CESA含む4団体が「ゲームを安心・安全に楽しんでいただくために」発表。「家庭ルール」と「学術的見地」で健全なゲーミングを目指す
国内ゲーム業界4団体は3月10日、連名にて「ゲームを安心・安全に楽しんでいただくために」と題した文書をリリースした。国内外で盛り上がる「ゲーム障害」とその規制にまつわる議論を受けての発表だ(リンク先はPDF)。
文書に連名したのは東京ゲームショウ主催で知られる一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(以下、CESA)/一般社団法人日本オンラインゲーム協会/一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム/一般社団法人日本eスポーツ連合など、計4団体からなる「4団体合同検討会」。文書内では「未成年者がゲームを健全に楽しんでいた だくために、(中略)保護者と相談して未成年者が主体的 にルール(約束)を作ることを推奨」との意思を強調。ペアレンタルコントロールを用いた親子間の決まり作りを繰り返し奨励している。実際にそうしたスタンスを貫いてきたのだろうか。担当者に話を訊いてみた。
4団体合同検討会事務局の担当者は「家庭内でのルール作りについてはこれまで一貫してぶれずに発信してきた」と自信を見せる。一方でファミリー層への認知度の低さを悔やんでもいるようだ。ゲーム業界の自主規制やガイドライン遵守の取り組みはCESAなどのホームページで定期的に発表されてきた。しかし一般の消費者にとって、業界団体のWebサイトとはなかなか目につきにくいものだろう。圧倒的な集客力を誇る東京ゲームショウについても、2019年の来場者数は一般公開日のみでは19万人ほど。限られた人数に対してしか告知できていないことに対し、歯がゆさを感じていたようだ。そこで当局が考えたのがマスメディアを通じた広報である。もともと、世界的な関心が高まるにつれ「ゲーム障害」関連の問い合わせは各メディア・有識者から増加の一方にあった。そのつどホームページ内に散らばる啓発活動やガイドライン(未成年保護・ガチャ・リアルマネートレード防止にまつわる自主規制)を説明していたそうだが、このたび断片化していた情報を整理。業界の活動を改めて1つの文書にまとめた成果が今回の「ゲームを安心・安全に楽しんでいただくために」だという。これを発表することで、改めてメディアを通じてさまざまな取り組みを伝えていく考えだ。このほか現在、親子の約束作りを奨励する啓発動画を制作中。団体ページのほか大手ゲーム会社の公式SNSを通じても広く発信したいという。
なお今年1月から話題となっている「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案」(関連記事)については、意外にも部分的に肯定。条例が家庭内でのルール作りを推進している点を指して「(業界が)やってきたことそのもの」と同調する。ただしプレイ時間規制の妥当性については「具体的なエビデンスをもっていないので、現時点ではなんとも意見のしようがない」と慎重な考え。
ここまでCESAら4団体が「家庭内でのルール作り」を通じてゲームプレイの健全化を図っていることを伝えてきた。しかし国内ゲーム業界は異なるアプローチでも問題に取り組んでいる。それは科学的研究だ。前述の記事にも記載のとおり、CESAをはじめとする各団体は昨年4月からWHOの動向にいち早く反応していた。5月の正式認定を受けては「ゲーム障害に関する調査・研究の取り組みについて」とのプレスリリースを発表。外部有識者による調査研究を委託した旨を伝えた。つまりゲームと依存の関係性について科学的なデータの採取に乗り出したのだ。
こうした動きには欧米ゲーム業界の潮流も影響しているだろう。「ゲーム障害」の国際疾病認定に対しアメリカや欧州の業界団体は、アカデミックなデータを援用しながらWHOに抗議する姿勢を強く示している。たとえばアメリカのESA(エンターテインメントソフトウェア協会)やヨーロッパのISFE(欧州インタラクティブ・ソフトウェア連盟)・イギリスのUKIE(イギリスインタラクティブ・エンターテイメント団体)がしばしば引用するWebサイトがある。「ゲーム障害」に反論する情報の総合ポータル「HEALTHY VIDEO GAMING」だ。たとえばオックスフォード大学をはじめとした各国大学がWHOに疑義を示す論文を発表している事実や、アメリカ精神医学会が「証拠不十分」を理由に[「精神障害の診断および統計マニュアル」への追加を拒んだことなどが事例として挙げられている。「調査と研究」のページでは、902名のゲームプレイヤーを2年以上にわたり追跡した研究をはじめ、「ゲーム障害」の妥当性に疑問を呈する材料としての論文が列挙される。
CESAらが昨年5月から委託している調査は、世界的な「ゲーム障害」研究の流れの一端であると見ていいだろう。研究会には、依存症治療の専門医から社会心理学者まで幅広い専門家が協力しているという。4団体合同検討会事務局の担当者は、ゲームと依存に関する科学的な実態の把握は「ゲーム業界の役割」だと語る。家庭内のコミュニケーションからアカデミックな視座まで、CESAら4団体はあらゆる角度の取り組みで健全なゲーミングを実現していくだろう。