『スーパーマリオサンシャイン』スピードランにて「特定の改造セーブデータ」の利用が認められる。走者に不評の冒頭スキップのための異例の措置

ゲームをどれだけ早くクリア出来るかを競うスピードラン。同競技で世界的に人気タイトルのひとつである『スーパーマリオサンシャイン』にて、改造セーブデータの使用が認められるようになった。ゲーム冒頭に存在する一連のカットシーンをスキップできるようにするための改造セーブデータとなっており、コミュニティによる投票によって認可されている。ちなみにここで言う「認められる」とは、正式な記録としてSpeedrun.comのリーダーボードに載せることができるようになるということだ。

『スーパーマリオサンシャイン』にはゲーム開始直後に合計5分強のスキップ不能なカットシーンが存在する。これが単なるオープニングムービーならばいいのだが、実際は細かいカットシーンの間に短い操作パートが挟まる形となっている。具体的には新しいセーブデータでゲームを始めると最初にマリオ達がエアポートに着陸するまでの1分10秒のムービーがあり、その後はマリオをポンプの所まで操作する必要がある。ここでポンプの自己紹介や操作説明のムービーが1分20秒流れた後、エアポートのドロドロパックンを倒して最初のシャインを取得する操作パートとなる。これが終わるとマリオが逮捕され裁判にかけられ、島の掃除を命じられる3分40秒のカットシーンが流れ、ドルピックタウンからゲームスタートとなる。

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ゲーム開始直後のスキップできないムービーというのはスピードランにおいてはそこまで珍しいというわけでもないのだが、『スーパーマリオサンシャイン』のそれはアクションゲームとしては比較的長い部類であり、記録狙いでリセットを繰り返す時に少なからずダレてしまうポイントとして走者から疎まれていた節があった。今回の投票以前にも、「レースファイル」と呼ばれるこのセーブデータを正式な計測開始地点にするための投票が2018年に行われている。このレースファイルというのは裁判のカットシーンを見た直後のドルピックタウンにてセーブしたデータのことを指す。このレースファイルをロードした時の状況は、最初から通してプレイして裁判のカットシーンを見た後の状況と同じであるので、ここからの計測で問題ないのではとされたのだ。もちろん、このセーブデータは最初のシャインを取得するまでの操作パートが完全に無視されており、投票は賛成45%反対55%での棄却に終わった。しかし、「プレイヤーのテクニックによって差が出る操作パートをスキップする」というスピードランのタブーに大きく踏み込んだこの提案に45%もの賛成がついたという事実が、いかに『スーパーマリオサンシャイン』の走者たちが一連のムービーに辟易としていたかを示していると考えることもできるだろう。

では今回の投票で提案されている「改造セーブデータ」がどういうものなのかというと、上記の3つのカットシーンがスキップ可能となるようにフラグが調整されているセーブデータとなっている。具体的には、まっさらのセーブデータから冒頭のそれぞれのカットシーンが視聴済(=スキップ可能)であることを管理する6つのBoolean値のみ偽から真に変更されている。3つではなく6つなのは連続再生されているだけで内部的には6つのカットシーン扱いされているからであり、またこれらの値は普通にプレイしてこれらのカットシーンを見た時に変更される値と同じである。ポイントとなるのは、新しい計測方法はこの弄られたセーブデータを読み込んでいるだけであってゲーム自体にはなんの変更も加えていないということ。一方で、このセーブデータの作成はゲーム内では不可能であり、またこのセーブデータを事前にメモリーカードに書き込むことも改造されたゲームハードなしでは不可能であるということである。本記事では、こういった点を踏まえて「チート」や「改造」ではなく「改造セーブデータ」という呼称がもっとも適切であると判断している。

このセーブデータを利用した場合、ゲーム開始直後の3つのカットシーンはAボタン連打によってスキップすることが可能となる。ただし、従来の記録や他の計測方式との整合性を取るため、このセーブデータを利用した場合は5:40.07がタイムに加算されることになっている。これはもちろん本来ならば見なければならないカットシーンの合計時間である。ちなみに、この加算される時間は当然ながら最速でカットシーンをスキップすることを前提に計測されている時間であり、走者のボタン連打が遅れて最速でスキップされなかった場合は普通のセーブデータでちゃんとカットシーンを見た場合に比べては極わずかではあるがタイムロスとなる。タイム的な公平性は保たれているが、走者の心理的にはこの改造セーブデータを利用した方が有利であることもまた間違いないだろう。リセット毎に長いカットシーンを見る必要がないのであれば、序盤にハイリスクな戦術を取りやすくなることは想像に難くない。

※ Hacked Fileでの記録の動画。冒頭のカットシーンがスキップされていることが確認できる

この改造セーブデータにまつわる投票の結果はこのページから確認することが可能となっている。投票ではタイム計測方法がA~Dまでの4つが提案されており、それぞれについて是非が問われている。AはPeach Fileと呼ばれる計測方法であり、ポンプ入手のカットシーンを見た直後にセーブしたデータを読み込むことで最初の2つのカットシーンをスキップ可能とする方法だ。このセーブデータはゲームのみで作成可能であるが、一番長い裁判のシーンはスキップすることが出来ない。BはTwo-Fileと呼ばれる計測方法で、上記のPeach Fileとは別に裁判のシーンを見た後のセーブデータも用意しておき、その2つのセーブデータを併用する手法だ。Cは件の改造セーブデータを利用したもので、Dは冒頭の3つだけではなくゲーム中の全てのカットシーンを事前にスキップ可能とした改造セーブデータを利用したものとなっている。走者による投票の結果、計測手法AとCが賛成多数でリーダーボードに掲載可能な手法として認められた。

この結果について、賛否両論の様子を見せつつも英語圏のスピードランコミュニティ全体からは肯定的な反応が多い。逆に、日本の走者たちからはかなり否定的な反応が多々見受けられた。日本と海外ではゲームやゲーム機の改造についての価値観にかなりの違いがあり、それが表に出た形と言えるだろう。AGDQやSGDQといった海外のスピードランマラソンイベントではいわゆるハックロムも許可されている(どころかむしろ人気タイトルとして目玉扱いされていることもある)が、日本で開催される姉妹イベントであるRTA in Japanでは日本のコミュニティ事情も鑑みてハックロムは禁止となっていた。また、今回の投票は『スーパーマリオサンシャイン』スピードランコミュニティのDiscordにて実施されたもので、ある程度は日本の走者にも伝わっていたものと思われるが、反対的な風潮が強い日本コミュニティへの周知が徹底しておらず、意見が十分に反映されていないということで再投票が行われる可能性は存在する。

Speedrun.comのリーダーボードには、すでにこの改造セーブデータを利用した記録が投稿され並び始めている。今後この手法が圧倒的主流となっていくかどうかはまだ分からないが、少なくとも『スーパーマリオサンシャイン』スピードランコミュニティが長く悩まされ続けてきた論争に一つの形で結論がつこうとしているのは間違いないだろう。

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