新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大にともない、ゲーム関連ハードウェアの生産・出荷遅延、GDCを含むゲームイベントの中止・延期など、ゲーム業界にも少なからず影響が表れ始めている。先日には、『ポケモンGO』が日本・韓国・イタリアにおいてコミュニティ・デイといったイベント類を中止するという、ゲーム単位での対策ケースも見られた(関連記事)。
米国においては、感染経路の不明な患者も確認され始めていることから、流行に備えた体制が求められつつある。そして対策のひとつとして頻出しているのが、リモートワーク。日本でも感染拡大防止策として採用例が増えつつあり(日本経済新聞)、米国においても複数の大手企業が従業員のリモートワークを許容し始めたと報じられている(Business Insider)。そして、そうした企業の中には、BungieやNintendo of Americaといったゲーム会社も含まれる。
リモートワークでライブサービスを継続するという挑戦
『Destiny 2』を開発・運営するBungieは3月5日、公式ブログにて同社におけるリモートワークの本格採用を発表した。Bungieの拠点は、米国ワシントン州シアトルの郊外都市ベルビュー。米国、とくにBungieのオフィスに近いキング郡シアトルでの新型コロナウイルスの感染報告が増えつつある中、従業員とパートナーの安全を守るための計画を数週間にわたり模索してきたとのこと。
ワシントン州は、米国での初の新型コロナウイルス感染による死者が確認された場所であり、感染報告数も同国内では比較的多い(Washington State Department of Health)。ジェイ・インズリー州知事からは2月末の時点で、州の機関に感染拡大への準備や対応に全てのリソースを使うよう指示する緊急事態宣言が出されている(JETRO)。
そうした地理的な事情もあり、Bungieは従業員の健康と安全を最優先事項としつつ、企業としての定常業務を止めないためにも、リモートワーク実現のためのインフラを速やかに構築。『Destiny 2』のコンテンツ配信やメンテナンスを継続できるような態勢を整えたという。リモートワーク時に発生する、遠隔コミュニケーションやゲーム開発継続の技術的問題を解決した上で、本拠地のベルビューに限らず、世界中で働くBungie全従業員を対象とした新ポリシーが適用された。今後Bungieは、臨時態勢下でライブサービス型のゲームを平常運転させるという課題に挑むことになる。
リモートワーク不可能な業務への配慮
ワシントン州キング郡といえば、マイクロソフトの本社(キング郡レドモンド)があることでも知られている。同社も、ワシントン州およびサンフランシスコベイエリアの従業員に対し、3月25日までの期間リモートワークを推奨すると発表している。データセンターや小売店など現地に出向く必要がある従業員はその限りではないが、60歳オーバー、妊婦、健康上の問題や免疫不全を抱えている者といった一定条件に当てはまる場合は、各々の上司と相談の上で対応を決めるよう勧告されている。また出勤した場合も、他者との長時間・近距離での交流は避け、1.8メートルは距離を置いて接するよう推奨されている。
だが在宅勤務者が増えると、カフェテリアスタッフやバス運転手といった時間給労働者のニーズがなくなってしまう。そうした業務は当然リモートワークが不可能であり、働き手の懐事情としては痛手。そこでマイクロソフトは、そうした時間給労働者に対し、臨時態勢中に業務時間が減ったとしても、通常どおりの報酬を支払い続けると伝えている。なお、リモートワークに関する発表があった翌日の3月5日、ワシントン州内で勤務するマイクロソフト従業員2人に新型コロナウイルス感染の診断結果が出たことが明かされている(CNBC)。
非常事態宣言を受けて対策が進む両州
マイクロソフトのリモートワーク勧告は、ワシントン州だけでなくサンフランシスコベイエリアの従業員も対象。同地では2月末に非常事態宣言が出ており、GDC 2020を含め各種国際イベントの中止が相次いだ。3月4日には、カリフォルニア州全体としても非常事態宣言が出されている(関連記事)。ちなみに同州で6月開催予定のE3 2020に関しては、日々状況を観測しつつ、健康リスクを軽減するための対策を設けてのイベント開催に向けて準備を進めていると、主催団体ESA(Entertainment Software Association)より告知されている。
なおワシントン州レドモンドやカリフォルニア州には、Nintendo of Americaのオフィスもある(前者は本社、後者はセールス&マーケティング部門オフィス)。同社が海外メディアのKotakuに伝えたところによると、感染拡大防止策として、ワシントン州・カリフォルニア州の従業員による在宅勤務を認めているとのことだ。
最近では、先述したマイクロソフトのほかにも、Amazon、Google、Facebookなど大手テック企業の多くが、ワシントン州の従業員に対し在宅勤務を推奨しており、感染者が報告されたAmazonとFacebookは対象エリアのオフィスを一時閉鎖している(The Verge)。サンフランシスコに拠点を置くTwitterも、全世界的に同社従業員のリモートワークを推奨。比較的リモートワークを導入しやすい業態から、在宅勤務化に向けた動きが広まりつつある。
リモートワークの生産性
従業員の健康・安全への配慮ならびに組織内での感染拡大リスクを抑える上で、採用例が増えつつあるリモートワーク。ただビジネス的観点から、在宅勤務による生産性の低下を懸念する声ももちろんある。Take-Two InteractiveのCEO Strauss Zelnick氏は、実際に顔をあわせて働くよりも生産性が落ちると考えており、リモートワークには懐疑的だ。そうした勤務形態を取り入れる企業は、従業員が家にいながら生産性を維持するための方法を探す必要があるとコメント。Take-Twoに関しては、いざとなればリモートワーク化できるが、その必要に迫られることはないだろうと伝えている(GamesIndustry.biz)。なおTake-Twoの本社がある米国ニューヨークでは、Zelnick氏の発言後の3月7日に非常事態宣言が出されており、続く8日にはコロナウイルス感染報告数が100人を超えたことが報じられている(日本経済新聞)。
Zelnick氏はリモートワークに否定的であるが、感染拡大防止策として多くの企業がリモートワークを実践する中、生産性の懸念に関して思わぬ結果が得られるかもしれないと、ビジネス的な観点から興味を示している。今回の一件を受けて、Zelnick氏を含む懐疑派の多くが考えを変えるような結果が見られるかもしれないと。
リモートワークの採用例が増えることで、リモートワークの生産性に関するケーススタディも増える。困難に直面した企業らが、一連の対応から得られるものがあるとすれば、そこなのだろう。先述したBungieも、今回直面した困難を、ひとつの好機としても捉えていると答えていた。違った環境下で、これまでと同品質のゲーミング体験を制作する力を引き伸ばす機会だと。あくまでも感染拡大防止を目的とした動きであり、苦しい時期であることに違いはないが、働き方やゲームの開発体制について、新たな学びが得られるかもしれない。