Ubisoftが、自社作品の方向性を指示するエディトリアルチームを再編成したと、海外メディアのVGCやGameSpotが報じている。Ubisoft全作品のクリエイティブ・ディレクションをつかさどるチームであり、増員とチーム構造変更とともにクリエイティブ面での方針を抜本的に見直し、「Ubisoftタイトルの多様化」を目指すという。
どのような問題に対処するためのチーム再編なのか
Ubisoftはこれまで、フランチャイズ横断的な取り組みにより、ゲームシステムやデザインの磨き上げを続けてきた。オープンワールドデザインの流用や、近年進行しているUbisoftタイトルの総アクションRPG化。ひとつのタイトルで導入した新システムを、別IPのタイトルに持ち込むことで相乗効果を狙い、IPの垣根を超えたUbisoftらしさ、Ubisoftゲームとしての統一性につなげていた。ひとつのプロジェクトで学んだことを別のプロジェクトで生かす。その統一されたビジョンづくりに貢献してきたのが、先述したエディトリアルチームである。
組み合わせ方がうまく噛み合えば、『アサシン クリード オデッセイ』のようなヒット作が生まれる。その一方で、同じことを繰り返すとマンネリ化を招く場合もある。たとえばUbisoftタイトルでは、「タワーを登ってマップ表示域やファストトラベル地点をアンロックする」要素が含まれるケースが続いた。そうした中、2018年に発売された『ファークライ5』の冒頭、主人公が電波塔を登るシーンでは、マップ各地の「塔に登らせはしないから心配するな」という、メタジョーク的な台詞が挿入されていた。「Ubisoftオープンワールド=タワーを登る」というイメージが浸透していることを示す事例であり、そのイメージからの脱却を意図してか、近年の同社作品は逆にタワーシステムを採用しない傾向にある。
余談ながら『アサシン クリード』初期作品のクリエイティブ・ディレクターを務めたPatrice Désilet氏は昨年、同シリーズに限らず無数のオープンワールドゲームでタワーシステムが採用されるようになったことを受け、「私のせいです、ごめんなさい」とゲームイベントのパネルセッションにて冗談まじりに謝罪。会場客の笑いを誘っていた(Destructoid)。ただ、オープンワールドゲームの一要素として定着するほどのシステムを取り入れたというのは、やはり大きな功績だろう。
最終的に笑い話につながったタワーシステムとは異なり、ファンの怒りを買った応用事例もある。それが2019年の『ゴーストリコン ブレイクポイント』である。同作では、他のUbisoft作品を追従するようにRPGメカニックを取り入れ、武器や防具に装備スコアやレアリティの概念を導入。そうしたRPG要素は、タクティカルシューターである『ゴーストリコン』には適していないのではないかと発売前から懸念され、結果としても同作は評価・売上ともに不調。シリーズファンを落胆させる結果となった。この『ゴーストリコン ブレイクポイント』の売上不振が、企業全体としての開発プロセス見直しのきっかけとなっている(関連記事)。
ひとつのIPで成功したからといって、似たフォーマットを他の既存IPに当てはめて成功するとは限らない。Ubisoft CEOのYves Guillemot氏が「他作品との差別化不足」を『ゴーストリコン ブレイクポイント』の不振理由のひとつとしてあげたように(上記関連記事参照)、フランチャイズ横断的な取り組みが必ずしも最善の策ではないことが垣間見えた事例でもあった。そうした事態を受けての、チーム再編である。
どのように再編したのか
では、再編成を受けてエディトリアルチームはどのように変わったのだろうか。まず同チームはもともと、Ubisoft本社のあるパリのデザイナー・プロデューサー勢100人ほどが集うチームであり、直接はゲーム開発に携わらないものの、各プロジェクトの方向性を決める上で多大な影響力を有している。再編成前は、COOのSerge Hascoet氏が全体責任者としてチームを牽引。Hascoet氏配下に直接、プロジェクトごとのラインデザイナーやラインプロデューサーがつく構造であり、VGCによると、同じ少人数のテイストやアイデアが複数のプロジェクトに反映されることから、Ubisoftタイトル特有の統一性/類似性が生じていたとのこと。
再編成後は、Hascoet氏が全体責任者として残りつつも、フランチャイズごとにヴァイス・プレジデントをアサイン。各フランチャイズチームが自立的にディレクションを進めていくという。複数の小チームに分けることで、フランチャイズごとに異なる個性が発揮されるようになると見込まれている。
再編後のメンバーには、『スプリンターセル』過去2作のクリエイティブディレクターも
また再編成後は、パリ以外のスタジオに在籍するメンバーもチーム入りを果たす。そのうちのひとりが、カナダのスタジオにいるMaxime Béland氏だ。Béland氏は『Rainbow Six: Vegas』『スプリンターセル コンヴィクション』『スプリンターセル ブラックリスト』のクリエイティブ・ディレクターを歴任してきた人物であり、Ubisoft Torontoの共同設立者でもある。2019年2月には20年間在籍してきたUbisoftを一度退社。その後はEpic Gamesにてクリエイティブ・ディレクターを務めてきたが、1年足らずでUbisoft復帰を果たした。復帰後はエディトリアルチームのヴァイス・プレジデントにアサインされているという。どのフランチャイズを担当するのかは不明。なおBéland氏は、初代『アサシン クリード』のゲームデザインディレクターや、『ファークライ』シリーズ4作目以降の部分的なクリエイティブ・ディレクションも歴任している。
『ゴーストリコン ブレイクポイント』の不振を受けた開発プロセスの見直し。それは『ウォッチドッグス レギオン』『レインボーシックス クアランティン』『Gods & Monsters』の発売延期、そして指針役となるチームの再編成に至った。プロジェクト間の「差別化」が再編成の目的とされていることから、新体制下のUbisoftタイトルからは、これまでとは違った傾向が見られそうだ。