『Escape from Tarkov』の初心者向け海外記事が、盛大に間違っているとして話題に。薄すぎる装甲の「歩く戦車」ロードアウト

海外メディアPolygonが『Escape from Tarkov』初心者のために掲載した記事が、盛大に誤っているとし話題になっている。ガイド記事の悲しき宿命である。

海外メディアPolygonが『Escape from Tarkov』初心者のために掲載した記事が、盛大に誤っているとし話題になっている。記事内には初心者ガイドとして情報が掲載されているが、既存のプレイヤーから見るとかなり奇妙な内容になっており、海外掲示板redditの『Escape from Tarkov』のコミュニティを中心に注目を集めている。しかし現在記事は本文が削除されてしまっている。いったい何があったのだろうか。そしてインターネットミームに昇華されようとしている「The walking tank loadout」とは何なのだろうか。

『Escape from Tarkov』はロシアのゲーム開発会社Battlestate GamesによるハードコアかつリアリスティックなFPS/MMORPG。現在ベータテスト中の本作は、ほかのゲームの追随を許さないリアルな銃器の描写や、豊富なカスタマイズのオプションを特徴としている。ロシアの架空の地域ノルヴィンスク最大の都市タルコフは、2つの民間軍事会社をはじめとする勢力による紛争によって隔離された状態にあり、プレイヤーは都市タルコフから脱出しなければいけない。ゲームとしてはまずフィールドにスポーンして、敵を倒し物資を集め脱出地点まで移動していく。物資や戦利品をお金に換えることで装備を買うことができるのだが、本作では敵に倒され死んでしまうと装備は“すべて失われる”。リアル志向というだけあり膨大な数のアーマーや弾薬、カスタムパーツが用意され、資金的なリソースと相談しつつロードアウトの構成を考える必要があるゲームだ。

そんなハードコアゲームとあり、情報の把握が攻略の鍵となってくる。それゆえに、初心者にとってはガイド記事には一定の需要があるわけだ。Polygonは「Escape from Tarkov guide: Best gear to bring before a raid」と題した記事で、3種類のロードアウトを紹介していた。新規プレイヤーがフィールドへ持っていくべき装備を、出撃の目的ごとに解説している。その3つのロードアウトとは「The ‘naked’ loadout」、「The PVP thief loadout」、「The walking tank loadout」だ。

「The ‘naked’ loadout」はいわゆる斧マン/ナイファー(Hatching)と呼ばれるロードアウト。斧だけを持って、ほかの装備は持たずに出掛けるスタイルだ。「The PVP thief loadout(PvP泥棒)」は、「攻撃は最大の防御なり」がコンセプトのロードアウト。サブマシンガンと拳銃を持ち、アーマーは着用しない。素早く移動しつつほかのプレイヤーが倒した敵の死体から略奪しつつ脱出地点を目指す。「The walking tank loadout(歩く戦車)」は、アーマーとヘルメットを着用、バックパックとタクティカルリグ、医薬品を用意して完全武装。AKとモシンナガンの二丁持ちでまさに歩く戦車の名前にふさわしい装備だ。このロードアウトは「ゲーム内のほかプレイヤーすべてに脅威」となり、戦闘に勝つことを容易にしてくれると描写されている。

Image Credit: Polygon The walking tank loadout

一見したところ、装備のノウハウが分からない初心者に有意義なアドバイスを与えてくれるガイド記事。しかしながら、既存のプレイヤーの方々ならば“画像を見ただけ”ではっきりした違和感を抱くはずだ。というのも、「Walking Tank」のロードアウトは、装備の強さがモノをいうこのゲームでは最弱といっていいほど、心もとない装備セットなのだ。

