1ドルをながめ続ける『One Dollar Simulator』Steamにて1ドル(100円)で配信開始。大自然で不快さと戦う禅体験
インディースタジオFunny Twinsは2月16日、『One Dollar Simulator』をSteamにて配信開始した。価格は1ドル(100円)。『One Dollar Simulator』は、その名のとおり1ドルをテーマとしたシミュレーターだ。具体的には、1ドルを眺めるシミュレーターである。
ゲームを開始すると、デカデカとしたタイトルロゴとUnityロゴが表示され、突如自然の中に放り出される。緑に囲まれた大自然。遠くには用を足すためのトイレや、コテージが見える。こんな自然を探索できればと胸をふくらませるかもしれないが、このゲームの主役は、足元にある1ドル札だ。1ドル札は3Dモデリングで制作されており、物理演算によって風になびき艶やかに舞う。一方で岩の下敷きになっている影響でその場にとどまっており、それに配慮してか主人公もまったく動くことができない。
では何をするのかというと、1ドル札を“ながめる”のだ。すでに印刷落ちしかけている現行デザインの1アメリカドルを穴が開くほど見ることができるほか、マウスを動かすことで1ドル札を見る角度が変えられる。マウスホイールを上下することで、1ドル札との距離を調整することも可能。正面の1ドル札に飽きれば、斜めから1ドル札を見ればいい。距離の近さに辟易した際には、遠くからながめればいい。1ドル札との関係性をプレイヤーが能動的に変えることができるのが、本作の特徴といえる。相手が人間ならなかなかこうはできないだろう。
またWキーを押すことで、1ドル札の視点になることが可能。ただし、これは筆者の推測に過ぎない。そもそも1ドルの札の主観視点であると思えるような説明も演出も、存在しないからだ。低い位置から周囲をながめることになり、目線を下に向ければギリギリ岩のテクスチャが見える。そうした条件から1ドル札になると推測している。1ドル札をながめていた環境とはまったく別の場所で、岩の視点になっている可能性もあるが、それはそれで怖いのでここは1ドル札になれるということにしておく。またWキーを押すことで、また1ドル札をながめる視点に戻ることができる。1ドル札がながめ放題で、その角度を変えたり、距離を変えたり、1ドルになったりできる。それが『One Dollar Simulator』の特徴であると言えるだろう。
1ドルで販売開始された時点でほとんどオチている本作は、システムこそシンプルで、発売前に告知されていた内容どおりだと思える。しかしながら、絶妙に不快な要素が詰められている。というのも、まずサウンドが不快なのだ。プレイを開始すれば壮大な環境音が聞こえてくるのだが、大自然の環境音の中には、不快なサウンドが混ぜられている。ハエの音だ。ハエの飛ぶ音が耳にまとわりつくのだ。遠くから聞こえるハエの音は、1ドル札視点になることでさらに近くなる。牧歌的で静かな世界であるにもかかわらず、強烈なハエの羽音が不快感を抱かせる。ヘッドホンを着用している際には、思わず床に投げつけたくなる不快さ。またこれは筆者がイライラしてキーボードを叩くうちに偶然気付いたことであるが、Mキーを押すことでラジオから奇妙なBGMが流れ出す。無駄にサラウンド仕様の小気味の良いBGMは、プレイヤーに恐怖心を抱かせる、もしくは陽気にすることだろう。
またリリース前には「Press W, Dude. The dollar has you!(Wを押して1ドルに身を任せよう!)」という文言が存在し、筆者はこれを「1ドルを手に入れられる」と解釈していたが(関連記事)、実際のところ1ドルを手に入れるのではなく、1ドルそのものになるのだ。1ドルをながめるゲームで、Wキーを押して1ドルをとることができれば、いくら奇妙なゲームでもある種のメッセージ性を感じられるのだが、前述したとおり、Wキーを押すことでプレイヤーは1ドル札“そのものになる”。原文の解釈は多彩なので、「ドルがあなたを所有する」といった翻訳も可能。内容を詐称しているわけではないが、唯一見えていたメッセージ性すらなくなり、筆者はなんともいえない不快感に襲われた。もしかすると、貨幣に囚われた人間の行く末を表現しているのだろうか。なぜ、ながめ続けた1ドル札そのものになる必要があるのだろうか。私には、わからない。
いずれにせよ、『One Dollar Simulator(Steamストアリンク)』は大自然の中で1ドル札をながめるという高尚なテーマと、それを阻害する不快さが両存する世界の中で、自我を懸命に保ち続ける禅じみた作品である。ちなみに実績はふたつあり、ひとつはすぐにアンロックされ、もうひとつは前述したラジオに関係しているという。実績ならすべて獲得したいという酔狂な方は、Steamコミュニティのユーザー書き込みをヒントにするといいだろう。ちなみに本作のファイルサイズは1.3GBほど。やたらと容量を食うラグジュアリー系禅ゲームであるので、ストレージには注意してほしい。