『どうぶつの森+』で“約10億ベルを預金する”挑戦が達成される。正攻法で挑んだ、180時間以上の地道すぎる作業の軌跡

Image Credit : BrianMp16 / 任天堂

任天堂がニンテンドーゲームキューブにて2001年に発売した『どうぶつの森+』において、3月6日、走者であるBrianMp16氏(以下、Mp16氏)によって、歴史的快挙となるスピードランが達成された。そのチャレンジ内容は、ゲーム内通貨である9億9999万9999ベルを預金し、報酬アイテム「ゆうびんきょくのもけい」を入手するという、前例のないユニークなものだ。

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『どうぶつの森+』は、村に暮らすどうぶつの住人たちとのコミュニケーションを楽しむスローライフゲームだ。家具やアイテムなどを入手するにはベルが必要となり、昆虫採集や釣りで採集した虫・魚を売ることで稼ぐことができる。プレイしたことのある方なら分かるのだが、通常のプレイならば高額取引でも100万ベルに満たないことがほとんど。10億ベルを稼ぐというのは途方もない目標だ。そんな目標をゴールに設定し、スピードランを始めたMp16氏。このスピードランをスタートした経緯について述べている。

Mp16氏は、14年間に渡って『どうぶつの森+』のスピードランに挑戦しており、たぬきちの借金を完済する「借金完済」、図鑑コンプリートによるアイテム獲得を目指す「きんのつりざお」「きんのあみ」、村の”サイコー”状態を維持してアイテムを獲得する「きんのオノ」など、数々のジャンルでワールドレコードを持つプレイヤーだ。しかしながら、そんな作品を隅々までやり込んだMP16氏にも、唯一正規の方法で獲得していないアイテムがあった。それが、今回のスピードランのゴールとされた、報酬アイテムであるゆうびんきょくのもけいである。

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ゆうびんきょくのもけいは、ゲーム内の預金システムを担う郵便局にて、9億9999万9999ベルを預金することで入手できるアイテム。このアイテムについては、正規の方法で入手したプレイヤーは、おそらくいないだろうとされている。というのも、このアイテムは「びんせん」を用意し、本文内に特定のあいことばを入力して、村の誰かに送付することで簡単に入手することができるからだ。しかしながら、これは正規の方法とはされていない。ゆえに、MP16氏はゲーム内の全アイテムを正規の方法で入手するべく、今回の挑戦に至ったようだ。

スピードランにあたり、Mp16氏は独自のルールを設定している。その内容は、グリッチを使用しない、前述のあいことばは使用しない、訪れる街は1つに限定する、時間操作は1日進めることのみを許容する、というものだ。グリッチ、あいことばの制限については、正規の方法でベル・アイテムを獲得するという目標に基づいて設定されたもの。街を1つに限定しているのは、後述する「カブ」で得る利益の正当性を守るためのものだ。そして、時間操作については正当性なものとして疑問に感じるユーザーもいるかもしれないが、Mp16氏の見解としては、時間を遡る行為は正当性に反するが、1日のみ進める時間操作においては、操作によるメリットは発生せず、開発者が意図したとおりのゲーム進行を崩さないもの、とされている。以上のように、あくまで正規の方法で約10億ベルを稼ぐように、ルール付けがなされているようだ。

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次に、重要となるベルの獲得方法については、Mp16氏がもっとも効率が良いとする「カブ」の売買が採用されている。カブは、毎週日曜日に村を訪れるキャラクターであるカブリバから購入できるアイテム。ゲーム内のカブは、現実の株のように70~129ベルの範囲で購入価格が変動する。氏は、このカブの価格が115ベル以上の場合にのみ購入する戦略をとっている。氏によると、この価格は4週に一度の周期で設定されるとのこと。カブを購入すれば、月曜から土曜の間、たぬきちの店でカブの売買価格を調査する。氏によると、カブは毎週40%の確率で購入価格の8倍の売値になるようで、その高騰を狙ってカブを売る手段がとられている。この内容を聞くかぎりでは一見容易にも思えるのだが、実際は購入・売却作業だけでも数時間を要するもの。また、カブは次の日曜日には腐ってしまうため、売買価格によっては、いわゆる損切りも発生する。運も大きく作用する、想像以上に過酷なチャレンジ内容になっている。

なおMp16氏は、チャレンジにあたって敢行したのは、カブのシステム解析だけでない。カブやベルの売買の効率化を図るためスペースを確保したり、移動を最短化するために町の木を全て切ったり、カブの購入費用を計算し、事前に必要なベルを地面に配置するなど、その他の万全な準備のもと、スピードランに挑んだようだ。

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そして2020年1月1日、万全たる計画のもと、スピードランがスタートした。前述の方法で、ひたすらカブの売買を繰り返す。しかしながらチャレンジ中には、カブの価格が115ベル未満のため購入を見送り、また1日ずつ時間を進め、次の日曜まで時間を進めるという心労が募るような作業もなされていたようだ。そんな紆余曲折もあったが、3月5日には郵便局の預金額が目標の9億9999万9999ベル目前となった。Mp16氏は、達成目前となった事をredditで報告。その内容からか、コミュニティ内はもちろん、Eurogamerなどの海外メディアにも取り上げられ、注目を集めることとなった。

そして3月6日、チャレンジ最後の配信が開始された。Mp16氏は配信内で、購入価格が124ベルになっているのを確認し、カブを購入。その後時間を進め、見事購入価格の8倍となる992ベルの売値を引き当てる。そして、達成が確信されるなか、カブの売却途中に郵便局の預金高が目標となる9億9999万9999ベルに至った。歴史的快挙となる目標額の到達時には、「やったよ、みんな!」とMp16氏が喜びのダンスを披露する中、コメント欄は多くの祝福コメントで埋め尽くされたようだ。

その後もMp16氏は残りのカブを売り続け、ビリオネアならぬ“ベルオネア”到達を記念する手紙とともに、聖杯となる報酬アイテム、ゆうびんきょくのもけいを入手した。これにより、2か月以上に渡る綿密な計画と、180時間以上に渡るゲームプレイに幕を閉じることとなった。

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なお、Mp16氏は配信後、3月3日にアメリカ南部にあるテネシー州で発生した竜巻災害において、本作のプレイを通じたチャリティー活動を行っている。また、今回のチャレンジ内容については、全体を取りまとめた動画もYouTube上に投稿予定とのことだ。

長時間に渡った前例のないユニークなスピードランの達成。極めて珍しい世界記録として、認められていくだろう。それとは別に、チャレンジ達成に至るまでの多大なる労力とその過程は、多くの人々の記憶に残るものになったのではないだろうか。