『Escape from Tarkov』はほかのシューターゲーム同様に、アーマーを着てダメージを軽減できる。アーマークラスは2~6まであり、数字が大きいほど防弾性能が高く、クラス6ならほぼすべてのライフル弾を止めることができるだろう。しかし「The walking tank loadout」の特徴的な白い「3M」アーマーは、クラス2。ライフル弾で撃たれたら裸でいるのと変わりなく、拳銃弾も止められるか怪しいところだ。「3M」アーマーは、紙装甲だが何もつけないよりはマシな選択肢といっていいだろう。もう一つの「Kiver」ヘルメットも生かし切れていない。キャラクターの頭部には目、あご、側頭部、頭頂部など細かくヒットボックスが分割されている。「Kiver」ヘルメットは固くもなく耳がふさがって音も聞き取りづらいが、フェイスシールドをオプションで取り付け、目とあごを守ることができるのが利点。せっかく「歩く戦車」になるのだから、フェイスシールドを付けない手は無いだろう。

Module-3M bodyarmor

ディープなゲーマーが集う redditコミュニティは、この記事を見逃さなかった。すぐさまこの記事は拡散され、記事を見て爆笑する動画が8000以上ものUpvoteを獲得。それ以降「Walking tank」をおちょくる投稿が頻繁になされている。あまりにも貧弱すぎる装備を「歩く戦車」と言い放ち、初心者を手ほどきしようとしている内容が、笑いを誘っているわけだ。「Walking tank」は一時的に、『Escape from Tarkov』コミュニティでのトレンドワードのひとつになっていた。

そのほか、「このゲームはインチキだ。Walking tank loadoutなのに一発で死んだぞ」と嘆くユーザーの投稿も確認できる。投稿者は「3M」アーマーと「Kiver」ヘルメットを付けて気分上々でガソリンスタンドに立ち寄った。すると怒り狂った男が撃ってきて、自分は胸に一発食らっただけで死んでしまったという。もちろんこれは冗談なのだが、記事をそのまま信じてしまうと起こりかねない状況だ。「Walking tank」を新たにタスク(クエスト)に加えたらどうかと提案するユーザーもいる。そのタスクでは「Walking Tank」のロードアウトで何人かキルしなければならない。そしてタスクを完了した報酬には、真の歩く戦車にふさわしい「FORT」アーマーが与えられるのだ。

当のPolygonも記事の誤りを認めており、現在本文を削除し初心者に誤解を与えうる内容を記載したことを謝罪している。一方で、この記事の少なくとも良かった点として「Walking Tank」はミームとして永遠に記憶されるだろうともコメント。さらにPolygonは今回の騒動を受け、TwitchのトップストリーマーであるSacriel氏のインタビュー記事を1月25日に掲載した。こちらのインタビュー記事では『Escape from Tarkov』初心者に向けて、Sacriel氏が丁寧かつ正確にアドバイスを送っている。適切なアーマー/ヘルメットの選び方や、初心者向けマップの紹介などベテランプレイヤーから有益な情報を得ることができるだろう。内製記事で誤った記述をしてしまったことを踏まえ、すぐにその道のプロフェッショナルによるガイド記事を掲載するというのは、なかなかに機転の効いた行動であるといえるかもしれない。

ガイド記事は確かな知識がある者が書かなければ、初心者を手助けするどころか混乱を招きかねない。情報を正確に記述する必要性は、ガイドに限らず記事の書き手全員に求められること。Polygonによる誤情報の発信については、どこか他人事だと思えない同業者もいることだろう。筆者も情報発信には気をつけていきたいところだ。

なお、ここ数週間で『Escape from Tarkov』は急速に新規プレイヤーを獲得している。Twitchtrackerによると過去1週間の平均視聴者は『フォートナイト』に次いで5位。大量の新規プレイヤーに対応するため、Battlestate Gamesは各地域に新たにサーバーを用意している。先日東京サーバーも実装されたため、正式リリースに向け快適なプレイ環境も整いつつある。『Escape from Tarkov』は現在公式サイトからPC版が購入可能だ。気になっている人は購入してみてはいかがだろうか。ただし、ガイド記事選びにはご注意を。

Kaisei Hanyu
Kaisei Hanyu

映画とゲームが大好き。オブリビオンからゲーム人生が始まりました。

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