変化だろう。

スマートフォン版でもっとも変化したのは、おビンタバトルパートだ。Flash版のバトルは、まず画面上に表示されたアイコンをクリック。その後、攻撃の際はマウスの軌跡を相手の頬へぶつけてビンタし、回避の際にはとにかく素早くマウスを動かす内容だった。マウスを動かしてのビンタは、それはそれでビンタが表現されていたものの、玲子の回避が強力過ぎたため、失敗してカウンターをもらうリスクのある攻撃は行わず、回避に専念してカウンターを狙う戦法も実施されていた。

スマートフォン版では、操作方法も含めてバトルが新しくなっている。ターン中のビンタは、直接相手の頬へ画面をおスワイプするようになった。相手のターン中では、相対的に玲子の回避が弱体化。適当に回避を入力しているとビンタを食らってしまうため、追加された相手の事前動作に合わせておスワイプで回避を入力し、タイミングを見計らって避けるように変更されている。椿小路家の女たちには、フェイントをしかけてくる女や、別のモーションから派手な攻撃を仕掛けてくる女もおり、回避の仕様変更とあわせて緊張感が増し、より迫力のあるおビンタバトルが体験できる。

また、回避が弱体化された一方、玲子の打たれ強さは強化。1戦ごとに体力が最大値まで回復するようになり、コンティニューも実装されたことで、シンプルながら楽しく遊べる内容に進化している。特に難易度の上がってくる後半は、かなりやりごたえがあり、白熱したバトルが繰り広げられることだろう。なお、コンシューマーへの移植が検討された際に企画されていたという往復ビンタも、スマートフォン版では実装されている。

本作に欠点があるとすれば、それは現実でビンタをすると手が痛むように、強敵へ繰り返し挑んでいると、画面をおスワイプする腕と指に負担がかかることだ。椿小路玲子は強いが、後半の椿小路家の人間も玲子とは違った方向性の強さを持っており、戦いは自然と長引いていく。素早く正確なおスワイプを目指し、何度もビンタを繰り返していれば、真っ先に負担がかかるのは決して強くはない筆者のフィジカルだったというわけだ。とはいえ、マウスを目一杯振り回し、必死になって遊んだ記憶のあるオリジナル版ほどではないし、ゲームプレイがそれだけ熱中できるものだったということでもある。

総合的に、オリジナルの強烈な世界観はそのままに、全体に手を入れたことで、笑いながらゲームとしてしっかり遊べる作品に仕上げっている。Flash版を当時遊んだプレイヤーはもちろん、何かシ笑えるを探している方には、是非遊んでみてほしい。移植版『薔薇と椿』は、iOS/Android向けに各ストアにて配信中だ。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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